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権力という貪欲な獣たち
小林秀雄が「昭和27年」という文章の中で、孔子の中庸をこう解釈している。
中庸は右や左という極端を避け、その中間を行くことではない、
中庸とは、自分で考える精神の復権であり、これほど過激で困難なことはない
と。
一見、中庸と似たものに、日和見主義がある。自分でものを考えずに、勝ち馬に乗ろうとじっと世の中の流れを眺めている輩である。
この日和見主義者が増えたときに、世の中は大混乱に陥る。
権力者は貪欲な獣でありその食欲は際限がない
権力闘争はいつだって上部のほんの一握りの人たちの中で行われる。権力者は貪欲な獣であり、その食欲は際限がない。彼らは自分の欲望を正当化するために、思想とやらを巧みに利用する。
権力基盤が安定しているときは、日和見主義者は時の権力に荷担する。権力者は教育によって国民を思考停止状態にすればいいだけである。
だが、上部での権力闘争の結果、権力がほんのわずかでもどちらかに傾いたとき、大多数の日和見主義者がいっせいに勝ち馬に乗ろうとする。その時、世の中は大混乱に陥る。
日本でも、昭和初期に知識人たちは左翼思想に傾いたが、その10年後には世の中は一斉に軍国主義に舵を取った。
日和見主義者は思考停止状態のまま、時の流れに身を任せるだけなのだ。
その結果、フランス革命、ロシア革命、辛亥革命と、その後には必ず大混乱と虐殺が待ち受けていた。
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小林秀雄の絶望
昭和27年、戦後7年たって、小林秀雄が見たものは、戦時中に「お国のために」といった同じ人たちが民主主義だと騒いでいる光景だった。
何だ、誰もものを考えていなかったんだ——そういった絶望が小林秀雄に「昭和27年」という文章を書かせたに違いない。
誰もが自分でものを考えていれば、人それぞれ様々な意見があるのだから、世の中が極端に一方向に流れていくことはないのに。
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今回の選挙は何を基準に投票すべきか
さて、今回の選挙である。
経済だけでなく、原発再稼働、集団的自衛権、特定秘密保護法、TPP、そして、憲法改正と日本の未来を決定づける重要な選択が私たちに突きつけられている。
個々の問題に対して、私なりに言いたいことは山ほどあるが、何か一つを基準に与党か野党かを選択することが困難なので、私は今の空気を選択基準にする。
今の空気を是とするか、非とするかだ。
安倍政権になって、この短期間に確かに空気が変わった。
撮影:佐藤航
たとえば、書店には嫌韓・反中といった本が山積みされている。以前は、このような光景は見られなかった。何も韓国や中国を全面的に肯定するわけではない。私が気になるのは、このどんよりとした空気なのだ。
ほんの少し前は韓流ブームだった。今、ネット上で韓国を攻撃する人は、韓流ブームの時同じような発言をしただろうか?
かつては日陰的な存在だったネット右翼の勢い盛んなこと。そして、朝日新聞の従軍慰安婦誤報に対する、マスコミの執拗な攻撃。さらには歴史修正主義が堂々とはびこっている今の風潮。
撮影:河野嘉誠
このような空気を私は今まで一度も感じたことがない。
マスコミの予想報道通り、もし、与党が憲法改正可能な議員数を獲得したとき、果たして日本はどうなるのか?
実は、私は国民を信用していない。
小林秀雄が絶望したように、みんな日和見主義ばかりではないか。
国民が思考停止状態に陥った世の中で、与党が絶対的な権力を握ったとき、歴史が証明したような事態にならないとも限らない。
だから、今回の選挙の最大の争点は、この空気を是とするか、非とするかだと、少なくとも私は思う。
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