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ポリタスで沖縄県知事選について書くときも随分と筆が進まなかったが、今回の衆議院選でも、同様に筆が進まなかった。
現象面は似ていても理由は随分と異なっている。
沖縄県知事選で筆が進まなかったのは、「構造的な差別を受けている側の人々について、それを受けていない人々が何かを語ろうとする場合に、どういう態度をとるべきなのか」、という問いについて暫定的な答えを出すのに苦労していたからだった。だから、付け焼き刃と知りながらも沖縄に行って、人の話を聞いたことでやっと原稿を書き上げた。
一方で、今回の衆議院選挙では、「特に書くことを見いだせなかった」のが筆の進まない大きな理由だった。私一人かと思っていたら、他の人もそうだという。これだけ皆が白けている選挙も珍しいのではないか。
今回の解散の意図は、(1)野党が未だに内部の混乱を抱えている現状で選挙をすれば、再び与党が圧勝することになるため、与党が政権を保持する期間を低リスクで伸ばすことができること、また(2)今回の大勝によって少ない議席のまま耐え忍ばなければいけない野党をいわば『兵糧攻め』にすること、にあるとする声がよく聞かれる。
すなわち、解散は(国家)戦略というよりは戦術上の要請から行われたものであり、だからこそ目立った政策上の論点(=国家運営戦略立案における意見の違い)が存在せず、結果として「つまらない」選挙になっているということだ。
この白けた感じが、例年にない寒さとあいまって低い投票率に結びつくことになると、それは結果として固定票を多く持っている与党に有利に働く。実際、今回の選挙の投票率はおそらく過去最低となり、自民党が圧勝するだろうと考えられている。この白けた感じすらも狙っているのであれば、見事という他ない。
一応、今回の論点は現政権の経済政策であるアベノミクスにあるといわれている。筆者としては、強力な対案が提示されていない政策を論点とよぶのか疑問ではあるものの、当該経済政策に関して、あまり日本にいない立場から見える風景を書いておきたい。
金融緩和・財政出動・成長戦略(規制緩和)というアベノミクスの3本の矢のうち、最初の2つと最後の1つは大きく性質を異にしている。金融緩和と財政出動は大きな政府の発想に基づいており、誰も直接に痛い目に遭うものでない。一方で、規制緩和による成長戦略は小さな政府の発想に基づいているものであるとともに、その実行は既得権益層による強烈な反対を伴うものでもある。
よって、第3の矢の実行における政治的な難易度は、他の2つに比べ段違いに高い。こういった難易度の高い仕事をするためには、大きな政治的資本(Political Capital、平易にいえば反対を招きやすい政策も実行できるほどの支持の強さ・人気のこと)が必要となるが、筆者の目には過去2年間の自民党にはそれが十分あるように思われた。
しかし、現政権の有り余った政治的資本は、外交政策に比べるとあまり規制改革には費やされてこなかったように見える(もちろん、中国の台頭著しい近年において、外交政策は非常に重要な論点であるが)。積極的な女性登用については、国内では色々な動きがあるものの、世界経済フォーラムが毎年発表しているグローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート(2014年版)でも日本のランキングは104位と低調だ(2013年レポートでは105位、2012年は102位)。元から約束されていた、電力・農業の規制緩和は特に大きな進展が見られていない。
実際のところ、自民党の圧勝が確実と目されていた前回衆院総選挙前から、市場関係者の間では「安倍政権になった直後に株価が吹く(一気に伸びる)が、長続きはしないだろう」という噂が流れていた。当然ながら、企業の時価総額は企業が長期にわたってどのくらいの確かさでどの程度の利益を出し続けられるかによって決まるわけであるが、その長期的な株価上昇を支えるには、規制緩和によって巨大な非効率を無くすことが必要になり、現政権はそれを出来ない、もしくは、しないだろうという予想がされていたからだ。
この成長戦略への抜本的なテコ入れを伴わない金融緩和と財政出動を、ある金融機関の重役は「アベノミクスはダンスパーティのようなもの」と喝破していた。「音楽が鳴っている間は、酒を飲み続け、踊り続けないとバカを見る。でも、やり過ぎると二日酔いになって、『あんなにはしゃがなければ良かった』と反省する。どのあたりでダンスホールを去るのかの頃合いを見計らうのが難しい」と。
しかし 、安倍総理は先日、The Economistのインタビューにおいて、今回の選挙で大勝してさらに力を得た場合には、電力・農業・医療分野において大幅な規制緩和に取り組むと話している。実際にどうなるかは選挙後に明らかになるだろう。
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