ポリタス

  • 論点
  • illustrated by トヨクラタケル

【総選挙2014】選挙は、ゴールでなく始まり。

  • 箭内道彦 (クリエイティブディレクター)
  • 2014年12月13日


撮影:箭内道彦

どうやったら投票率が100%になるんだろう?

ずいぶん前に、投票所には全有権者数の80%分の投票用紙しか用意されていないというニュースを見たことがあります。

そのことに対して、ふざけんな! 国民をなめんじゃねえと憤るか、コストの無駄を抑えた選挙管理だねと讃えるか、いやいや現実的にはもっと減らさなきゃ駄目だよと斜めから見るかは様々でしょう。

僕はその時、かなり頭に来ました

有権者全員が選挙に行って投票所の投票用紙を足りなくさせて、ざまあみやがれって言いたくなった。白票だって構わないから。

どうやったら投票率が100%になるんだろう? と、僕は考えました。

棄権も意思表示だと言う人がいるけれども、たとえば、棄権した人は税金2倍! とか。でもそうしたらどうなるんだろう。投票率が上がることは、自分に投票する人が増えることだと、全ての候補者が思うのかな。そんな単純なのかな。実は、対立候補の票のほうが増えることだってあるんじゃないかな。つらつらとそんなこと考えてたら、政治は、選挙に行かない人によって支えられているんじゃないかっていう、変な仮説が頭をよぎったりもしました。

選管の選挙のCMは、一般の企業のCMに比べると異質でもあります。どうしても買って欲しいという商品CMの熱量に対し、冷静な抑制を感じたりもします。職業柄。

あなたが投票して当選した政治家が恥ずかしいことをしたら、あなたの恥にもなる。

ところで、前回の総選挙であなたが投票した候補者は誰でしたか? 比例代表の政党は? その前の選挙は? その前の前は? その前の前の前の前は? 最初の時は? 意外と覚えていなかったりする人もいるんじゃないでしょうか。僕も正直あやしい部分もあります。場合によっては、たとえば党自体がなくなっちゃったり党名が変わっちゃったりすることもありますよね。

30年間、僕は衆議院参議院、地方議会、首長選挙、全ての選挙で必ず投票をして来ました。その時その時でめちゃくちゃ悩んで考えて投票をして、その候補者が落ちたり受かったりして。その政治家がその後、逮捕されたこともあります。選挙区は違うけれど、期待していた政治家が自殺をしてしまったことも。そして、政権交代を叶えた政党がした失敗も。

選挙は、ゴールでなく始まりです。投じた票の行方。その政治家や政党に対する監視も応援も叱咤も続けなければならない。有権者にとっても、選挙の後がずっと大変です。忙しい。あなたが投票して当選した政治家が恥ずかしいことをしたら、あなたの恥にもなる。

「投票に行こう」という呼びかけの意味が、一部で少しだけ歪んで来たように感じる時があります。

「世界を変えたくない」も「世界を変えたい」も、どちらも尊い

「投票に行こう」という言葉には、発する側に重い負荷があります。投票には、恐ろしい責任が付きまとう。何にも考えてない人が何にも考えず投票すること、それはそれでもちろん権利ですが、難しさももちろんあります。

ひとつ、老婆心です。「投票に行こう」という呼びかけの意味が、一部で少しだけ歪んで来たように感じる時があります。自身が応援する特定の党・候補者や、政策の実現や阻止のための投票の呼びかけに使われている光景をたまに目にします。その使われ方に僕は違和感を感じる時があります。以前はもっと、下心や特定の意図のない純粋な呼びかけだったはずです。

「投票に行こう」は、「世界を変えよう」だけではないと思います。「世界を変えたくない」も「世界を変えたい」も、どちらも尊い。それが民主主義の多様。僕は、そう思います。

否定し合うのではなく、互いの違いを尊重し合いながら、力を合わせたい。

否定し合うのではなく、互いの違いを尊重し合いながら、力を合わせたい

違う候補者に入れた者同士は、敵ではありません。自分の思いを託す相手をそれぞれに表明しただけ。権利と義務を公使して、今後の責任を負っただけ。否定し合うのではなく、互いの違いを尊重し合いながら、力を合わせたい。ポリタスという場を立ち上げた津田さんからのオファーに、そのことを伝えたくて僕はここに来ました。

今は、宇宙人が攻めて来たくらいの危機なのですから。

今回の選挙は特に、投票する側も試される選挙です。有権者それぞれが、自力で争点を持たなければいけません。

僕たちは、選挙とともに大人になっていくのだと思います。完璧はありません。失敗して、裏切られて、後悔して、そういった経験も大事なのだと思います。

この選挙にかかる費用は700億円とも言われています。そのお金で、どれだけ東北に復興住宅が建つだろうと考えてしまう自分もいます。大切な選挙であることは間違いありません。


撮影:箭内道彦

著者プロフィール

箭内道彦
やない・みちひこ

クリエイティブディレクター

1964年福島県生まれ。主な仕事に、タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、リクルート「ゼクシィ」など。「月刊 風とロック」(定価0円)発行人でもある。

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