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【総選挙2014】今回の選挙で原子力政策は決まらない:国民的議論を続けよう

  • 鈴木達治郎 (長崎大学核兵器廃絶研究センター センター長・教授)
  • 2014年12月10日


Photo by ranekoCC BY 2.0

原子力政策の勝負は選挙後

突然の解散で、争点が明確でない今回の選挙であるが、エネルギー・原子力政策も争点の一つといわれている。しかし、議論を聞いていてすっきりしない。どうも本質を外した議論が続いているように見える。結論から言えば、今回の選挙の結果によって、エネルギー・原子力政策に決着がつくとは思えない。勝負は選挙後と考えたほうが良い。

わかりにくい「エネルギー基本計画」とその後の各政党公約

少し時計を元に戻して論点を整理してみたい。3.11後を踏まえて、当時の民主党政権は「原子力政策をゼロから見直し、国民的議論を行う」として、原発コストや核燃料サイクルの見直し等を経て、「2030年代に原発ゼロを達成」できるよう「すべての政策資源を投入する」という「革新的エネルギー・環境戦略」を決定した。具体的な政策として、

(1)寿命を40年に限定
(2)新・増設は行わない
(3)既存の原子炉は新規制基準を満たしたものは再稼働する

という政策であった。筆者は当時原子力委員として、核燃料サイクル政策の見直しを提言したが、残念ながらその実現はならなかった。

そして今年4月に「原発依存度をできるだけ低減させる」が「原発は重要なベース電源として一定規模を維持する」という「エネルギー基本計画」が成立した。前半は「原発ゼロ」を目指す公明党、後半が「原発回帰を目指す自民党」のハイブリッド政策ともいえる政策で極めてわかりにくい。その内容を見ると

(1)寿命を40年に限定
(2)新・増設については否定しない
(3)新しい規制基準を満たしたものは再稼働

ということで前民主党政権のエネルギー環境戦略との大きな違いは「新・増設を否定しない」ということになる。核燃料サイクルも継続となっている。これでは、「原発をゼロにはしない」だけを決めただけで、あとは何も決まっていないと同じである。

そこで、各党の選挙公約の整理(12月5日ポリタス記事)を見てみよう。ここでも、将来原発をゼロにするかしないか、既存原発の再稼働を認めるか否か、が大きな相違点となっている。核燃料サイクルや廃棄物処分で、見直しを提言している党もある。しかし、どの党に投票すれば、どのような原子力政策になるのか、これでは選挙民もわかりにくい。選挙結果がどうあれ、原子力政策は混乱したままになる可能性が高い。

選挙民としてはどうすればよいのか。

3年後のエネルギー基本計画に向けて:重要な5点

「エネルギー基本法」によれば、「エネルギー基本計画」は3年一度見直すこととなっている。言い換えれば、この選挙の結果に関わらず、3年後に向けて新たなエネルギー政策を再構築することができるのであり、そのための議論をしっかり継続していくことが最も大事なことなのである。

それでは、新たな原子力政策のポイントは何か。私からは以下の5点を提起した。

(1)福島事故はまだ終わっていない。1F廃止措置、福島地域の復興、地元住民・避難住民の生活の回復が最優先課題である。そのためには1F廃止措置体制の見直し、賠償制度の見直し、廃棄物中間貯蔵最終処分までの道筋をつけることが必要である。事故原因の追究とそれを踏まえた安全対策の見直しも続けなければいけない。特に国会は、「国会事故調」の提言をすべて実現していない。新たな国会議員はまずこの問題から取り組むべきだ。


撮影:新津保建秀

(2)原発の将来に関わらず必要な対策に重点をおくこと。使用済み燃料の安全な貯蔵管理、放射性廃棄物の処分問題はその典型的な課題である。特に、再処理で蓄積した大量(47トン)のプルトニウム在庫量の削減は、国際安全保障上も大きな課題であり、その対策は急務である。このほか、増加する廃止措置資金の確保、廃棄物処理や廃止措置等に重点化した人材の確保も重要な課題だ。

(3)原発依存度の低減を実現するための制度設計を行うこと。これまで原子力を拡大一辺倒で進めてきた原子力政策の大きな転換になるため、電源三法とそれに基づく交付金制度、研究開発支援制度等、従来の拡大を前提とした法制度の見直しが必要だ。


撮影:Fumi Yamazaki

(4)核燃料サイクル政策の見直しを進めること。原発依存度の低減を前提にするなら、これまでの「高速増殖炉実用化を前提に、すべての使用済み燃料を再処理する政策」から転換することが不可避であろう。使用済み燃料を再処理せずに直接地層処分する「直接処分」政策の導入を進め、「もんじゅ」を含めた原子力研究開発の総合的見直しが必要だ。核燃サイクルの転換にあたっては、国内の地元自治体との合意形成にじっくり時間をかけていく必要があり、そのための場を設けることも重要である。

(5)最後に、これが最も重要と思われるが、原子力・エネルギー政策決定プロセスの見直しを進めること。民主党政権時に「エネルギー・環境会議」を作り、国民的議論の場として「討論型世論調査」など、新たな試みがなされた。必ずしもすべてうまくいったわけではないが、政策決定プロセスの改革の方向性としては間違っていなかったと思う。自民党政権になって、この動きが止まってしまったことが一番の問題だ。透明性と公正性、そして意思決定過程への国民参加が今最も問われているのである。日本でもエネルギー政策全般を根本から見直す「エネルギー政策臨時調査会(エネルギー臨調)」を立ち上げるくらいの覚悟が必要ではないか。また信頼できる情報提供を促進するため、「エネルギー基本計画」で書かれていた「客観的な情報・データのアクセス向上と第三者機関によるエネルギー情報の発信の促進」はぜひ実現してもらいたい。

信頼回復のために国会も努力を

以上、5点を提起したが、最も重要なことは、福島事故で失った原子力政策に対する「信頼の回復」である。そのためには、福島事故の教訓と反省を十分に踏まえることが不可欠だ。政府ができないのであれば、国会がやればよい。国会は行政府を監視することができるし、新たな政策決定プロセスを法制化することもできる。「憲法改正」よりも「エネルギー政策改革」のための「国民投票」も一つの選択肢だろう。選挙民としては、選挙はもちろんのこと、選挙後も議員がその期待に応えて十分な働きをするよう、監視し続けることが重要だ。今こそ国民的議論を再開し、選挙を終えた後も引き続き議論を続けよう。

著者プロフィール

鈴木達治郎
すずき・たつじろう

長崎大学核兵器廃絶研究センター センター長・教授

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授。1951年大阪生まれ。75年東京大学工学部原子力工学科卒。78年マサチューセッツ工科大学プログラム修士修了。工学博士(東京大学)。原子力工学を専攻後、技術と政策の関係、とくに原子力技術と社会の関係を中心に研究を行ってきた。核兵器と戦争の廃絶を目指す団体「パグウォッシュ会議」に参加して現在も評議員。2010年1月から2014年3月まで原子力委員会委員長代理を務める。2014年4月より現職。

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