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【総選挙2014】アベノミクスに、アベノリスクを見る

  • 八木啓代 (歌手/作家)
  • 2014年12月6日


© iStock.com

アベノミクスの盲点

衆院解散総選挙が決まった。

デフレからインフレへといざなうはずの消費税8%が消費を冷え込ませて、実感としての経済は冷え込み、国債格付けは下がり、もはやスタグフレーションであるという声も出る中、これから2年後には明らかに経済政策の失敗が誰の目にも明らかなほどに露呈して批判が増え、苦戦になることを見越した上で、今ならまだ確実に勝てると見越しての、任期を半分も満たさないうちの解散総選挙であろう。

この状態で、アベノミクスを問うと言われて、いったい、どう返答すればよいのだろうか。

アベノミクスが主眼にしている経済政策では、法人を減税優遇し、さらに円安誘導することで、輸出企業の海外流出を防ぐというが、実際のところ、長年続いていた円高と、なによりも人件費の問題で、主だった輸出企業はとっくに海外に生産拠点を移している。私の知るメキシコでも、バヒオと呼ばれるメキシコ中央高原のアグアスカリエンテスからレオンイラプアト地域は日本企業の工場進出で、日本人だらけだ。こういった企業には、むしろ、円安は何のメリットももたらさない。

要するに、円安は国富を失っているに過ぎないのだ。株が上がったといっても、ドルベースにすれば、大した値上がりではない。むしろ、円安によって外国人投資家にとって、日本企業が買いやすくなったということだ。

そして、消費税。

消費税は、実際のところ、もっとも回収率の悪い税であることは、すでに齋藤貴男氏や岩本沙弓氏が指摘している。すなわち、零細や中小企業は、不況下では消費税を価格に上乗せすることができにくいため、結局、自分で身を切るほかはない。そして、そういった消費税をまとめて支払わなくてはならないのは翌年の春になるから、そこで消費税を払えない零細中小企業が続出するということだ。おそらく8%に上がって最初の消費税支払いとなる2015年春には消費税倒産が続出するだろう。

日本の税制は、大企業に非常に甘く消費者に厳しい

一方で、消費税は、輸出企業に対して還付を行っている。全商連のデータによると、この還付(リベート)が、消費税5%の2009年の場合で、なんと総額12兆475億円、3兆3762億円を占めている。すなわち、私たちの払っている消費税のうちの3割は輸出企業に還元されているのだ。しかも、そのうち、還付金が1番多いのはトヨタ。2位がソニー。3位が日産。上位10社だけで還付金は約8000億円に上る。


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では、これらの企業がどれだけ税金を払っているのか。日本の法人税率は世界一高いという都市伝説があるが、もちろん事実ではない。米国のカリフォルニアの法人税率の方がはるかに高いし、さらに、実際には法人税には抜け穴が多く、たとえばトヨタが2009年3月期から2014年3月期までの5年間、法人税を1円も払っていないことはつとに知られた事実である。消費税分として、2106億円の還付金を国からもらっているにもかかわらず、である。経団連が消費税を上げたがる理由がここにある。実際には、日本の税制は、大企業に非常に甘く消費者に厳しいものとなっているのだ。

そして、そのトヨタやソニーといった「日本の企業」も、現実には、いまや、株主のかなりのパーセンテージを外資が占めている。たとえば、トヨタを例に取ると、トヨタの上位大株主10位のうち3社は外資で、その割合は、合わせると20.03%ソニーの場合は、すべての株式のうち、28.39%を外国人投資家が占めている日産に至っては、すでに日本企業ではなく、外資は72.5。この3社の配当金にすれば、それぞれ、年間、トヨタで約440ソニーで72日産は約910億円が外国に流れていることになる。

アベノミクス解散というより、アベノリスク解散

円安誘導のせいで、こういった日本企業の株が、ドルベースあるいは元ベースではさらに下がり、アメリカや中国の外国人投資家に買い漁られるという状況を、いったいどう判断したらよいのだろうか。日本の一般消費者や日本企業の99.7%を占め、かつ、日本の技術力の要といえる中小零細企業に厳しく、経団連を構成する大企業には甘く、さらに国富をどんどん外資に吸い取られていっているのがアベノミクスの実情だとしたら、もはや、これは、アベノミクス解散というより、アベノリスク解散と言うべきだろう。

特定秘密保護法は安倍政権の置き土産

さらに、特定秘密保護法を強行採決によって決議したのが安倍内閣であることも忘れてはならない。

つい先日、イスラム国への渡航を目論んだ北大生が、私戦予備及び陰謀罪で逮捕される事件が起こったが、この聞いたこともない罪状は、そもそも、明治時代初期に、たとえば薩摩がイギリスに勝手に宣戦布告したりすることがないように定められたような法律だ。こんなカビの生えた法律を引っぱりだしてきて、さらに、北大生に情報提供しただけのジャーナリストの常岡浩介氏も家宅捜査された上、同罪の被疑者とされ、いつ逮捕されてもおかしくない状況となっている


朝日新聞社提供

それでなくても、沖縄の普天間基地ゲート前の座り込み反原発デモや反ヘイトデモでも、いわゆる「転び公妨」による逮捕が行われているし、つい先日の京都大学熊野寮への家宅捜査も、証拠隠滅の恐れなどおよそ考えられないにもかかわらず、執行されている。現行法ですら、これほどの法律の拡大解釈や恣意的な運用が可能なのが、日本の司法の憂うべき現状なのである


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これで、特定秘密保護法などで「なにが国家の秘密であることなのかも秘密」などとして、それで逮捕や家宅捜査が行われるとしたら、まさにファッショ国家としか言いようがないが、その特定秘密保護法が、この12月10日から施行される。これも安倍政権のやったことである。

唯一の方法は、「信任しない」ことでしかない

経済政策も無茶苦茶であるなら、立法にも問題があるこの政権に、何をどう期待しろというのだろうか。唯一の方法は、「信任しない」ことでしかない。

「どの党に投票したいか」ではなく、ただ「信任しない」ための投票である。それはもちろん、白票などではない(白票は、事実上、最大政党=自民党を信任していることにしかならない)。

以前、私は、東京都知事選の時に、「鼻をつまんで煮え湯を飲む」と書いた。今回も同じである。自分の選挙区に入れたい候補者や政党がなかったら、私は鼻をつまんで、自民党次世代の党以外に入れる。その選択肢が、少なくとも自民党、正確には安倍政権への不信任を示す唯一の方法だからだ

そして、いつか野党が沖縄戦で見せたような共闘を示せる時を待つしかないと思っている。いまは、とりあえず、自民以外で。

著者プロフィール

八木啓代
やぎ・のぶよ

歌手/作家

中南米と日本と拠点に活躍する歌手であり作家。ここ3年は「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」代表として暴走検察を追い詰めるアクティビストも兼ねる。

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