ポリタス

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【総選挙2014】今年の紅白、小林幸子と美川憲一の衣装対決どうなるんでしょうか

  • 古市憲寿 (社会学者)
  • 2014年12月15日


Photo by Jesslee CuizonCC BY 2.0

津田さん、ポリタス大盛況ですね。おめでとうございます。なにこれ、大喜利じゃないですか。選挙をテーマにして、色んな人が面白いことや、意味あることを言おうとしている。読むだけで選挙行った気分になりますね! 僕は白竹田と黒竹田の対談が好きです。紅白楽しみですよね。今年は小林幸子と美川憲一の衣装対決どうなるんでしょうか。

政治のことを書くって気乗りしないんです。だって、何を言っても誰かからは叩かれるから。まあ、「敵」と「味方」を区別して何らかの政策を実現させようとするのが政治だって定義もあるくらいだから仕方ないんですけど。

それにしても、消費増税をちょっと肯定しただけで「経済学者以外が経済のことを語るな」みたいな反応はひどいと思いますけどね。別に、経済だけが消費増税を決めるための論点ではあり得ないし。あと「原発」も同じような感じ。「安倍政権」もそうか。イデオロギー闘争って何でここまで人の心をかき立てるんでしょうね。

僕が今、関心があるのは、なかなか気管支炎が治らなくて困っているのと、LINEってもはや国民的インフラと言ってもいい存在なのに検索機能機種変の時の移行があまりにも面倒だっていう不満と、リニアモーターカーなんか通すよりも東海道新幹線の値段を下げたほうが東と西はもっとつながるんじゃないかってことと、消防法のせいでライブでの火薬使用量などに制限があって派手なパフォーマンスができないってこと。

どれもあんまり今回の選挙に関係がないんですよね……。気管支炎は自分で病院行ったり漢方でも飲めって話だし、LINEは森川さんに愚痴れば済むことだし、リニアはJR東海の話だし、消防法はやや政治に関係あるけど、どっちかといえば管轄する消防署長マターだし。

一応、ニュース番組でコメントしたり、新聞で政治のことをコメントするくらいには意識の高い僕でもこれですよ。こういう仕事をしてなかったら、僕ももっと政治なんかに関心なかったと思います。

最近、友だちから「なんで解散したの? 政権変わるの?」って聞かれました。小四じゃなくて、20代後半の女の子です。たぶん、普通の感覚ってこんなもんじゃないかなあ(こういう意識高いサイトで「普通」とか書くと怒られるけど、まあいいじゃん)。

要は政治がすごく遠いんですよね。別にこれは政治家が悪いって話ではない。国民のせいでもない。成熟した社会であればあるほど、政治、特に国政が遠くなるってのは別に不思議なことではありません。そりゃ100年前だったらどれくらい軍艦持つかで、この国が植民地になるか、もしくはどれだけ他国を植民地にできるかとか、国の命運を政治が握っていたのかも知れない。50年前も日米安保をどうするかとか、政治マターの外交問題がすごく大事だったかも知れない。

でも今はどうでしょう。いや、そこそこ大事だと思いますよ。集団的自衛権特定秘密保護法原子力政策近隣諸国との外交問題。今の政権が全て正しいことをしているとは思わない。だけどそれってやっぱり遠いことなんですよね。

「戦争になったらどうするんだ」とか脅す人がいますけど、たぶん総力戦が起こる可能性が極めて低い現代で、仮に日本が他国と交戦しても、99%以上の人にとってそれは、海の向こうで起こる戦争と同じようなものになると思います。戦争に限らず、どんな政治的に重大だと思える事件が起こっても、人々の毎日の生活って実はそこまで急には変わらない。

だって僕らはマクロの世界に生きているわけじゃないから。そりゃGDP増えたり、日本の国際競争力が上がったりブランド力は上がったほうがいいと思いますけど、そういうマクロの数字は僕たち一人ひとりの生活には直結していない。

当たり前ですよね。隣にいる人がうれしそうとか、飼ってる猫がかわいいとか、働いている会社の取引先が好調とか、そういうことのほうが個人の生活には直結している。国っていうすごくマクロなもの、その政治が遠いのはある意味で当然なんです。むしろ、マクロなものに興味を持たないだけで、マクロで見て好ましいことから反するようなことを思ったり発言しただけで、糾弾される社会のほうが怖いよ。

たぶん、投票によって変わるものって、その人の生活における数%くらいじゃないかな。数%もないか。輸出系企業に勤めている人とか、子育て世代の人とか、原発立地地域に住んでいる人とか、生活保護を受けている人とか、置かれた立場によってこのパーセンテージは変わると思いますけど、平均したらそんな大きなパーセンテージにはならないはずです。

別に、かっこつけて選挙行くなって言っているわけじゃないんです。どちらかといえば選挙は行ったほうがいいと思いますよ。税金の一部は選挙のために使われているわけで、選挙に行かないのは、ライブチケット買って(買わされて)ライブ行かないようなものですから。夜の選挙特番も投票行ったほうが面白く見られると思うし(あ! 津田さんと一緒にフジテレビの番組に出ますよ!)。

というわけで、このポリタス見ているくらい意識高い人は、選挙行ったらいいんじゃないですか。それで別にあなたの生活はほとんど変わらないし、日本社会もあなたが望んだようには変わらないだろうけど。強いて言うなら、選挙特番に出る津田さんと僕のために選挙には行って下さい。

著者プロフィール

古市憲寿
ふるいち・のりとし

社会学者

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。「経済財政動向等についての集中点検会合」委員、内閣官房「クールジャパン推進委員」メンバーなどを務める。日本学術振興会「育志賞」受賞。最新刊は日本社会の様々な「ズレ」について考察した『だから日本はズレている』(新潮新書)。

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