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【総選挙2014】魅力的な候補がいないのは君のせいだ

  • 山本洋一 (ジャーナリスト(元日本経済新聞記者))
  • 2014年12月13日

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Photo by Ryo FUKAsawaCC BY 2.0

新聞やテレビは「選挙」「選挙」と騒いでいるが、若者世代の多くは他人事だと感じているのではないか。それもそのはず、政治家たちは君たちに向かって語りかけていない。なぜか、君たちが投票に行かないからだ

街を歩いていると、大音量を発する選挙カーとすれ違う。マイクを握るウグイス嬢たちは「皆様の年金を守ります」「高齢世代にやさしい街を作ります」などと叫んでいる。高齢者を見ると必死で手を振り、時には候補者本人が降りて握手を求めに行く。若者相手に、決してそんなことはしない。

理由は単純、高齢者の多くは選挙に行き、若者の多くは選挙に行かないからだ。前回2012年の衆議院総選挙では60代の投票率が74.93%だったのに対し、30代は50.10%、20代は37.89%だった

60代は4人に3人が投票するのに対し、30代は2人に1人、20代は3人に1人しか投票していない。マーケティング的に考えても、投票する可能性が高い高齢世代に狙いを絞るというのは極めて合理的な行動である。

現役世代は握手しただけではなかなか投票してくれない

しかも、若者を含む現役世代は握手しただけではなかなか投票してくれない。一方で高齢世代の中には握手した、直接話したというだけで親しみをもってくれる人が多い。政策ビラを配っていても、高齢世代の方が受け取ってくれる確率が高い。候補者やその支援者たちの目にはだんだん若者の姿が映らなくなる。

政治家が訴える政策の内容も高齢者寄りになりがちだ。若者の雇用対策をしっかりやると言うよりも、高齢者向けの社会保障を充実すると言った方が票に結び付くからだ。すべての世代が払う消費税率を引き上げ、高齢者向けに偏った社会保障給付を充実するというのはその典型例。これを「シルバー民主主義」と呼ぶ。

シルバー民主主義がこの国に何をもたらしたか。とてつもない「世代間格差」である。現在の高齢世代は自分が支払ってきた税金や保険料よりも多い額を年金や医療、介護のサービスとして受け取れるが、若者世代は支払いの方が多くなる可能性が高い。

1940年生まれの人は支払った額と受け取る額の差がプラス3000万円、2010年生まれの人はマイナス2800万円という試算もある。その差は約6000万円。そしてその格差は今、この瞬間もどんどん拡大している。若者が絶望して、年金保険料を払わなくなるのも無理はない。

みんな心の中ではやるべきだと思っているのに、選挙で落ちるのが怖いから口にできない

格差の拡大を止めるには現在の高齢者向けの社会保障給付を減らすしかないが、票田である高齢世代の嫌がる政策を訴える政治家は少ない。というかほとんどいない。みんな心の中ではやるべきだと思っているのに、選挙で落ちるのが怖いから口にできないのだ。

だから、若者がいい政治家を選ぼうと思っても、自分にとって魅力的な候補者がいない。だから投票に行かない。ますます政治家は若者向けの政策を打ち出さなくなるという、負の連鎖である

悪い流れを断ち切るにはどうすればいいか。若者が政治に関心を持つしかない。魅力的な候補者がいなくても、投票に行くしかない。誰でもいいから、一票を投じるのだ。すぐに効果は現れないかもしれないが、若者世代の投票率が高まればいずれ政治家も無視できなくなる。若者の声を拾おうとするようになる。若者世代にとって魅力的な政治家も増えていくだろう。

政治・行政にもやるべきことはある。投票率を引き上げるために、あらゆる施策を講じることだ。例えば現在、選挙の投票日は一日だけで、それも朝8時から夜8時に限られている。期日前投票という手もあるが、投票できる場所はごく限られている。

曜日や時間に関係なく働くサービス業の従業員や非正規労働者にとっては不便この上ない。投票に行かなくてもいいと言っているようなものだ。一定の期間中、何曜日でも、何時でも気軽に投票できるような仕組みを整えるべきだ。もちろん、なるべく税金を使わない方法で。

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朝日新聞社提供

ネット投票の検討も有意義だろう。携帯電話やパソコンで気軽に候補者の政策を比べ、ワンタッチで投票できるようになれば投票率は格段に上がるに違いない。すでにエストニアフランス(在外投票に限る)など導入済みの国もある。IT先進国である日本が率先して導入すれば、その仕組みを海外に販売する道もひらける

政治を批判するだけでは何も生まれない。政治家のレベルの低さを憂いでも何も変わらない。政治に関心を持とう。そして友人・知人を誘って、投票に行こう。

著者プロフィール

山本洋一
やまもと・よういち

ジャーナリスト(元日本経済新聞記者)

1978年名古屋市生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業し、2004年日本経済新聞社に入社。大阪本社経済部を経て、東京本社政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。その後、東京本社経済部で日銀や銀行なども担当する。退社後、国会議員公設秘書を経て会社役員。政策コンサルティング会社「政策工房」の客員研究員も務める。「政治をもっと身近に」をモットーに、政策や選挙制度などについて積極的に発信している。

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