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【総選挙2014】エネルギー政策を争点としたいと思っている有権者向けの投票ガイド

  • 澤昭裕 (国際環境経済研究所所長)
  • 2014年12月10日


© iStock.com

エネルギー政策、特に原子力問題について、今回の選挙ではそれほど大きな争点となっているようには見えない。福島第一原子力発電所の事故以降、原子力政策を巡って強い関心を抱いてきた人にとっては、そこが物足りない。

各党の公約も、原子力の賛否は分かれるものの、その内容は薄っぺらなものが多いという印象ではないだろうか。そこで、本稿では、エネルギー政策を争点として投票先を決めたいと思っている人に、基本的な視点を提供しよう。

エネルギー政策の公約の合否を判断する基準

エネルギー政策の目標は、安定供給、経済性確保、環境問題(特に温暖化)への対応の3つがその柱

まず、覚えておいてほしいのが、エネルギー政策の目標は、安定供給、経済性確保、環境問題(特に温暖化)への対応の3つがその柱となるということだ。ところが、この3つをすべて同時に満足することは極めて難しい。というのも、どのエネルギー源も長所短所があって、一つだけのエネルギー源を確保すればそれで済むというわけではなく、様々なエネルギー源を組み合わせてバランスの取れた構成を目指して行かなければならないからだ。これがいわゆる「エネルギーミックス」と呼ばれるものだ。

各党とも、自らが目指すエネルギーミックスが定量的に示さなければ、どのようなスタンスと考え方でエネルギー政策を考えているのかが見えない。原子力の賛否だけを声高に叫んだり、再生可能エネルギーを持ち上げることで事足れりとしている公約は失格だ。政治的人気取りには熱心だが、頭の構造が雑だということを証明しているようなものである。「選挙公約」は政策文書ではないため、そこまで定量的な詳細を求めることは無理だろうが、少なくとも上の3つの目標間のトレードオフを意識して書かれているかどうかはわかる。

この3つの政策目標の重みは歴史的にも変化してきた。それを次に見よう。

エネルギー政策小史――まずは安定供給と経済性

日本は化石燃料資源に恵まれず、エネルギーの自給率は長年数%台にとどまり、食料自給率と比べても圧倒的に低い。いつなんどきエネルギー危機に襲われるかわからない脆弱な経済社会構造は、今後革新的な技術が登場するか新たな資源が発見・開発されない限り、日本の永遠の運命とでも言うべきものだ。

日本のエネルギー政策は、こうした状況を特に意識した1973年の第一次石油ショック後、まずは「安定供給」すなわち資源外交備蓄といったエネルギーの量的な側面に力点を置く。さらに石油火力一辺倒の電源構成を多様化することなどを通じて、供給リスクを最小化する方針が柱に据えられた。


Photo by 多摩に暇人CC BY 3.0

こうした政策努力の結果、1990年前後に量的な確保にある程度メドがつくと、次はできる限りエネルギーを安価に供給することが第一目的となる。具体的には、電気料金を始めとするエネルギー価格上昇の抑制を図る政策にシフトしていく。エネルギーミックスが多様なエネルギー源で構成されたバランスの取れたものとなる一方、需要面でも省エネが進み、エネルギーユーザーの関心は量的安定供給から経済性に移っていったからだ。

エネルギー分野では、安定供給のための設備投資を確実なものとするためなどの理由から、歴史的に料金や価格が法的・実態的に規制されていたが、ここにきて石油産業や電力・ガスの事業規制を改廃する自由化政策が敢行された。

温暖化問題の登場で変容するエネルギー政策

こうした量と価格の両面に着目した伝統的なエネルギー政策に対して、1990年代に入ってからは地球温暖化問題の深刻化を背景にした環境問題への対応が、エネルギー政策の新たな課題として登場する。1997年には先進国の温室効果ガス排出削減を定めた京都議定書が成立し、その後はエネルギー政策の中心を地球温暖化問題が占めるようになる。電源や交通手段による化石燃料消費の最少化と低炭素燃料源へのシフトがその柱となった。

こうした流れが極限まで行ったのが、鳩山元総理率いる民主党政権の1990年比2020年温室効果ガス25%削減目標の国際公約化だ。それは、低炭素電源である原子力と再生可能エネルギーに大きくシフトした(発電量構成で4分の3)政策だったが、ここで東日本大震災と福島第一原発の事故が起こったことで、エネルギー政策の混乱が始まる。


Photo by Abhisit VejjajivaCC BY 2.0

すなわち、温暖化政策に大きく舵を切ったところで、原子力発電の継続に大きな問題が生じたのだから、化石燃料の火力発電に戻ることはできるわけがない。その結果、いきおい再生可能エネルギーという、高コストで不安定かつ量的にも心配なエネルギー源による一本足打法に頼ることになってしまったのである。

安倍政権の評価と今回の解散の是非

安倍政権になって、この混乱を収拾するため、野心的に過ぎて現実味のなかった鳩山元総理の25%削減構想は国際的にも撤回し、エネルギー政策を安定供給と経済性を重視する伝統的なものに回帰させた。原子力の再稼働方針がエネルギー基本計画という閣議決定の形で位置づけ、化石燃料の安定的かつ低廉な確保を目指した資源外交を積極的に進めることで、ようやくエネルギー政策が合理的なものになり始めている。

ところが、いまだに次の3つの大きな課題が残ったままだ。今回の衆議院解散は、こうした政策議論を若干遅らせてしまうという問題はある。しかし、いつ解散があるかもわからないという状況では、原子力問題を含むエネルギー政策のような中長期的な政策課題は腰を落ち着けて取り組めないというのも真実だ。その点、次の政権は当面選挙を行うことはないのだろうから、これら3つの大きな課題にじっくり取り組んでほしい。

今後取り組むべき3つの課題――投票の参考に

課題解決に向けての問題点を私個人としてどう見ているかを述べたい。

第一に、原子力を巡る不透明性・不確実性の払拭だ。原子力政策をどうするのかだけが後回しにされてきた。本来は電力自由化再生可能エネルギー導入促進政策などと同時並行的に、総合的な検討の対象とするべきものだ。しかし、民主党政権下では、「脱原発」というそれ自体を目的とするかのような思考停止の状態で終わり、自公政権になっても電力自由化議論が先行する中、ここ最近ようやく原子力政策議論が深まりつつある。

原子力政策は、足下の再稼働問題のみならず、中長期的な技術・人材の維持や設備の更新問題最終処分や再処理問題を含む核燃料サイクル問題技術革新を促すような安全規制のあり方など課題山積だ。世論調査をすれば、半数以上の人々が否定的な反応を示すような要素を含む問題ばかりが、未検討のまま積み残されている。

個々の政治家のリスク回避行動が、日本の経済や国民生活全体をリスクに晒す

こうした世論に寄り添って、反対、否定の評論家的言動だけを繰り返しておりさえすれば、政治的リスクは避けられよう。しかし、そうした個々の政治家のリスク回避行動が、日本の経済や国民生活全体をエネルギーの量的不足や価格高騰によるリスクに晒すことになるのだ。

第二に、再生可能エネルギー導入方針についての再検討である。昨秋のいわゆる「接続保留」問題が契機となって、固定価格買取制度の問題点が明らかになってきている。今後エネルギーミックスを検討していくに当たって、その導入量、再生可能エネルギー内での電源バランス、国民負担額の制限などについて、一定の方向を示し、固定価格買取制度の廃止又は抜本的見直しを行うことが必要だ。


Photo by Haruhiko OkumuraCC BY 2.0

最後に、地球温暖化問題との折り合いを付けたエネルギーミックスの提示とその政策的担保策の検討である。今年末のCOP20では京都議定書に替わる新たな枠組み交渉の山場を迎えるが、日本がその場でどのような約束を行うのか。温室効果ガスの削減は経済活動にマイナスの影響を持つことから、当然削減目標とコスト負担との関係を慎重に考える必要がある。

さらに、仮に政府が目標値として一定のバランスを明示しても、そのバランスを本気で実現しようと思えば、民間事業者の設備投資への介入が必要となる。これは、実は電力・ガスの自由化とは逆の方向の政策となってしまうが、その折り合いをどう付けるのか答えを示さなければならない

エネルギー政策安定供給、経済性、環境性の3つの政策目標のうち、どの目標に重みを置くことを重要だと考えているかが投票の決め手

結局、有権者個々人として、エネルギー政策安定供給、経済性、環境性の3つの政策目標のうち、どの目標に重みを置くことを重要だと考えているかが投票の決め手になる。ただし、一つの目標を充分達成するためには、他の二つの目標の達成にしわ寄せが来ることを認識しておく必要がある。原子力対再生可能エネルギーという二項対立でしかエネルギー政策を示していない政党では、こうした有権者の選択に堪えることはできないだろう。

著者プロフィール

澤昭裕
さわ・あきひろ

国際環境経済研究所所長

21世紀政策研究所研究主幹。NPO法人国際環境経済研究所所長。1957年大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業、通商産業省入省。1987年行政学修士(プリンストン大学)。2004年8月〜2008年7月東京大学先端科学技術研究センター教授。2007年5月より21世紀政策研究所研究主幹。2011年4月より国際環境経済研究所所長。

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