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【総選挙2014】テレビ局弾圧と独裁へのホップ・ステップ・ジャンプ――日本の民主主義が壊れて行く

  • 古賀茂明 (元・経済産業省官僚)
  • 2014年12月14日

以下の記事は、「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」からの転載(若干の修正有り)です。

安倍氏に代わって出された問題文書

11月18日の安倍総理による解散表明後、解散前日の20日付けで発出されたある文書。私がそのコピーを見たのは、それから1週間近くも経った11月26日のことだった。

この文書の発出者は、自民党副幹事長の萩生田光一氏と報道局長の福井照氏だ。萩生田氏は、総裁特別補佐も務める安倍総理の側近の一人だ。しかも、安倍氏は、自分自身の直接の関与を否定しつつ、その内容は問題ないとして、要請そのものを肯定した。従って、この文書は、安倍氏に代わって発出されたものだという位置づけがはっきりとしてしまった。

全ての番組に宛てた手紙でバラエティにまで圧力

この文書のあて先は、在京テレビキー局の編成局長と報道局長だ。報道局長は、各テレビ局のニュース番組などを担当する責任者だから政党とは関係が深い。一方、編成局長は、報道番組だけでなく、バラエティや、ドラマ、音楽などあらゆる番組を含めて番組編成をどうするかを全体として統括する責任者だから、この人に宛てた文書は、テレビ局内の全ての番組へのメッセージだということになる。

単にニュース番組のキャスター、コメンテーターと番組スタッフだけではなく、全ての番組関係者が直接間接に今回の手紙の圧力を受けている。現に、あらゆる番組で、政治ネタが極端に減り、朝のワイドショーでのコメンテーターの発言は異様なまでに与党批判を避ける形になっている。(この文書が外部に出たのも編成局長に宛てたことで、普段自民党が付き合っている報道局以外の部局の人間の目に触れることになった。そのことが、文書流出の原因になったのかもしれない)

問題の文書全文

さて、肝心のその文書の内容だが、まず、これを書き起こしておこう。

平成26年11月20日

在京テレビキー局各社
 編成局長 殿
 報道局長 殿

自由民主党         
筆頭副幹事長 萩生田 光一
   報道局長 福井 照

選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い

日頃より大変お世話になっております。

さて、ご承知の通り、衆議院は明21日に解散され、総選挙が12月2日公示、14日投開票の予定で挙行される見通しとなっております。

つきましては、公平中立、公正を旨とする報道各社の皆様にこちらからあらためてお願い申し上げるのも不遜とは存じますが、これから選挙が行われるまでの期間におきましては、さらに一層の公平中立、公正な報道姿勢にご留意いただきたくお願い申し上げます。

特に、衆議院選挙は短期間であり、報道の内容が選挙の帰趨に大きく影響しかねないことは皆様もご理解いただけるところと存じます。また、過去においては、具体名は差し控えますが、あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、それを事実として認めて誇り、大きな社会問題となった事例も現実にあったところです。

したがいまして、私どもとしては、

・出演者の発言回数及び時間等については公平を期していただきたいこと
・ゲスト出演者等の選定についても公平中立、公正を期していただきたいこと
・テーマについて特定の立場から特定政党出演者への意見の集中などがないよう、公平中立、公正を期していただきたいこと
・街角インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る、あるいは特定の政治的立場が強調されることのないよう、公平中立、公正を期していただきたいこと

——等について特段のご配慮をいただきたく、お願い申し上げる次第です。

以上、ご無礼の段、ご容赦賜り、何とぞよろしくお願い申し上げます。

なお、この文書の写真は、ネットでも簡単に見ることができる。以下は、私のツイッターです。https://twitter.com/kogashigeaki/status/537593031336030211

「公平中立」「公正」の要求のどこが悪いのかというのは「本質がわからない」人の考え

この文書の内容は、これから選挙なのだから、「公平中立」と「公正」な放送を心がけるようにという要請となっている。公平中立や公正と言うのは、抽象的レベルではあまり異論のないところで、一般の人が見れば、当たり前のことを言っていると取れるように書いてあるのだが、本当の意味は全く異なる。

まず、これを見て驚くのは、A4一枚の文書の中に、「公平中立」、「公正」、「公平」という言葉が13回も繰り返し強調されていることだ。これだけしつこく言うからには、相当の思い入れがあるのだろうと受け取る側は思うだろう。

もう一つ驚くのは、抽象的な要請だけでなく、「出演者の発言回数及び時間等」、「ゲスト出演者等の選定」を公平中立にとか、「テーマについて特定の立場から特定政党出演者への意見の集中などがないよう」、「街角インタビュー、資料映像等」が偏らないようにと具体例を挙げて、要請を行なっている点である。

実は、こうした問題については、自民党は、かねてからテレビ局に対してことあるごとに文句をつけてきたようだ。私自身も経験があるからわかるのだが、ゲストコメンテーターの選定について、自民党の関係者が番組放送直後に政治部の記者などにクレームをつけているのを多くのテレビ局の関係者から聞いている。また、「街角インタビュー」と言えば、TBSのニュース23に出演した安倍総理が、街頭録画のビデオが流れたのを見て、それがあたかも恣意的に安倍氏の都合の悪い形で編集されたというような批判を番組内で行なって、日本中で顰蹙を買った事件が裏にあるのだろうと、テレビ局側は容易に推測できる。

つまり、一般論として言っているようで、実は、各テレビ局は、過去の事例を思い出して、何をやるなと言っているのか、例えば、誰を出すなと言っているのかを具体的に理解してしまうのである。

さらに問題なのは、「過去においては、具体名は差し控えますが、あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、それを事実として認めて誇り、大きな社会問題となった事例も現実にあったところです。」という部分だ。

これは、テレビ関係者であれば、テレビ朝日の報道局長の発言が問題となって国会で証人喚問まで行なわれたいわゆる「椿事件」を指すことは誰でも即座に理解する。この事件の際には、放送法違反だという主張が自民党などからなされ、放送免許剥奪という議論まで出たのだが、結局放送法違反の事実はなかったという総務省の判断が出て、そうした事態には至らなかった。(つまり、今回の文書で自民党が一方的に書いている「偏向報道を行い」という部分は、総務省が認めていないので、事実とは言えないということだ)

この事件を引用したのは、政権与党として、テレビ局が自民党の言うことを聞かなければ、「公平中立」「公正」な報道をしなかったと難癖をつけて、国会に呼びつけるぞ、そして、政府には放送免許剥奪の権限があるのだぞと脅しをかけるという意味合いがある。(テレビ局は総務省から無線電波使用の免許を与えられている。この免許は5年ごとに更新されるが、もし何らかの理由で不可となれば、そのテレビ局は放送業務ができず、潰れるほかない。)

共産党も同様の申し入れを行っているという指摘があるが、共産党には何を言われてもある意味、テレビ局は怖くない。もちろん、共産党が、もし放送に問題があると思えば、例えばBPO(放送倫理・番組向上機構)などに申し出るなどの手段をとることが望ましく、テレビ局に直接要請するのは控えるべきだと思うが、政権与党と権限が全くない共産党では、同じようなことをやっても、その意味合いは全く異なることに注意が必要だ。

本来は政権が揺らぐ大スキャンダルである

こうしてみると、自民党の今回の文書発出は、政権与党として禁じ手を使ってしまったと言って良い。明らかに憲法が保障している表現の自由への直接的な侵害行為であり、報道の自由への重大な挑戦である。おそらく、これが他の先進国で起きたら、全ての報道機関挙げて、政府批判が起きるであろうし、総理の側近がやったということであるから、単に萩生田氏の辞任ではなく、政権そのものが揺らぐくらいの大問題になるはずである。

最大の驚きはテレビ局の対応だ

今回の事件で最も驚くべきことは、実は、この文書を受け取ったテレビ局や、それを知った他の報道機関の多くが、本件を重大な問題だと受け止めていないことにある。自民党がやったことは、「暴挙」と言って良いが、日本の報道機関が、1週間近くこれを放置したことは、それ以上に深刻な問題だ。

これを驚愕のスクープとして11月26日に最初に報道したのが、テレビ局でも新聞社でもない、インターネットテレビで毎日ユニークな情報を発信している「ニューズ オプエド」だったのがそれを象徴している。

まず、テレビ局は、この問題を少なくとも局長レベルで知っていたわけだし、局長が社長や会長に隠していたとは到底考えられない。これを報道しなかったのは、会社全体として、報道しないという判断をしていたことになる。報道したら安倍総理に睨まれる。それを恐れた会長・社長は抗議することも報道することもなくおとなしくしていたわけだ。政府を監視するというマスコミの役割を果たす気力も能力も持っていない組織だということになる。

しかし、これは、単に報道機関としての姿勢の問題にとどまる問題ではない。何故なら、報道を歪めようとする自民党のスキャンダルをあえて隠した行為は、逆に、選挙で自民党に不利になる重大な事実を国民に知らせず、結果的に自民党の選挙戦に有利に働くという結果につながるからである。

つまり自民党に肩入れする、明らかな偏向報道であるということになる。ということは、この問題をニュースとしてしっかり報道することをしなかったテレビ局こそ、放送法違反で放送免許を剥奪すべきだということになるはずだ。

ここでも記者クラブの弊害が出た 新聞社も同罪

そして、隠れた問題がもう一つある。この文書は、官邸詰めの記者クラブ(内閣記者会)にいる各テレビ局のキャップ(各社のクラブのトップ)に渡されたというから、同じ記者クラブにいたテレビ局以外の新聞社の記者たちも知っていたと推測されることだ。記者クラブだけでなく、その情報は各新聞社の政治部にも届いていただろう。しかし、どの新聞も通信社もすぐにはこれを報道しなかった。私は、オプエドのスクープ後に何社かの全国紙の政治部の記者に電話して、何故これを書かないのかと聞いてみた。彼らは、異口同音に、おかしな話だ、書くべきだ、でも、官邸のクラブは動かないかもしれませんね、という反応だった。選挙中だし、安倍さんのことを官邸のクラブは怖がってるからねえ、一応デスクには言ってみるけどという感じだ。

記者クラブでは、こういう時に、阿吽の呼吸でカルテルが成立する。どの社も記事化に動いていないなというのを確認しつつ、君子危うきに近寄らずということで、みんな沈黙していたのだ。最初にテレビ局にこういう紙が流れたようだということは、おそらく20日の配付直後に各紙とも気づいていたはずだ。しかし、選挙が近い時期にこうした情報を流して自民党に逆切れされることを心配したのかもしれない。あえて、取材をしたり、確認を取ったりということはしなかったのだろう。

オプエドのスクープが出ても、オプエドは視聴者がまだ少なく、社会的な影響力が弱いから、無視すればそのうちこの情報も消えてしまうと思っただろう。各社ともすぐに後追いの報道はしなかった。

この紙自体は、26日16時のオプエドで公開され、コピーは誰にでも無料で配りますと番組で言っていたし、そもそも、官邸の記者クラブで系列局の記者に言えば、すぐに入手できたはずだ。

自民党に真偽を確認するのは、電話一本で済む。現に、ジャーナリストの今井一氏などは、すぐに事実だと確認して、同日夜にはツイッターで速報している

翌日、これを記事にしたのは、夕刊紙の日刊ゲンダイだった。ゲンダイは、テレビ局数社に確認を取って、文書が本物だということを含めて報道した。ネット上では既に、本物だと確認した今井一氏のツイートで文書のコピーが広く流されていた。

ここまで来ると、さすがに新聞社は書かざるを得ない。毎日がかなり詳しく、かつ批判的に書くと、各紙、安心したのかすぐに後追いで記事を書いた。もちろん、読売などは、非常に控えめで、批判的コメントなしの記事だったが。

それでもだんまりを決め込むテレビ局

しかし、その後も圧力を受けた当事者であるテレビ局はニュース番組でこれを取り上げていない(すくなくとも大きな扱いはしていない)。このように重大なニュースを隠しているということになれば、選挙に際して、あえて自民党に肩入れして、不利な情報を隠蔽したということになる。あきれたことに、テレビ朝日では、田原総一郎氏の朝まで生テレビで、有識者二人(荻上チキ氏と小嶋慶子氏)の出演を直前に取りやめさせていたことが判明している。この二人は、自民党から見ても特に問題などなさそうな人達だが、触らぬ神にたたりなしで、とにかく余計なリスクは取るなという報道幹部の判断があったのではないかと推察される。うるさ型で知られる田原氏でも泣き寝入りしたということは、相当強硬な姿勢で局側が押し切ったということだろう。

しかし、これはテレビ朝日の問題というわけではない。いろいろ聞いてみると、他のテレビ局もほぼ同じ状況だ。あれだけ、自民党の文書が問題になったにも拘らず、その後も自民党が不利になるような報道を控える傾向がはっきりとしている。

こうした事態が非常に深刻化しているという例を挙げておこう。政権の圧力と戦って、客観的報道を続けているという評判が高いテレビ朝日の「報道ステーション」でも、驚くべきことが起きている。これに気づいたのは、12月10日午後14:30。前日放送されたアメリカが日本に期待する軍事的役割に関する特集が面白かったので、もう一度見ようと思って報道ステーションのネットサイト開いたところ、その企画の動画はまだアップされていなかった。遅れているのかなと思ったのだが、良く見るとおかしい。

私が出演した11月28日に放送したはずのスペインの再生可能エネルギーなどの特集がアップされていないのに、その後に放送された滋賀県の「危険マップ」の特集党首討論の映像はアップされている。他方、アベノミクスなど、安倍政権に都合が悪い事実が入っている特集は全てアップされていないのである。

プロデューサーに電話を入れてみたら、驚いた声で「知らなかった」と言う。それは、どうも本当のようだ。後で再確認したら、現場で、「選挙だから、やめた方が良いと勝手に判断したらしい」という話だった。

私は、これは事実ではないと見ている。そもそも、既に放送したものをアップするだけの機械的作業だ。本来問題などないはずなのだから、普通なら、何も考えずに、アップしたであろう。にも拘らず、現場の一ディレクターが、自分だけの判断で、特集の取捨選択をするようなリスクをとるだろうか。おそらく、幹部の誰かが、直接ではなくても、「選挙だから自民党が怒るようなことは極力控えろ」という趣旨の話をしていて、それを聞いた担当者が、それを忖度して、議論になりそうなものをはずしたということだと思う。

本来は、自民党から紙が来た時点で、幹部が、「こんなことは気にするな。政権の圧力には負けるなよ」と言うべきであって、仮にそれを言っていれば、今回のようなことは起きなかったはずだ。(ちなみに、私が指摘した後、報道ステーションのサイトには、今まで落ちていた特集が、順次アップされることになったことをお伝えしておく)

この件を見て、自民党の言論弾圧の力が、ここまでテレビ局の隅々にまで浸透しているのだということを再確認させられた。本当に暗澹たる気持ちになる。

特定秘密保護法など不要?

こういう政党が政権にいることは、特定秘密保護法が12月10日に施行されたことによって、ますます知る権利報道の自由への弾圧が行なわれるのではないかという懸念を強めることになる。同法の施行などなくても、自民党はしっかり、報道弾圧を行なっているのだから、これに特定秘密保護法が加わったら、暴力団にバズーカ砲を与えるようなものではないか。

日本の報道の自由は世界で59位 日本のイメージを貶める安倍総理

安倍政権に対するこうした認識は、日本国内だけに限ったものではない。

国境なき記者団」が発表している「報道の自由」世界ランキングというものがある。それによれば、日本は、G7の中ではダントツのビリ、先進国中でも異例の下位にあり、2014年は何と59位である

民主党政権時代は、10位代か悪くて20位代だから、顕著な悪化である。ちなみに、第一次安倍内閣の時も、51位を記録しているから、安倍氏は構造的に報道に対して弾圧的だと世界にも認識されていることがわかる。

この例を挙げるまでもなく、日本のイメージを極めて悪くしているのが安倍総理だと言って良いだろう。武器輸出原発輸出も同様に日本のイメージを著しく傷つけている。これが日本のリーダーだと思うと恥ずかしいだけでなく、悲しくなってくる。

BPOの存在意義が問われる

今回の件は、BPO(放送倫理・番組向上機構)でしっかり審査してもらいたい。BPOが審査しないと言うなら、国民はみんなで抗議に行かなければならなくなる。独立した第三者機関であるはずのBPOは自民党のために働いているのかという疑いが出てくるからだ。BPOがどんな組織なのか、実はよくわからないところが多い。特に、審議内容が公開されていないのは、極めて問題だ。委員には信頼できる人も入っているが、その意見が生かせる体制になっているかということも不明だ。

大事なことは、BPOに対して、国民が意見を言うことではないか。

BPOへのアクセスの仕方についてホームページを覗いてみた。

送った意見は、BPOがホームページ上にアップするかもしれないと書いてある。しかし、その取捨選択の基準が書いていない。不都合な意見は掲載されない可能性がある。しかも、掲載されても、それが「不適切」だとBPOが判断したら掲載を削除するということに事前に同意しないとインターネットで意見も送れない仕組みになっている。「不適切」の基準は書かれていない。

また、電話の場合、通話内容を勝手に公表するなと書いてあるが、理由がわからない。

民間企業の苦情受付窓口にこんなことを書いたらどんなことになるだろう。

以下ホームページから引用する。

頂いたご意見は・・・
〇BPOの各委員会に「視聴者意見」として報告され、委員会に反映されます。
〇特定の番組や放送局に関するご意見は、当該放送局に送られます。
〇BPOのホームページや刊行物に掲載される場合があります。(匿名)
(※個人名、放送局名は原則削除し、要約する場合もあります。)

インターネット
「ご意見送信フォーム」(入力形式)より、下記の「ご意見送付に関するお願い、注意事項」に同意の上、入力・送信してください。
□フォームの送信時には、個人情報保護のためSSLによる暗号化処理を施したデータ送受信が行われます。
□同じ内容のメールを複数送信することはご遠慮ください。
□性別、年齢、お住まいの都道府県は必ず記入してください。
□匿名でも結構です。
□他人を装った「なりすましメール」「いたずらメール」は固くお断りします。
□不適切であるとBPOが判断した場合は、書き込みを削除することがあります。

電話によるご意見は03-5212-7333で受け付けます
□受付時間は平日10時~12時、13時~17時です。
□土・日・祝日・年末年始は電話での受付は行っておりません。
□効率良く意見を伺うように心がけております。皆様のご協力をお願いいたします。
□正確を期すために録音をさせていただく場合があります。
□通話内容を録音したものを無断でインターネットに公開することはお断りします
FAXによるご意見は03-5212-7330へ送信してください。
□A4用紙で1~2枚にまとめてください。
□添付資料等がある場合は、郵送でお願いいたします。

郵送によるご意見は、下記住所宛に送ってください。なお、書面は返却いたしません。
〒102-0094
東京都千代田区紀尾井町1-1千代田放送会館
BPO視聴者応対係

とにかくBPOに意見を送ろうではないか。できれば電話で、会話内容を録音することをお勧めする。

TBS報道に逆切れした安倍総理が見せた能力の限界

なお、笑い話になるが(と言っても実は深刻な問題だが)、TBSのスタッフの話として聞いた話だが、安倍氏が切れた日の放送で流れた街頭録画では、アベノミクスに好意的なコメントをする市民がほとんど見つからず、それでは自民党が怒るだろうということで、相当無理して、好意的なコメントを探して、その割合を実際よりも高くしたということだ。そういう行為自体、大変な問題なのだが、その映像を見た安倍氏が、この映像は偏っているとして、真顔で切れていたのは、ある意味驚きであると同時に、極めて深刻な事態だと感じた。

何故なら、市民がアベノミクスの効果を感じないと言っているのは、事実ではなく、偏向報道によるものだと安倍氏が思い込んでいるということが図らずも露呈してしまったからだ。つまり、この国の指導者は、経済の実態を客観的に見る能力がなく、常に自分に都合の良い情報しか頭に入らない、逆に都合の悪い情報は嘘だと思い込む、極めて能力の低い人物だということである。

報道機関の機能停止から独裁へと至るホップ・ステップ・ジャンプ

以前から私は、日本は、報道機関の機能停止による独裁国家へ至る道に入っているとみていた。その段階を、ホップ、ステップ、ジャンプの三段跳びに例えれば、現状は、概ねステップの段階にあるのではないかと見ていたが、今回、あらためて、それが正しかったと感じた。

もう少し説明しよう。

第一段階、「ホップ」は、「政府の側が」報道機関に対して弾圧したりあるいは懐柔して行く段階だ。

安倍総理がマスコミ各社の会長・社長クラスと宴会を重ねたり、ゴルフに興じたりという懐柔策。消費税の軽減税率適用再販制度の維持に理解を示すことも重要な「アメ」になる。他方で、気に入らない報道があると、個別に記者に苦情を言うだけでなく、政治部や社の幹部にクレームをつける。時には、出演拒否などの強面の対応もする。間違った報道があると、軽微なものでもすぐに訂正放送を強要するといった具合に日常的に圧力をかけ続けることも平行して行なわれる。これが繰り返されると、徐々に、マスコミ側はこれに慣れてしまい、問題だと感じることがなくなってくる。さらに、報道の現場には、面倒な問題に巻き込まれたくないという意識が広まってくる。

第二段階、「ステップ」は、「報道機関自らが」政府に迎合し、それによって国民に対して偏った情報が提供され、国民が次第に洗脳されていく段階だ。最近の新聞は、読売、産経、日経と朝日、毎日、東京で紙面が全く違うのは、皆さんもよくご存知のことだが、朝日新聞が慰安婦問題などで大バッシングを受け、しかも、読売新聞が朝日批判本を出したりしてまで徹底攻撃することが、大きな問題になることなく社会に受け入れられているのを見ると、朝日、毎日、東京もかなりの程度危険な状況に置かれているのではないかと心配になる。

紙面で議論を戦わせるのではなく、販売員を使っての朝日ネガティブキャンペーンが行なわれていて、それが購読者に違和感を与えていないとすれば、冷静で健全な思考態度が国民の間から消えつつあるように思えてならない。

第三段階、「ジャンプ」は、洗脳された国民をマスコミが煽り、選挙による一党独裁体制が実現する段階だ。ここまで来る前に、国民が気づく可能性もある。本物の独裁政権が成立するハードルはかなり高いと思いたいのだが、今回の選挙の情勢を見ていると、胸騒ぎがするのは私だけではないのではないだろうか。自民単独で3分の2などという予測がまことしやかに流れているが、それが実現し、さらに16年の参議院選挙でも同じことが起きたら、本当に憲法改正もやり放題になるかもしれない。これが、「選挙」で実現すると、その後の独裁政権の暴走を止めるには、民主的手段ではできないことになる。暴動などに訴えるしかないということになってしまう。

それも半分近い人たちが棄権する中で、4分の1程度の得票で、独裁が実現してしまうのである。

今日本は、第一段階「ホップ」は明らかに過ぎて第二段階「ステップ」に進みつつある。それと平行して最終段階「ジャンプ」への道も歩み始めてしまったのかもしれない。それをわかりやすく示したのが、今回の自民党の圧力文書事件である。

著者プロフィール

古賀茂明
こが・しげあき

元・経済産業省官僚

1955年生まれ。東京大学を卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。産業再生機構執行役員、経済産業政策課長などを歴任。国家公務員制度改革推進本部事務局次長として急進的な改革を進め「改革派の騎手」となるも、霞が関からは異端視され、2010年秋には参院予算委員会で仙谷由人官房長官から「恫喝」を受ける。度重なる退職勧奨の末、2011年9月に退官。現在は大阪府市統合本部特別顧問などを務める。著書に『日本中枢の崩壊』(講談社)、『官僚の仕事』(PHP新書)、『官僚を国民のために働かせる法』(光文社新書)、『信念をつらぬく』(幻冬舎新書)など。

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