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【総選挙2014】今度の選挙でほとんどの人が対応を誤るたった一つの理由

  • 岩崎夏海 (作家)
  • 2014年12月14日


© iStock.com

最近、ドラッカーの『イノベーションと起業家精神』を読んでいて、ハッとさせられる記述に出くわした。それは、1960年代から80年にかけて、医学の進歩によって人々の寿命が延び、健康に関するあらゆる数値が上向きになる中で、「健康に対する不安」もまた、ますます増えていった――というものだ。皮肉な話だが、人は、医学が進歩すればするほど、健康に対しての不安を抱くようになった。普通は健康への不安は減るものと考えるが、実相は逆なのだ。

しかし、これはよくよく考えれば納得のできる道理だ。それは、「不安」というものの本質を考えるとよく分かる。

健康不安というのは、健康なときにこそ発生する。なぜならそれを「失う」のが怖いからだ。一方、不健康なときには健康不安は発生しない。もうすでにないので、「失う」可能性がないからである。「不安」とは、何かを得ているとき、それを失うことの恐怖が発生するものなのだ

そう考えると、60年代から80年代にかけて人々の「健康不安」が増大したということは、とりもなおさず人々の「健康」が増大したということなのである。医学が進歩したことの一つの証明でもあるのだ。

さて、そうしたことを踏まえたうえで、今回の選挙を考えてみたい。今回、投票に行く人のほとんどが、その根底に「不安」を抱えているのではないだろうか?

自民党が圧勝するといわれている中、まずアンチ自民の人々は、自民党が圧勝することに大きな不安を覚えている。だから、一生懸命選挙活動をしている。

では、一方の自民陣営はどうか? 圧勝が予想され、不安はないのか?

実は、そんなことは全くない。彼らはさまざまな不安に駆られる中で選挙活動をしている。自民党を支持する人で、不安がない人はおそらくいないはずだ

その不安とは、具体的には経済が停滞することや、他国からの脅威にさらされること、自分以外の他者が不当な権益を享受することへの不安だろう。

自民党は、そういう不安を抱える層の支持を上手く取り付けているので、これだけの圧勝が予想されるのである

つまり、今度の選挙は自民支持もアンチ自民も、猫も杓子もそれぞれに「不安」を抱える中で戦っているのである。「不安選挙」と言ってもいいくらいだ。

では、そういう不安選挙となった背景とはどのようなものなのか?

その答えは、一つしかない。

それは、今の日本の政治が上手くいっている——ということである。人々が幸せ——ということなのだ。

今の日本の政治は、かつてないほど上手くいっている

今の日本の政治は、かつてないほど上手くいっている。それは、60年代から80年代に果たされた医学の進歩とよく似ている。ここ数十年、人々の生活は向上し、暮らし向きはとても良くなった。

では、なぜ多くの人がそれを実感できないかといえば、それに伴って「不安」も増大したからである。そうした生活を失うことの不安が増えたからだ。そうして、その恐怖に怯えるようになったからである。

60年代から80年代にかけて、健康不安が増える中で、爆発的にヒットしたものがあった。それは「健康雑誌」だ。健康不安を抱える「健康」な人々は、自らの不安を何とか抑制しようと、そうした雑誌を読み漁った。そうして、「自分はまだ大丈夫」と暗示をかけ、急場をしのいだのである。

しかし、そうした人々がその不安を抜本的に解消することはついぞなかった。なぜなら、彼らはその不安が自らの健康に端を発していることが理解できないため、そこには目を向けないからである。それを前提として考えない。そうして、見当違いの対処法や、場当たり的な解決に終始し、死ぬまでそれに苦しめられる羽目になったのである。

一方、そうした時代においても健康不安に悩まされない人たちがいた。それは、自らの健康を自覚していた人たちである。それを客観的に受け止め、満足していた人たちだ。

健康不安を感じない人は、60年代から80年代の医学が発達した時代にも、自分たちがすでに十分な健康を享受していると理解していた。そうしてそれを「当たり前」と受け止めるのではなく、「できすぎ」と受け止めていたのである。

そのため、それを失うことの不安も少なかった。なぜなら、それは「当たり前」に戻るだけだからだ。彼らは、ちょっと健康を損なうくらいでちょうどいいと受け止めていたのである。

そういう人たちは、死ぬまで健康不安に苛まれることはなかった。そうして皮肉にも、本当の意味での健康な人生を全うしたのだ。

ぼくは、今の政治状況にもこれが当てはまると思う。自民支持もアンチ自民も、不安に苛まれる中で選挙活動をしていたのでは、その本質を見誤る。それは、健康雑誌をいくら読み漁ってもちっとも健康不安がぬぐえなかった人たちのようなものだ。物事の本質から目を背けているため、抜本的な解決には至らないのである。

今の政治は、上手くいっているという前提で考えないと、本当の問題は見えてこない。今現在、人々は幸せであると考え、これは「当たり前」ではなく、「できすぎ」だというバランスで見るくらいでちょうどいい。

しかし、これは言うは易く行うは難しの典型のようなものだ。「今の日本の政治は上手くいっている」といって、それを納得できる人はほとんどいないだろう。

日本という国は今よりも不幸せになるはずだ

それゆえ、今度の選挙では自民支持もアンチ自民も、そのほとんどが対応を誤るだろう。そうして、政治は今よりも拙く、日本という国は今よりも不幸せになるはずだ。

だが、それも仕方ないと思う。それこそが、「盛者必衰の理」だと思うからだ。盛者必衰とは、盛者が自らを盛者と思えなくなり、本質を見誤って対応を間違うから、必ず衰える——ということを表しているのである。今の日本は、さながら末期の平家のようなものなのだ


Photo by David GoehringCC BY 2.0

著者プロフィール

岩崎夏海
いわさき・なつみ

作家

1968年生まれ。男性。本名同じ。東京都日野市出身。最終学歴は東京芸術大学美術学部建築科卒。 大学卒業後、秋元康氏に師事。放送作家や秋元氏のアシスタントとして17年間働き、AKB48にも関わる。独立後、41歳で作家に。 作品に『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』『エースの系譜』『チャボとウサギの事件』など。現在は、執筆に加えてお笑い学校の講師やビジネス・プロデュース、講演活動もしている。 ブロマガのタイトルは、大好きなザ・ブルーハーツの「1000のバイオリン」より。

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