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【総選挙2014】「大義なき解散」の裏にある安倍総理の思惑

  • 田原総一朗 (ジャーナリスト)
  • 2014年12月14日

結論から言うと、安倍首相の思惑通りにいった。

「大義なき解散」と言われている。なぜ今選挙を行わなければいけなかったのか。

安倍首相は、もともと2015年10月に消費税を10%にするつもりだった。ところが先月11月発表された7月~9月期のGDP速報値が、想像以上に悪かった。今年4月に消費税を8%に引き上げた影響が非常に大きな影響を与えており、前期比年率換算で1.6%減、前回の発表もマイナスだったからこれで2期連続になる。つまりは景気が後退している。これじゃあ無理だとなったわけだ。

その直前の10月31日に、日銀が追加の金融緩和を決めた。それは長期国債の年間買い入れ額を30兆円増やして80兆円にし、不動産投資信託の購入量も3倍に増やすという大規模なものだった。効果は抜群で、10月には日経平均株価が1万5000円を割りそうになっていたところが、一挙に1万7000円まで跳ね上がった。

しかしこれはあくまで一時的なものだと、安倍首相や自民党幹部は思っている。ならば、株価が高いうちに解散総選挙をした方が得だ。それで消費増税を18カ月延期することにして、今のうちに解散に踏み切ったのだ。

もう一つ、衆議院議員の任期は4年間だが、2012年12月の総選挙からはまだ2年しか経っていない。自民党は前回の総選挙で大勝し、衆議院で294議席を確保した。単独過半数である241議席を大幅に上回る勝ちだ。逆にいえば、前回大勝したために、次の選挙でそれ以上の議席を獲得することは難しいだろう。だから、しばらく解散はないだろうと、誰もが思っていた。

だがそうではなかった。いつ解散しても現在の議席数以上を得ることが厳しいのだから、自民党に対抗する野党がなく、足並みもそろっていない今、景気が短期的にほんの少し良くなったこの瞬間がチャンスだ。つい先日行われた日中首脳会議も解散を後押しした。これは安倍政権がなんとしても実現したかったことの一つで、これが結果的に大きな得点となった。

さて、安倍首相は記者会見で、「アベノミクスの成功を確かなものとするため、18カ月延期すべきとの結論に至った」とし、「国民の信を問いたい」と述べた。しかし、だれも反対していないのに、信を問うということがあるだろうか

再増税を延期することに反対する政党があるならわかる。しかし、反対している政党は一つもなく、野党は「大儀なき解散」「予算の無駄遣い」という「批判」をしているだけだ。

国民は正直この解散に相当な不快感を持っている。事実、朝日新聞の世論調査でも62%共同通信は63%、安倍政権の応援団である産経新聞はなんと72%が反対と出ているのだ。

政府はおそらく、今後内閣支持率が次第に落ちていくことを見越している。先月、九州電力川内原子力発電所の再稼働について鹿児島県知事が同意したことで、国民の反発が強くなることも予想される。さらにいうと、年明けの通常国会では集団的自衛権の関連法案が審議される予定となっており、これも非常に厳しい論争になるだろう。首相の専権事項である解散権の行使は、もっとも勝てそうなタイミングで行うのが定石だ。

今回の金融緩和は「アベノミクス」がうまくいっていないことを認めたようなもの

はっきり言おう。今回の金融緩和は「アベノミクス」がうまくいっていないことを認めたようなものなのだ。「3本の矢」のうち、1本目と2本目の矢は的を射た。しかし肝心の3本目の「成長戦略の矢」は的に届いてもいない。本来ならば4本目の違う矢を放ちたいところなのだが、仕方なく3本目の矢を何度も射続けているというのが今の現状なのだ。

それにしても野党がだらしない。野党はみなアベノミクスが失敗だったと批判するが、具体的な対案をどこも示していない。国民が求めているのは選択肢だ。たとえば民主党なら「カイエダノミクス」や「エダノミクス」、維新の党なら「ハシモトノミクス」、共産党なら「シイノミクス」といったような対案が示されれば、国民はそのなかからどれを選ぶかという選択肢がある。選択肢がまったくなく、アベノミクスしかない現状で、なにをどう選べというのか。

国民は入れるべき党が見つけられなくて困っているのだ。投票率も低いだろうと予想される。結局、思いあぐねて、真面目な人ほど消極的に自民党に入れる、といったことが多いのではないか

今回の選挙は、安倍首相の「延命解散」である。今のうちに政権の維持・強化をし、来年の総裁選で再選を果たし、長期政権を目指すという思惑がそこにはある。

著者プロフィール

田原総一朗
たはら・そういちろう

ジャーナリスト

1934年、滋賀県生まれ。1960年、岩波映画製作所入社、1964年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。1977年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。 現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。また、『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』講談社)、『誰もが書かなかった日本の戦争』(ポプラ社)、『田原総一朗責任 編集 「殺しあう」世界の読み方』(アスコム)、『おじいちゃんが孫に語る戦争』(講談社)など、多数の著書がある。

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