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【衆院選2014】2014衆院選に想う:国民は警戒せよ

  • 米倉誠一郎 (一橋大学イノベーション研究センター教授)
  • 2014年12月14日


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最悪で最良の制度

かつてウィンストン・チャーチルは以下のように述べた。

It has been said that democracy is the worst form of government except all the others that have been tried. - Winston Churchill

確かに、民主主義は手間もかかり、時に不条理な多数決が横行することもある。しかし、現存する中では最良の制度なのである。その制度を守るためにはいくつかの、しかしシンプルな約束事がある。まず、選挙は透明な環境下で公約をベースに行われ、多数決で被選挙者は選任される。当選者には権限と任期が与えられ、その期間中に公約の遵守が求められる。公約の批准も過半数をベースとした多数決で決められる。

第2次安倍内閣の公約

第2次安倍内閣は経済再建を目指すアベノミクスを中心にした公約で政権を獲得し、2年間国政に当たってきた。その中で、最も注目されたのは「大胆な金融緩和」、「機動的な財政出動」、「成長戦略」であった。しかし言論NPOが行った有識者に対するアンケート(12月1日)では、この経済政策に対する評価は5段階評価で2.8ポイント、昨年より0.4ポイントほど下げることになった。公約に掲げられた11分野に対する評価は全体で2.5ポイント。確かに、この20年にわたって続いたデフレを克服し、成長軌道に乗せるのは決して簡単なことではなく、2年程度で成果が出せるものではない。したがって、この段階で最終判断することには意味がない。また、消費税2%上げを延期したことも、当初から経済状況を鑑みて判断すると言っていたので想定内ではある(個人的には、延期はいい判断だとは思えないが)。

何のための解散選挙なのか

以上の状況を冷静に考えると、安倍内閣の公約遂行はまだ道半ばで、最低でも一定の見通しがつくには2年はかかりそうである。すなわち、現在の衆議院議員の任期中に成果を上げるべく全力を挙げる時と考えるのが妥当である。しかも、現在の状況は安倍内閣が全力を挙げることが出来ない状況にはない。現在、与党は衆議院の67%(自民61、公明6)、参議院でも55%(自民47、公明8)でともに過半数を取っており、ねじれ状態ではない。

にもかかわらず、なぜこの重要な時期に、衆議院任期を2年以上残しながら、しかも600億円を超える国費を使って選挙をしなければならないのだろうか。この選挙のために重要な法案が廃止あるいは繰り越しとなり、予算編成前に多くの行政業務が停滞を余儀なくされている。

現在以上のフリーハンドを手にすることが目的

なぜこの時期なのか? 各種報道で推察されているように、野党の選挙態勢が整わない今、しかも、公約の成果が出そろわない今、安倍内閣の支持率がまだ高い今ならば、300議席という大台を確保できると踏んだからであろう。すなわち、現在以上のフリーハンドを手にすることが目的としか考えようがない。

現状でも公約遂行には十分な条件が整っている。にもかかわらず、必要以上のフリーハンドが必要というならば、それは何のためなのだろうか? 国民は強大な与党あるいは個人が必要以上の権力とフリーハンドを望む時は警戒しなければならない。冷静沈着に今回の投票行動を考えて欲しい。


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著者プロフィール

米倉誠一郎
よねくら・せいいちろう

一橋大学イノベーション研究センター教授

1953年東京生まれ。アーク都市塾塾長を経て、2009年より日本元気塾塾長。一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学歴史学博士号取得(Ph D.)。1995年一橋大学商学部産業経営研究所教授、97年より同大学イノベーション研究センター教授。現在、プレトリア大学GIBS日本研究センター所長、季刊誌『一橋ビジネスレビュー』編集委員長も務める。イノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセス、組織の史的研究を専門とし、多くの経営者から熱い支持を受けている。著書は、『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』、『脱カリスマ時代のリーダー論』、『経営革命の構造』など多数。

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