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【総選挙2014】皆様って誰のことだよ?

  • 赤木智弘 (フリーライター)
  • 2014年12月14日


朝日新聞社提供

今回の選挙は自民党の圧勝という結果に終わることは間違いないであろう。それについてはとっくに諦めが付いている。だが、それでも自分なりに納得する投票をしたいと思い、いろいろ考えてはいる。そうした中でふと思ったことがある。

立候補者たちは選挙カーから「皆様のために頑張ります」とにこやかに手を振るが、はたして彼らの頭のなかにある「皆様」とは一体誰のことなのだろうかということだ。

まず、選挙において大々的に「お前たち貧乏人のことなんか、苦しもうが死のうが知ったことではありません。私は金持ちと大企業だけの利益を考えています!」とか「公務員と労組が生き残るために、非正規労働者をドンドン使い捨てにします!」とか「日本の核をすべてフクシマに集めて核の捨場にしてしまえ!」などと主張する政治家はいない。たとえ心のなかではそうであったとしても、すべての政治家が一応は「皆様のために頑張ります」と主張する。

でも、その「皆様」は分裂してしまって久しい一般の人たちの収入や生活スタイルが均一化しなくなりバラける。その結果、自分と違う立場の他者の境遇を全く想像できなくなってしまう。

経済成長著しい時代であれば、同じ地域の住民はだいたい同じような生活をしていたという幻影が保たれていたが、それが間違いであることが経済格差の拡大によって明らかになった。1980年代に政治家が選挙カーから「市民の皆様、頑張ります」と言ってもあまり問題がなかったのだけれども、現在に同じことをしていれば、当然「市民の皆様って誰だよ!」という反発が生まれるのは当然だ。

左派政治家の考える「皆様」という言葉は、そのまま「市民」の意味だと考えていいだろう、その「市民」に僕は含まれていない。彼らが仮定する「市民」は、正社員の夫とパート主婦。住宅ローンを組んでいて子供が学校に通っている。そんな幸せな皆様だ。

そんな幸せな家族を守るために犠牲になったのが、非正規労働者たちだ。ローマの市民が享楽的な生活をするためには奴隷が必要だったのと同じように、幸せな家族たちは非正規たちを調整弁として利用し、その人生を台無しにしている。単身の非正規労働者には住宅ローン減税も、子育て支援も全く関係がない。ろくな社会保障もなく、ただただ市民たちにすべてを奪われる。そんな状況であった。

彼らは「皆様」の枠組みを解体し、「日本人」に整えなおした

それをうまく利用したのが保守系の政治家だ。彼らは「皆様」の枠組みを解体し、「日本人」に整えなおした。彼らの「皆様のために頑張ります」という言葉は「日本人のために頑張ります」という意味になった。

この枠組の変化は、皆様という言葉が持っていた貧富という対立軸を有耶無耶にする一方で、日本人と反日という新たな対立軸を生み出した

こうしたことから「愛国を唱える人たちには貧乏人が多い」という認識が生まれたが、それは正しくはない。むしろ皆様が格差を前提とする言葉である一方、日本人は貧富の差を消失させることから、より平等な考え方として、良心から日本人という言葉を受け入れる人たちもいるのである。

もちろん同じ日本人だからって、富む日本人が貧しい日本人を救ってくれるはずなどない。同じ日本人と唱えても、しょせんは赤の他人である。そのことが理解されてきたのか、一時期に比べれば、右派政党に勢いはないように思える。だがそれは左派も同じことだ。左派もまた貧しい日本人を救いなどしなかったのだから。

そういうことで、富める者が意識的に貧しい者を救わないというなら、日本全体が富んでそのおこぼれにあずかるしかないということで、とりあえず株価を上げた安倍政権が「景気回復」の名において承認される。

左派への強い失望があったからこそ、右派への期待が生まれ、自民党に対する信任が生まれつつある

もちろんトリクルダウンなんてインチキだし、積極的な再分配政策を行わない限り、本質的な意味での景気回復、つまり国内での十分な景気循環は行われないだろう。

ただ、たとえそうであっても、これまでの経緯として、左派への強い失望があったからこそ、右派への期待が生まれ、更にそれが一息ついたところで、自民党に対する信任が生まれつつあるという流れは、理解されなければならない

最後にかならず浮かぶであろう疑問に答えておくと、サラリーマン家庭の生活者が「市民」であるならば、彼らは市民に有利な主張をする左派政党を信任するはずであり、左派政党がもっと支持を得ていてもいいのではないかと思うかもしれない。

しかし世の中、僕から見て裕福に見えても、彼ら自身は裕福ではなく貧乏であると思っている場合が多いのである。嘘だと思うなら女性が相談を寄せるサイトを見てみればいい。「年収1千万で生活に余裕がなく苦労してます」などという冗談のようなことを主張する人がたくさんいるから。

え? 今回の選挙の話があまり書かれていないって?

こちとら東京12区だぞ! 目を背けて当然だろう!

今回の選挙に誰に入れるかなんて、真面目に考えてられるか!

次だ次!

次の選挙が選び甲斐のあるものになるように、今は結論を急がず、大きな枠組で物事を考える時間だ。


Photo by Bert KaufmannCC BY 2.0

著者プロフィール

赤木智弘
あかぎ・ともひろ

フリーライター

1975年栃木県生まれ。2007年にフリーターとして働きながら『論座』に「「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。」を執筆。話題を呼ぶ。以後、貧困問題を中心に、社会に蔓延する既得権益層にばかり都合のいい考え方を批判している。著書に『若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』。共著に『アラフォー男子の憂鬱』などがある。

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