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【総選挙2014】「自民党より右」は評価されるか

  • 古谷経衡 (評論家/著述家)
  • 2014年12月11日


Photo by Junpei AbeCC BY 2.0

次世代の党の世界観

総選挙も、もはや終盤に差し掛かっている。私が俄然注目しているのは「次世代の党」だ。次世代の党は、御存知の通り今年8月に日本維新の会(現・維新の党)より、石原慎太郎氏を筆頭として、旧太陽の党系の議員らが分離独立して結成した政党である。

次世代の党は、端的に言えば「自民党より右」の性格を持つ党である。今年9月に入って、2014年2月の都知事選挙に出馬し第4位で落選した元航空幕僚長・田母神俊雄氏が「太陽の党」を引き継ぐ形で新党を旗揚げした際、「自民党の右側にしっかりと柱を立てる政党、健全野党が必要だ」(9.23 産経新聞)と語った。

その田母神氏は今次選挙では西村眞悟氏とともに次世代の党から立候補している。元来、維新の会の中で最もタカ派色が強かった石原慎太郎・平沼赳夫両氏らと田母神・西村両氏の合流により、明らかに「次世代の党」は「自民党より右の野党」として自他共に認識されている

「自民党より右」の存在である「次世代の党」を支持する、ネット保守や保守層の一部では、まさに田母神氏が述べたように「自民党の右側に確固とした野党勢力」が出現することにより、自民党そのものへの政策に影響をあたえることを目指す、ということをその支持の根拠にしている。

つまり、「自民党の政策が(彼らの言うところの)"左傾化”しないように、更に右の勢力が自民党を牽引する」という理屈である。この主張の延長にあるのが、「自公離間論」である。

「次世代の党」が公明党に匹敵する勢力に育つことによって、自民党の連立相手を公明党から「次世代の党」に変更させる、という世界観

「現在、自民党と公明党の連立政権となっているが、公明党が自民党にくっついているせいで、自民党の政策が時として中道やリベラル化し、骨抜きにされている場合がある。事実、集団的自衛権の解釈変更の際も、公明党に配慮して、解釈変更が徹底されなかったではないか」

というもの。その為に、「次世代の党」が公明党に匹敵する勢力に育つことによって、自民党の連立相手を公明党から「次世代の党」に変更させる、という世界観である。

この「自公離間論」は、東京12区から出馬している同党の田母神俊雄候補が、同選挙区の太田昭宏候補(公明党)と競っている中、繰り返し街頭演説などで述べていることだ。

安倍政権を批判的に観る人からは、「現状でも既に右傾化は進んでいるのだから、これ以上、右に進むなど、とんでもない」と思われるだろう

「穏健で現実的な保守」と「より過激な右」

私は「自民党より右」の勢力の存在が、「自民党を"正常化”する」という見方自体に、かなり疑問がある

一方で、安倍政権は支持するがまだ物足りない、と観る人達からは「公明党のせいで安倍政権の保守色がまだまだ弱い」と感じられている。後者の世界観を採っているのが、「次世代の党」とその支持者である。

「次世代の党」による「自公離間論」が機能する為には、少なくとも衆議院で現在の公明党に匹敵する約30議席、参議院でも同等程度、更に地方議会などでも大きな力と動員力を得なければならない。

それが実現できるかどうかはともかく、私は「自民党より右」の勢力の存在が、「自民党を"正常化”する」という見方自体に、かなり疑問がある。まず第一に、既に述べたように、「自民党より右」の勢力が自民党に影響をあたえるためには、相応の議席や動員力が必要であるということ。そしてその為にはやはり「有権者から支持される相応の説得力」が必要であることは言うまでもないが、この二つがクリアーされているのかどうか、疑わしい部分がある。

例えば「次世代の党」が「タブーブタのウタ」というCMソング(ネット上でのPRビデオ)を製作した。その中には、「生活保護のタブー」と称して、「日本の生活保護なのに 日本国民なぜ少ない 僕らの税金つかうのに 外国人なぜ8倍」というフレーズが登場する

周知の通り、生活保護受給者のうち、日本人世帯は実に97%を占める。日本人が少ないどころか、生保を受給しているのは圧倒的に日本人だ。

タブーを斬る、というのは結構なことだが、その「タブー」の指し示す内容が事実ではないのなら、それは「タブーを斬る」とは言わない。

「自民党より右」の勢力の存在が、「自民党を"正常化”する」という世界観が機能するためには、「有権者から支持される相応の説得力」が必要だと書いたが、この一点を見ても、そもそもその主張自体が事実と違うのだから、「相応の説得力がある」と認めるのは難しい。「事実とは違うことをタブーと称して、それを追求すること」という姿勢自体が、そもそも政治的な「右」に分類されるのかどうかも疑問である

もっとも、「次世代の党」の主張には他に観るべき点もあるので、この一点をあげつらうのも不公平な感はあるが、ただこのような主張が事実と違っていることは事実である

安倍政権を批判的に観る人からは、現政権は「右傾化の象徴」だと思われるだろう。安保政策ではかなりタカ派なことをやっているのは事実だが、自民党内でもハト派の議員は存在する。

また佐藤優氏がその著書『創価学会と平和主義』(朝日新書)で指摘しているように、公明党の存在が、「集団的自衛権」を骨抜きにし、自民党のタカ派路線に対してかなりブレーキをかけていることは、疑いようもない事実だ。

「穏健で現実的な保守」と「より過激な右」を問うバロメーター

私はそういった意味で、安倍政権は「かなりタカ派ではあるが、現実的な保守路線」として微温的にある程度評価している。「次世代の党」がそういった「現実的な保守路線」よりも更に右の姿勢を取るのであれば、それは有権者に対して「穏健で現実的な保守」と「より過激な右」を問うバロメーターになるだろう。

残念なことに、後者の路線の中に、所謂「ヘイトスピーチ」を繰り返す過激なクラスタ(集団)からの支持が少なくない数、含まれているのは事実だ。

選挙の結果は全く分からないが、仮に「自民党より右」を標榜する「次世代の党」の獲得議席が芳しく無ければ、有権者は「自民党より右」の存在を否定し、時として事実に基づかない過激な右の主張に「NO」と言ったことになる。

逆に「次世代の党」が躍進すれば、それは自ら「自民党より右」を自称している訳だから、「本当の意味での右傾化」が進行するだろう

「自民党より右」は評価されるか

「日本(社会)が右傾化している」「若者が右傾化している」というのは、ことさら近年言われているところだ。「右」の基準を何にするかによって変わるが、私はその主張は基本的に正しくないと思う。日本社会や若者は、「現実路線」を採っているだけで、「右傾化」とは程遠いと思う。

安倍政権には不満が多いが、かといって民主党では政策実行力に不安がある、という多くの有権者が「消去法」として自民党を選択することには容易に想像ができる。その行動は「右傾化」ではなく、「現実路線」の一種であると私は見ている。その「現実路線」から離れて、もっと過激な「右」の存在を有権者はどう判断するのか。

「自民党より右」を堂々と謳った政党が、これだけ大規模に国政選挙を闘うのは、かなり異例である。これまで「自民党より右」で過激と目された候補者は、全くの泡沫候補やミニ政党の候補として存在していた。或いは、例えば(旧)民社党の出身者などとして存在していたが、それらは無所属か既存の野党政党の中に所属していたのであって、彼らがこれほどまでの規模で大同団結した事例は、ほとんど存在していない。

「自民党より右」は評価されるか。選挙の結果が大きく注目される。


Photo by Junpei AbeCC BY 2.0

著者プロフィール

古谷経衡
ふるや・つねひら

評論家/著述家

1982年札幌市生まれ。立命館大学卒。NPO法人江東映像文化振興事業団理事長。ヤフーニュースや論壇誌などに記事を掲載中。著書に『インターネットは永遠にリアル社会を超えられない』『若者は本当に右傾化しているのか』『クールジャパンの嘘』『欲望のすすめ』など多数。TOKYO FM「タイムライン」隔週火曜レギュラー。

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