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【総選挙2014】どうしたら選挙はオムレツよりもおいしくなるか?

  • 木村草太 (首都大学東京准教授)
  • 2014年12月12日


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Ⅰ 選挙=公務?

先日、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんとの対談で 、「なぜ、有権者は消費者マインドで選挙してはいけないのか」が一つのテーマになりました。詳しくはリンク先を読んでいただきたいのですが、私がそこでお話している「選挙権公務説」についてちょっとだけ説明すると、こういうことです。

「選挙」は、お酒やタバコと並んで、「大人になったらできるもの」の一つ(でも、お酒やタバコと違って、大してやりたいとも思わないもの)です。「大人になったらできるもの」というのは、要するに、「自分のやったことへの責任を取れる人だけがやれること」なわけです。お酒やタバコは、自分の楽しみのためにするものですが、飲みすぎ、吸いすぎは、健康上のリスクもあるので、それを自覚してやりましょうね、というわけです。

ごく普通の国民が、選挙のときには、国民の代表者を選ぶ、重要な「権力者」になっている

ところで、お酒やタバコは自分の楽しみですから、リスクさえ自覚していれば、自分の好きにしていい。でも、選挙は、国会議員という権力者を選定する「権力の行使」です。ごく普通の国民が、選挙のときには、国民の代表者を選ぶ、重要な「権力者」になっているのです。

こんなこと、普段は考えないでしょうが、有権者一人ひとりが「権力者」であるというのは、とても大切なことです。それは、死刑を宣告する裁判官、あるいは断固たる外交宣言を発する外務大臣と同じように、きちんと責任感を持たねばならないということだからです。

裁判官が、「死刑判決は書きたくないし、かといって、凶悪犯に懲役刑を言い渡す気にもならない」と言って、判決を書くのをさぼったらどうでしょうか。あるいは、外務大臣が、「あの国に文句言うと怖いし、文句言わないと国民からの突き上げが嫌だなあ」と言って、仕事に来なかったら、あまりの無責任さにあきれることでしょう。こう考えると、「投票したい候補がいない」から投票しない、という選択は、「権力者」の行動としてあまりにも残念です。たとえ、一人ひとりの影響力は小さかったとしても、その権力は責任をもって行使されなければならないのです。

選挙権を行使するときには、この権力をどう使ったら「国民全体のために」なるだろうか、と考えてみてください。いろいろ考えてベストな候補者が見つかったなら、その人に投票する。完璧ではないにしても、「まぁ、この人のほうがマシだ」と思える候補者に投票するのもありでしょう。あるいは、現在の候補者はだれも信頼できないことを表明するために、「国民全体のために」白票を投じるのも一つの結論です。


朝日新聞社提供

憲法の教科書では、「選挙は、個人の権利であると同時に、重大な公務なのだ」と説明されているのに、当たり前すぎて誰も話さないので、すっかり忘れてしまっている人も多いようです。投票日に、このことを思い出していただけたらうれしく思います。

Ⅱ 今回の選挙のつまらなさ

さて、そうはいっても、今回の選挙はなんだかつまらない、オムレツでも食べていた方がマシだ、と思う人も多いでしょう。オムレツといえば、私には一つ思い出があります。憲法のゼミに出ていたとき、こんな議論になりました。

「選挙権は、国民固有の権利だよね。じゃあ、『国民』の範囲ってどうやって決めるんだ?」

「そりゃ、国会が国籍法で決めることだろう。」

「じゃ、国会議員はどうやって選ぶんだ?」

「そりゃ、国民が選挙するんだろ。」

「いや、だから、その国民の範囲は、どうやって決めるんだって、言ってるんだよ。」

「そりゃ、国会議員が……」

と、こういうテツガク的な会話の後、私は、「こりゃ、『鶏が先か、卵が先か』と一緒だな」と言おうとして、「これは『オムレツが先か、卵が先か』と一緒だな」と言い間違えてしまいました(卵が先に決まっています)。びしっと決めたつもりが、台無しです。

それはさておき、とにかく今回の選挙はつまらない。オムレツでも食べよう、いや、投票日に一日中オムレツを食べ続けるわけにもいかないので、卵でも割っていようという気分の人もいるかもしれません。

なんだかオムレツの話が長くなりましたが、投票率も過去最低になるだろうという予測が出ています。なんでそんなにつまらなくなってしまったのか、という点については、大澤真幸先生の鋭利な分析がありますので、こちらをご覧ください。私がオムレツにこだわる理由もそこにあります。

Ⅲ 選挙を楽しくするアイデア

さて、「選挙権は国民の仕事(公務)でもあるのだ」なんて言われたところで、正直言ってワクワクしません。「よし! 気合を入れて権力を行使するぞ!」と思う人は、「大学の講義が楽しくて仕方がない」と思う人と同じぐらい少ないでしょう。

大学教員も最近は、「授業評価アンケート」という消費者マインドに基づく評価にさらされながら、品質向上に努めるわけですが、選挙だって「選挙満足度」を上げる工夫は大事です。

そこで、「選挙を楽しくするアイデア」をいくつか紹介したいと思います。

1 解散権を制限する

実は、「首相が、好きなときに、好きな理由で解散できる」制度は、あまり一般的ではありません

まず、大統領制の国では、かなり解散権が制限されています。大統領は国民に対して直接責任を負っているので、大統領と議会との間に不一致があることは、制度上想定されており、解消すべきとは考えられていないからです。たとえば、アメリカの大統領には、そもそも議会の解散権はありません。また、フランスは半大統領制といわれる制度で、大統領に国民議会の解散権がありますが、憲法に一定の制限があります。また、過去には、大統領の都合だけで解散したことに強い批判が集まり、解散後の選挙で、大統領の属する党が大きく議席を減らしたこともあります。

では、内閣が国会に対して責任を負う議院内閣制の場合には、どのような制度がとられているのでしょうか。

ドイツでは、首相(連邦宰相)の解散権は、憲法で制限されています。具体的には、

(1)議会が首相の不信任決議をしたとき、あるいは

(2)首相が提案する信任決議を議会が否決したときのみ、解散ができる

という制限です。また、(2)信任決議の否決の場合、議会が、新しい首相を指名した場合、解散権は失われます。解散は、議会と首相との対立関係が解消不可能な場合に、安定した関係を作り出すための制度なので、このような制限がかかるわけです。

では、議院内閣の母国、イギリスでは、どうでしょうか。イギリスでは、長らく、首相が好きなときに解散できる制度になっていました。日本の解散権のイメージも、イギリスの首相に由来しているのだと思います。

しかし、そのイギリスでも近年、首相が自分に有利なタイミングを選んで、で恣意的に解散することへの批判が高まり、2011年に、「議会任期固定法」 という法律ができました。それにより、

(1)議会が3分の2の多数で解散を決議した場合と、

(2)首相への不信任決議が可決された場合に、

解散権が制限されました。

話を今の日本に戻しましょう。こうしてみてくると、今回の選挙がいまいち盛り上がらない理由の一つは、野党側の準備・調整不足です。野党の不甲斐なさもありますが、首相が、自分に有利なタイミングで解散を打つ慣行にも問題がありそうです。

改憲を掲げる政党は、「解散権の制限」というテーマにも、ぜひ取り組んでほしいと思います。それが導入されれば、野党がある程度準備ができるし、争点も明確になりやすい。有権者にとって、楽しい選挙になりそうです。

2 選挙制度を考える

現在の選挙制度は、小選挙区比例代表並立制です。長い間、こういう形で選挙をしているので、これが当たり前のように思ってしまうところですが、世界に目を向けると、選挙には様々な方法があります。ドイツとフランスの制度は、複雑でよく工夫されているので、ちょっとご紹介しましょう。

ドイツの制度は、「小選挙区比例代表併用制」と呼ばれています。有権者が、小選挙区と比例区の2回投票するのは日本と同じです。しかし、各党の議席数は、基本的には比例区の結果によって決まります。そして比例区に基づいて獲得した議席数を、まず、小選挙区の当選者に割り当てます。それで余った分(比例区で得た議席数-小選挙区の当選者数)の議席は、比例名簿の順番で割り当てます。比例区で獲得した議席数よりも小選挙区の当選者数が多い場合には、小選挙区の当選者全員が議席を得ます。

ややこしいので、具体例を。今選挙をやって、比例区でA党が200議席、B党が100議席確保したとしましょう。そして、小選挙区では、A党が150議席、B党が150議席得たとします。この場合、A党の議席は200(150が小選挙区当選者、50人は比例名簿の順番で割り当てる)、B党の議席は150(比例区獲得議席よりも小選挙区当選者が上回るので、小選挙区当選者が全員議席を獲得)ということになります。

選挙結果によって議席総数が変動するのが、この制度の特徴です。この制度は、基本的には比例代表制であり、そこに小選挙区制の「人物本位の選択」という特徴を加味したものと説明されます。

これに対し、フランス国民議会では、「小選挙区2回投票制」が採用されています。基本的には、1つの選挙区から1人の議員を選ぶ小選挙区制なのですが、1回目の投票で十分な得票を得られなかった場合に、上位の候補者の間で決選投票を行うところに特徴があります。たとえば、ある選挙区の1回目投票で、A候補が10万票、B候補が8万表、C候補が3万票を獲得したとします。この場合、A候補とB候補が2回目に立候補できます。

最終的に当選するためには、少数候補を味方にしなければならない点がポイントです。今の例でいえば、C候補の3万票を味方につければB候補は逆転できるし、逆に、A候補はC候補を味方につけないと2回目で負けてしまいます。ですから、当選者は、少数意見にもしっかりと耳を傾けねばならなくなります。他方、有権者の側は、1回目は自分の好きな候補者に投票して、自分の考えに最も近い候補者への支持を表明したうえで、2回目は戦略的に投票することになります。無駄な投票がなく、選挙にワクワクと緊張感をもたらすわけです。

ドイツの方法も、フランスの方法も、いろいろな歴史的経緯を踏まえて工夫されています。単純に考えていても思いつかない制度ですが、こうした複雑だけど、選挙を楽しくする工夫というのも、今回の選挙をきっかけに考えてみてもいいかもしれません。私個人は、フランスの方式を導入してみてはどうかと思っています。


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3 政党助成金の配分方法を変える

さて、今見た話は、選挙を打つタイミング(解散権)と、選挙それ自体の在り方の話ですが、選挙を面白くするには、政党と国民の距離を縮めることが大事です。

今度の選挙では、〇×党に投票する、という人でも、その党と自分との間に大きな距離を感じる人は多いのではないでしょうか。政党が政策メニューを提示して、それがマスメディアを通じて広告され、その中から投票先を選ぶという現状では、そう思ってしまうことも多いでしょう。

政治学者の中北浩爾先生は『現代日本の政党デモクラシー』(岩波新書, 2012年)で、こうした現状を改善するため、政党助成金をバウチャー方式にしたらどうか、と提案しています。バウチャーとは、用途を指定した金券のこと。今、政党助成金は、国政選挙の結果によって自動的に配分されます。しかし、有権者にバウチャーを配る方式にすれば、有権者は、投票以外の形で政党と関係を持つことになります

そうすると、有権者は、当事者意識を持って政党に参加できるし、政党の側も、投票以外の形で有権者と関係を持とうとする動機を持つようになります。そうすると、選挙の当日も、投票先の候補や政党を、もう少し身近に感じることができるようになるかもしれません。

Ⅳ アイデア募集状態の日本政治

以上紹介したのは、あくまで一例です。他にもいろいろなアイデアがあるでしょう。選挙のやり方は一つではありません。今回の選挙が、なんとなくつまらないと思われた方、今回は棄権しようと思われた方は、ぜひ、どうしたら選挙が面白くなるだろうか、と考えてみてください。

日本政治は、アイデアを求めています。


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著者プロフィール

木村草太
きむら・そうた

首都大学東京准教授

1980年生まれ。東京大学法学部卒。同助手を経て、現在、首都大学東京准教授。助手論文を基に『平等なき平等条項論』(東京大学出版会)を上梓。法科大学院での講義をまとめた『憲法の急所』(羽鳥書店)は「東大生協で最も売れている本」と話題に。近刊に『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)、『憲法の創造力』(NHK出版新書)、『テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書)がある。

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