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【総選挙2014】テレビは選挙報道をお祭に

  • 大谷昭宏 (ジャーナリスト)
  • 2014年12月10日


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今回の選挙で、テレビ局のお定まりの企画、「この選挙を○○と例えると」という問いかけに、私はフリップに「私、失敗したので選挙」と書かせてもらった。言うまでもなく、とんでもない視聴率をはじき出しているテレビ朝日のドラマの決めぜりふをもじらせてもらったのだが、その心はもちろん、アベノミクスは失敗した、ずっこけた。だから消費税を上げるどころではなかった。その失敗を糊塗するために、師走のこの忙しいときに国民に選挙を押しつけた。そう言いたかったのだ。

だけど、実際にフリップに書けたのは、一部のローカル局の、それも公示前だけ。キー局では、たとえ公示前であっても、この程度のお遊びも許されない。やんわりと自粛を促されたり、空気を読んでこちらから引っ込めるしかない。自分なりに考えたつもりのこのフレーズも、全国の視聴者の目にふれることは、ほぼなかったのである。

なにも私のしょうもないボヤキを聞いてほしくてこんなことを書いているのではない。昨年末に国会で成立した特定秘密保護法は、いよいよこの2014年12月10日に施行される。実際に法律として歩き始めるのだ。私たちメディアに籍を置く者に限らず、誰にとっても、まことにやっかいな法律ができたものである。もの言えぬ時代の到来。いつ、この法律が私たちに牙を剥いて襲いかかってくるのか。本当の戦いはこれからだ。 

だけど、ここで声を大にして言っておかなければならないことがある。こと選挙に関してはとっくの昔に、もの言えぬ時代がやってきているということである。

こんな辛気臭い、陰険で陰鬱な選挙はやめよう

そこで、だ。突拍子もないことだと思われるかもしれないが、この際、私は選挙報道お祭騒ぎを真面目に提案しようと思っている。こんな辛気臭い、陰険で陰鬱な選挙はやめよう。お神輿ワッショイ、鉦や太鼓に、縁日の屋台。酔っぱらいもいれば、派手な喧嘩もあり。不謹慎と思われるかもしれないが、いまの選挙報道より、はるかにおもしろい。

そもそも、民主主義の根幹をなす選挙制度は、いまの日本では20歳になったらだれでも参加できる。酒やたばこと一緒にするわけではないが、大人になったら、みんなが手に入れるイベントへの参加資格のようなものではないか。それに、だれが勝って、だれが負けるのか、ある種ギャンブル性もある。だから政治のイベント、民主主義最大のお祭という気がするのだ。

かつてはテレビに、その要素は間違いなくあった。私も体験している。だけど、それは2005年の小泉郵政選挙のときまでだったと思う。例の刺客騒動小泉チルドレンの、あの選挙である。出演していたワイドショーでさんざんやり倒した。郵政民営化に反対するあの女性議員のところに、こんな女刺客が送り込まれた。あの大物議員のところには、こんな人気者がぶつけられた。連日、そんな話題でワイワイガヤガヤ。

選挙報道を取り巻く状況は、この10年足らずで極端に悪くなっている

聖子ちゃんのところには、ゆかりたん短い亀を取りにいったのは、当時はときめいていたホリエモン片山の虎さんに挑んだのは、後々、ぶってぶってが趣味だったことがわかる「ぶって姫」。いま考えると、よくこんなことができたという気がしないでもないが、だけど、まだ10年もたっていないころの出来事なのだ。要するに選挙報道を取り巻く状況は、この10年足らずで極端に悪くなっているという証左でもある。

たかだか井戸端会議ができなくなっただけではないかという声もあろうかと思うが、そんなことはない。このときは小泉改革をテーマに、たとえば、地元の人が大物政治家の名前をつけた○○ダム○○道路○○高速を連日のように取り上げた。巨費を投じて造られたのに、出来たときには水資源の需要は激減。ただ、水を貯めておくカメでしかなくなった巨大ダム。誰も通らないので、スケボー愛好家の格好の遊び場になっているバイパス道路。車よりタヌキやキツネ、シカの通行量が多い高速道路。

こうしたことを報道することによって、普段あまり政治に関心のなかった視聴者に、じつは政治家は地元に利益を誘導するように見せかけて役所に無駄な公共事業を発注させ、それを請け負う建設業界から多額のリベートを還元させていることを知らしめるのだ。もちろん、その分、工事費はかさむわけだから、無駄な税金がそこに注ぎ込まれたことになる。その金は、結果、大物政治家の後援会や政党支部に流れ込み、選挙のときはそれが資金となって有権者の取り込みに使われる。つまり国民は、せっせと税金を払って政治家の選挙資金を作ってやっている。だから、いまのアベノミクスもそうであるように、政治家は景気対策というと、ふた言目には公共事業、公共事業と叫び倒すのだ。

こうした報道によって、それまでおよそ政治なんかに興味のなかった視聴者がはじめてそのカラクリを知る。それは保守政治家にとって、刺客騒動報道以上に嫌なことだったに違いない。その報道の効果は、小泉政権のあとを継いだ第一次安倍政権でじわりと効く。政治とカネをめぐって、安倍お友だち内閣は馬脚を現して閣僚は相次いで辞職に追い込まれ、とうとう安倍さんはお腹が痛くなって政権を放り投げてしまった。小心者であることを天下にさらけ出してしまった。

そのときのトラウマがある。メディア憎しがずっと続いているのだ。言い換えれば、新聞、テレビに脅えているのだ。だから選挙のたびにグジグジと注文をつけてくる。注文ならまだしも、最近では脅しともいえるプレッシャーをかけてくる。このたびの選挙でも、それこそ首相のお友だち中のお友だちの首相補佐官とやらを使って、かつてのテレビ朝日の椿発言まで臭わせて選挙報道にちょっかいをかけてきた

テレビが「脅えた男」に脅えていてどうする

だけど、メディア、とりわけテレビがそんな「脅えた男」に脅えていてどうするんだ。といって、まともにやり合っていても揚げ足を取られるし、なんといったって相手は権力者だ。だからこそ、私はお祭騒ぎをやろうじゃないかと言っているのだ

鉦や太鼓に笛の音。一升瓶をあおってワッショイ、ワッショイ。横で辛気臭い暗ぁーい目をしている奴がいたら、なんだ、この陰気な野郎は。とっと失せてくれ、祭が台無しだ、と啖呵を切る。そうなったら、選挙報道にいちいち文句もつけていられまい。文句をつける方が粋じゃないね、空気が読めない無粋な野郎だね、ということになる。

だから、この祭を煽りに煽ろうじゃないか。大ウチワで扇ぎ倒して、元気をつけようじゃないか。大ウチワが足りなくなったら、ちょっと小ぶりだけど、松島みどりさんからウチワもどきを借りて来い。

テレビ局のみなさん、楽しく、おもしろく、このくらいの意地と元気を見せようじゃないの。


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著者プロフィール

大谷昭宏
おおたに・あきひろ

ジャーナリスト

1945年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。68年、読売新聞大阪本社入社。徳島支局を経て、本社社会部記者として大阪府警捜査一課や朝刊社会面コラム「窓」を担当。87年に退社後は、故黒田清氏とともに「黒田ジャーナル」を設立。2000年に黒田氏没後、個人事務所を設けて、新聞、テレビなどでジャーナリズム活動を展開している。主な出演番組は、テレビ朝日「スーパーJチャンネル」、TBS「ひるおび!」など。日刊スポーツにて毎週火曜日にコラム「フラッシュアップ」を連載。著書に「事件記者という生き方」(平凡社)「冤罪の恐怖」(ソフトバンククリエイティブ)、共著に「権力にダマされないための事件ニュースの見方」(河出書房新社)などがある。

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