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【総選挙2014】不在者投票の外部立会人、活用は1割 周知進まず

  • 朝日新聞デジタル:特集「2014衆院選」
  • 2014年12月8日


高齢者施設の入所者など、投票所に足を運べない有権者の施設内での不在者投票で、施設外の人が見守る「外部立会人」制度。不正投票を防ぐために昨年、制度化されたが、参院選で活用されたのは対象施設の1割だった。衆院選でも自治体の呼びかけが進まない。


特集:2014衆院選(朝日新聞デジタル)


甲府市の障害者支援施設「きぼうの家」。入所者約100人のうち、投票を希望する入所者が施設の一室にやって来た。施設の職員に加え、市選挙管理委員会が選んだ外部の立会人。約3時間のうちにそれぞれが投票用紙に記入し、用紙をまとめて職員が市選管に届けていった。

昨年7月の参院選の選挙中の風景だ。施設の担当者は「外部立会人を置いて公正性を保つのは、不在者投票でしか権利行使できない入所者のためになる」と話す。今回の衆院選でも、施設内で不在者投票の機会を設けるという。

昨年5月、公職選挙法が改正され、不在者投票で施設が外部の立会人を呼ぶ「努力義務」が規定された。それまで施設職員らが立ち会ってきたが、昨年、北九州市の特別養護老人ホーム職員4人が入所者の投票用紙に勝手に市議選候補者名を書いて投票したとして、公選法違反容疑で逮捕。同様の不正が各地で頻発したことを受けた。

ただ、新制度は十分に浸透していない。総務省によると、昨年の参院選で外部立会人を置いたのは、不在者投票をした全国2万1442施設のうち2780施設だった。都道府県別では、鹿児島の68%が最高で、山梨60%、鳥取58%と続いた。最低は熊本のゼロ。栃木(1%)、東京(1%)、兵庫(5%)、大阪(6%)など20都府県が1けた台だった。

熊本県選管の担当者は「判断は施設任せなので」と歯切れが悪い。周知不足が一因とみるが、急な衆院解散のため、今回は施設向けの説明会を開かないという。立会人候補の名簿作成を済ませた県内自治体は8月末で半分弱。「衆院選でどれだけ広がるかは分からない」と話す。

ある県庁所在市は「不正があった時、立会人が町内会長らでは責任を負わせづらい」として、名簿づくりが進まない。不在者投票日を選挙期間終盤に希望する施設が多く、外部立会人が足りないこともある。

別の自治体担当者は「病気感染防止の観点から、部外者が施設内に入ることに後ろ向きなところもある」と話す。施設側からも不安の声があり、札幌市の特別養護老人ホームの職員は「見慣れない立会人に取り乱す入居者がいるかも」という。

一方、東京都選管は今夏、選任手順など必要事務を区市町村と確認した。行政の準備不足が普及を妨げると考えたからだ。山崎孝広・選挙課長は「急な衆院解散で十分ではないが、法改正された以上、できる準備を進めたい」と言う。

総務省によると、施設で不在者投票をした人は、12年衆院選で約44万人いた。地方議員らでつくる「障害者の政治参加をすすめるネットワーク」事務局長の斎藤亮人(まこと)名古屋市議は、「全ての人の投票権を保障するために、投票所の透明性確保は大事。施設に導入を促すように選管が積極的に啓発と準備を進めるべきだ」と話す。(岡雄一郎)

      ◇

〈不在者投票の外部立会人〉 病院や老人ホームなどで公正な不在者投票を執行するため、施設外から立会人を呼ぶ制度。市区町村選管が元公務員や町内会役員ら候補者を事前に名簿化し、その中から選ぶのが原則。総務省によると、自治体が一時的に公務員として任命もできるが、民間人も務められる。実際に呼ぶかどうかは施設側の判断。国政選挙は国費で報酬が支払われる。


朝日新聞デジタル 特集「2014衆院選」
http://www.asahi.com/senkyo/sousenkyo47/

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朝日新聞デジタル:特集「2014衆院選」
あさひしんぶんでじたる

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