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【総選挙2014】「戦略投票のススメ」と「安倍政権後への備え」

  • 岩田崇 (株式会社ハンマーバード代表)
  • 2014年12月14日


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要点は2つ

1:自民党以外に投票したほうが、野党にも自民党にもきっといい

2:政治のOSをあたらしいのに入れ替えませんか?

「戦略投票!」

戦略投票とは本当に支持していなくても、選挙結果を少しでも自分の考えに近づけるために、支持していない候補者、政党に投票する投票の仕方です。

今回の選挙、きっと、安倍政権が勝ちます。

安倍政権の特徴は、人気取りのためのある程度の理性的経済政策ロマンチックな歴史観に基づく国家観のもとに進められる外交及び安全保障政策のセットです。

だからアベノミクスで株価が上がっていいじゃんなんって言っているともれなく集団的自衛権改憲が付いてきます。抱き合わせ販売です

選挙で大勝ちすると、ロマンチックな方が前面に出てくる可能性があります。

そんな状況になると、政治不安が増し、自民党内も内部の統制が効きづらくなります。それは自民党にとってもマイナスではないでしょうか。

経済政策で、株価が上がって個人資産も100兆円くらい増えたから良いという人も居るかもしれませんが、これは社会保障費がうなぎのぼりで、高齢者をはじめ日本人全体の生活不安が解消されない問題には回路がつながっていません。お金が一部に偏って存在しているからです。

再配分のデザインは最もクリエイティブな政治の仕事ですが、それが現政権及び自民党で行われる気配はありません

再配分のデザインは最もクリエイティブな政治の仕事ですが、それが現政権及び自民党で行われる気配はありません。お金があっても使い方がわからなければその価値は大きく減じます。

安倍政権の良さを引き出すには、あんまりロマンチックな方向に行き過ぎない程度にブレーキを用意することが必要です。

ゆえに、自民党の経済政策が比較すると一番まともだからと言って、自民党に入れるより野党に入れておいて自民党が肥大化しないほうが、却って経済政策が機能しやすくなるのではないでしょうか

もう、政治のOSがダメだというのに……

日本の政治システム、選挙制度は一票の不平等をはじめ制度の不備があるために、国民主権が十分に確立していません。

今回の解散まで与党自民党は、59%の投票率43%の得票率で衆議院の79%の議席を占めていました。つまり、有権者10人中3名弱の支持で、国会の約8割の議席を専有できるのです。これに一票の不平等も重なっています。

多数決すら機能していないとも言えます

このことが、エネルギー、被災地復興、地方活性などの重要政策がイノベーティブに進まない背景にあります。

もう、日本政治のOSは壊れております

ついでに言うと民主主義がうまく言っていないのは、世界的な問題です

投票率の低下は世界的な傾向で、若年層の低投票率も先進国に程度の差こそあれ共通しています。よく北欧の事例がでますが、あれは地政学的要素も含め、うまくいっている例外です。

若者の運動がダメな理由

ここで若者の投票率を上げる運動をしてもダメなんじゃないかと思います。

むしろ、OSがだめな事実を認識できずに、若者運動みたいなことをしているから結果、大人に迎合しているように見えてダメなんじゃないですかね。

「信頼」が社会が成長するエンジンになる

カチコチに凍っている民間預金が投資に向かないのは、未来に向けての『信頼』形成に日本社会が取り組んでいないからです。信頼形成というのは、たとえば、町並みや景観という価値をつくるために、家の形が制限されたりすることに個人が賛成することです

日本の場合、共有する生活空間についての信頼が形成されていないので、自分の家だけは少しでもよくしたいと思って、どうしようもない高級なスラムが広がっています。

ここで、この街の景観を100年以上先を考えてつくろうとすることが「信頼形成」です。実際に、これをやろうとすると、景観法のレベルではなく、税制や教育なども含めた包括的な取り組みが必要です。少々面倒。

しかし、面倒なことを楽しみながら未来に向けて進めてゆくのが『信頼』に基づく成熟した社会ではないでしょうか。

第47回衆院選の後に向けて-政党が看板だけの社会への備え

自民党の党員数は減少の一途をたどっています。ほんの数十年前、かつて500万人を越えた党員、党友はすでに100万人を割っており、高齢化も進んでいます

政党システムとしての体裁を整えられるのかどうか、ちょっとわからなくなるかもしれません。

現在、私を含む40歳代以下の人たちは、この"政党が看板だけ"の状態をどうするか考えて備える必要があります

かつてプラトンという民主党がつくった政党シンクタンクがありました。政党としての機能として、「考える」ことをやろうとしていたんですね。

でも、実際に私、当時、虎ノ門あたりのオフィスに取材して聞いたのですが、党の幹部が選挙に勝つことばっかり考えて、あまり大事にされていないと言っていました。

中長期を「考える」ことを放棄した社会は滅びます。いま、日本社会に「考える」ことを担う人々や組織ってどの程度いるのでしょうかね。

少なくとも先進国は、政党に政策を「考える」機能を持たせていますし、NPOがその役を担うこともあるようです。官僚や官僚の仕事を受託する会社以外に「考える」機能をつくる必要が高まると考えています。

新しいOSについて

政治家個々人と、国民個々人を継続的につなぐメディアが有効だと考えています。私が考えているのは、「政治家と国民が設問を通じて互いの適合率を把握できる」ようにすることです

この仕組みは、大学院での研究で、当時の現職国会議員100名以上と1万人のモニターに参加いただいたプロトタイプで効果を確認し、特許を取得しています。

現在の民主主義は、選挙で信任された議員が、選挙の争点となっていないことも政策立案し決められます。たとえば民主党は消費増税することを謳っていませんでしたね。これでは『信頼』なんぞ生まれません。

議員は選挙に勝つことを目的にするようになりますし、エージェント(代理人)である政治家への国民からの期待も低下してしまします。

この隙間を埋めるものとして、英米では政党の活動が活発であったり、手法として熟議討論型世論調査というものがありますが、そうしたものにも明確な弱点があります。これらの弱点、現在の民主主義の欠陥を解消する方法とは何か? を考え、継続的に「政治家と国民が設問を通じて互いの適合率を把握できる」仕組みの発明に到りました。

私は、この仕組みと考え方をPRM(Policy Relationship Management)と名づけています。このPRMの自治体版を栃木県塩谷町の「塩谷町民全員会議」としてスタートすべく準備しています。

たとえば、通常の世論調査と選挙の組み合わせでは、先ほど、『信頼』形成の例で挙げた、町のあり方は争点になりづらく、票にもなりづらいため政策になりづらいものですが、このPRMによって、政治家と住民それぞれが町のあり方について意思表示を行い、そのデータが蓄積されることで、政治家は票の動向を確認しつつ、住民は政治家と他の住民の回答動向を確認しつつ、意思形成に参加できます。

自治体の首長がその自治体独自の強みをつくるべくリーダシップを発揮しやくすなるのが自治体PRMです。

また、政党単位でPRMを活用することで、政党内の政治家と支持者の『信頼』を形成することができます。一種の政党内メディアとなるでしょう。

そして、新しいサービス型メディアとしてのPRMも構想しています。

日本政治の課題は国会の審議機能の空洞化

日本政治の課題は国会の審議機能の空洞化です。党議拘束が異常に強いために、国会内審議では個々の議員の行動は限られます。また、党内審議の動きは殆ど見えないため、結果的に、案件を成立させるかどうかが焦点となり、与野党対決が助長され、国会からイノベーションが起きなくなっているのが現状です。

ゆえに、国会の外にバイパス、"すのこ”のような政治と国民とのコミュニケーションデザインを構築が日本の政治のOSの入れ替えとなるのではないかと考えています。

2015年は、日本の政治のOSを本格的に入れなおす最初の年になるような気がしています。

著者プロフィール

岩田崇
いわた・たかし

株式会社ハンマーバード代表

株式会社ハンマーバード代表。1973年、名古屋生まれ。早稲田大学を卒業後、販促企画から経営戦略へとマーケティング分野でキャリアを積む中で、政治システムのデザインがこれからの社会に重要になると考え、会社を退職。独立後、慶応義塾大学大学院にて、政策・メディア修士:MMG Master of Media and Governanceを取得。テレビ、新聞とソーシャルメディアの連携企画、公共政策などに携わりつつ、特許取得の研究成果による新しいメディアデザインに取り組んでいる。

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