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【総選挙2014】敢えて消費税という切り口で考える総選挙

  • 岩本沙弓 (大阪経済大学 経営学部 客員教授 )
  • 2014年12月9日


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消費税という偽名

経済政策以外こそ今回の選挙の争点とされるべきとの指摘はもっともなことで、他の争点に特化してもらうためにも、経済に関して、取り分け消費税の抱える本質的な問題について端的に語らせていただければと思う。

国民はすっかり消費税という名前に惑わされている

そもそも消費税で社会保障費を捻出するという、つまり弱者への富の再配分を目的にかかげながら、その再配分を受け取るはずの弱者からも徴税するという、その発想自体がおかしいと言わざるを得ないのだが、他にも消費税の抱える根本的な問題をいくつか指摘しておかねばなるまい。

国民はすっかり消費税という名前に惑わされているが、日本の消費税法のどこにも消費者に消費税の納税義務があるとは書かれていない。納税義務が発生するのは事業者であり、実質事業税が消費税の本当の姿である。したがって、消費税などという偽名がまかり通っているのは日本だけで、海外では付加価値税と呼ぶのが一般的だ。

事業者は付加価値税をモノの値段に転嫁してもしなくてもよい。そこに法的強制力はないが、たいていは税金分を上乗せすることになる。日本国民は自分が消費税の負担をしていると錯覚しているが、納税義務が発生しない以上、物価としての負担をしているだけだ。一方、実際の納税者である事業者(輸出企業を除く)にとっては、赤字であっても黒字であっても売り上げがあれば必ず徴税されてしまうため非常に厳しい税金である。

「応能負担」を逸脱した欠陥税制

滞納の多い税金は欠陥税制である

滞納の多い税金は欠陥税制である。どこか制度に無理があるからこそ、払えないという事態が多発する。例えば2012年度の国税の新規発生滞納額は5935億円、うち消費税の滞納額は3180億円で、滞納額全体の53.3%であった。例年、国税における消費税の滞納は大きな割合を占めている。滞納する業者を非難するのは簡単だが、お金のない人に払えと言っても、ない袖は振れない。納税を強制したところで滞納が減るわけではなく、納税義務の発生する事業者が倒産するだけということになる。


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「今回は5%から8%の引上げで、たかだか3%の増税ではないか」と侮るなかれ。目に見える数字は僅か3%であっても、税金を払う側からしてみれば5%から8%は1.6倍の負担増である。つまり、消費税5%時代100万円の納税で済んでいたのが、8%では160万円納税しなければならない。これは過酷な負担であり、特に個人事業主が納税時期を迎える来年の春先以降、消費税を払えず倒産や破綻する中小零細企業が激増するのではないかと大変懸念している

税制の大原則に「応能負担」という考え方がある。税金は払える者が払うというその原則から従えば、それを逸脱した、無理のある税制が消費税ということになる。本来、滞納額の多さを鑑みれば、これは欠陥税制であるとして制度の見直しこそ図られるべきなのであるが、そうした指摘はほとんどなされていない。それどころか、欠陥税制であるとの認識が広まることに予防線を張っているのか、滞納額の多さについて報道がなされることもないまま、増税だけがひたすら推進されるという誠におかしな状況になっている。

社会保障費の充実にも、財政再建にも役立っていない消費税

社会保障費の捻出にも、財政再建にも消費税だけで対応するのは不可能であることを、皮肉なことに消費税の歴史そのものが見事に証明してしまっている

今回8%の増税実施の際にも、そしてさかのぼればそれ以前の1997年の増税、あるいは消費税の導入の際にも、社会保障費の捻出や財政再建が消費税の目的と喧伝されてきた。しかし、導入・増税を繰り返したところで、一向に財政再建はなされていない。むしろ、導入・増税を境にして一段と財政が悪化してきた、というのが消費税の25年の歴史である。そして、社会保障が充実したとはとてもではないが言えない、というのが庶民の素直な感想であろう。つまり、社会保障費の捻出にも、財政再建にも消費税だけで対応するのは不可能であることを、皮肉なことに消費税の歴史そのものが見事に証明してしまっているのだ。目的を果たせない制度であれば、廃止を視野に入れた検証が必要であろう。

日本のGDP(国内総生産)の6割を占める個人消費は消費税増税となれば一気に減退する。サラリーマンの平均給与が概して15年下がり続けるような中で、増税となれば実質所得が目減りするため、より一層、消費を抑えるという行動になってしまう。消費税だけがその理由と結論付けるつもりはないが、格差の拡大、社会不安の広まりも含め、日本が失ったとされるこの20年あまりは、消費税の歴史とピタリと重なる。消費税が日本経済に与えるマイナスの影響について真摯に分析する時期に来ているのは間違いあるまい。


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「スタートしたときから、輸出業者に対する補助金的な色彩はあった」

上記節タイトルは現自民党税調会長野田毅氏の談である(文藝春秋2013年9月特別号「消費税の核心~いつ、どこまで上がるのか」、参照画像)。これは私から野田氏へ、付加価値税(日本の消費税にあたる)がフランスで1954年に誕生した後に輸出企業への還付金が付随するようになった経緯について、

(1)還付金制度がGATT(関税及び貿易に関する一般協定)違反とならないようフランスからの提案で、付加価値税や消費税のような間接税であれば還付金を渡してもよいという例外規定が1960年前後にGATT協定に織り込まれたこと

(2)それ以来ヨーロッパ各国が自国の輸出優位策として付加価値税を積極的に導入してきたこと

(3)付加価値税に付随するこの還付機能については、付加価値税を導入していないアメリカから不当だという議論もあること

との指摘に対して答えていただいたものである。

実は私自身がアメリカに渡り、米公文書館で見つけた米財務省関連の内部文書(参考画像:https://www.sayumi-iwamoto.com/theme1413595773.html)でも、付加価値税では輸出品にリベート(補助金)が渡されるとの記載が散見されたので質問をした次第であるが、税制の専門家であれば付加価値税・消費税は輸出企業への補助金ありきの制度であることはよく知られていることなのだ。こうした特定企業・業種の優遇策となる不公平税制であるとして、国際貿易での自由・平等を掲げる米国では連邦政府レベルでの付加価値税の採用はしていない

米公文書ではリベート(補助金)とされているが、日本語では還付金とされている。消費税5%時代には消費税収約13兆円のうち約3兆円が還付金として輸出企業に渡されていた。8%となれば単純計算で、消費税収21兆円のうち約5兆円が還付金として渡されるため、実際には16兆円まで税収が落ちることになる。

輸出企業の優遇を目的とした付加価値税・消費税のような制度は、当該企業が優遇措置の結果得た収益を国民に積極的に還元してくれれば意味があると言えよう。いまや上場している製造業の約7割が生産拠点を海外へと移し、国内での設備投資も雇用も積極的に増やす状況にない中で、こうした輸出優遇策が果たして効果的な税金の使い道なのか、現状の日本の経済構造と照らして併せて考える時期に来ているのではなかろうか。

2014年総選挙にあたって

税制の抜本的な見直しを促すためには、与党に対抗できる強い野党の存在が必要

日本の超一流の輸出企業が法人税の支払いをしてなかったというのは八木啓代氏が寄稿で指摘しているところであるが、消費税について言うと、還付金の受取りが支払い消費税額を上回っているため、消費税を導入して25年、1円たりとも消費税を納めたことがないという日本の輸出大企業は多いはずだ。そうした企業は「けしからん」と鬼の首をとったかのごとくバッシングするのを意図しているわけではない(とは言え、税制上の優遇がある上に、更なる国民負担を要求して法人税の引下げを求めるグリーディーさには疑問を感じずにはいられないが)。日本の課税制度に従って粛々と処理をすると、法人税はゼロとなるし、消費税はゼロどころか、ひたすら膨大な金額の還付の受取りが生じる。現在の日本の税制はグローバルに活躍する大企業にとっては大変有利である一方、内需関連の中小零細企業は非常に不利な状況だ租税回避できるような人員を要する余裕などないため法定正味税率通りの高い法人税を支払い、消費税の負担増にあえぐことになってしまう。また消費者は消費税による物価高の負担のみで、これといったメリットが見つからない。

法人税しかり、消費税しかり、一部の大企業が優位となっている現状の課税制度こそ抜本的に見直す必要があろうが、このまま与党圧勝となれば2017年4月には有無を言わさず消費税は引上げとなる。同時に大企業に有利な法人税の引き下げも実施されよう。税制の抜本的な見直しを促すためには、与党に対抗できる強い野党の存在が必要であろう。

ところで、2015年10月の消費税の10%への引き上げは見送られたものの、選挙期間中の今現在、見送りとする法案は提出されていない。常識的に考えれば選挙後の通常国会でまずこの見送り法案が提出されるものと思うが、選挙結果次第で安倍氏が引き摺り下ろされるような事態になった時に、「安倍氏の口約束」に過ぎないとされて2015年10月に増税が断行となったりはしないか? といういささかの懸念はある。穿った見方過ぎる点はさておき、与党が打ち出した景気弾力条項を外しての2017年4月からの実施は、経済状況を一切鑑みず増税だけに邁進するという非常に乱暴な政策だ。このまま無条件の消費税増税にOKを出してよいのか? 失われた時代を継続してもよいのか? <br/ >こと消費税という切り口でみれば、そうした判断が問われている選挙と言えよう。


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著者プロフィール

岩本沙弓
いわもと・さゆみ

大阪経済大学 経営学部 客員教授

青山学院大学大学院 国際政治経済学科 修士課程修了。1991年より日・米・加・豪の金融機関にてヴァイス・プレジデントとしてトレーディング業務に従事。 日本経済新聞社発行のニューズレターに7年間、為替見通しを執筆。金融機関専門誌『ユーロマネー』誌のアンケートで為替予測部門の優秀ディーラーに選出。現在、為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院特別委員会にて参考人として出席するほか、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。主な著作に『新・マネー敗戦』、『アメリカは日本の消費税を許さない』(文春新書)、『バブルの死角』(集英社新書)他。

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