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【総選挙2014】総花的な政権が支持されるのは有権者である僕らのエゴが詰まっている

  • 安部敏樹 (一般社団法人リディラバ代表理事)
  • 2014年12月15日


Photo by trailersoftheeastcoastCC BY 2.0

増税と経済活性化を両立ってやっぱり難しいんじゃない?

自民党のこの2年間はどうだったと聞かれると、総花的って言っていいのかわからないけれど、すべての人にいい顔をするような政策の集積というのが安倍政権だったねと思う。そしてその総花的なものを是としてしまっているのは、国民がなにかを切り捨てるという選択肢を取れないでいるという事実。だからこそなんでもやりますよっていう政権が評価されてしまった。

アクセル踏みながらブレーキ踏む奴はいないわけですが、実際に経済政策ではそれをやっちゃっている

具体的に言うと、ひとつは当然経済政策がありますよね。経済政策で一気にアクセルを踏まなきゃいけないのでアベノミクスをやりますというのは、言ってみたら沢山の金を使って次の世代へのリスクを取りながらそれによって経済活性化して産業育成して、いずれは税金で回収しましょうという大きな戦略としてあった。だけども、それをしながら消費税増税とかしてやっていくと景気の復興に対していい側面が減ってしまう。車の運転で言えばアクセル踏みながらブレーキ踏む奴はいないわけですが、実際に経済政策ではそれをやっちゃっている。

増税の話に関して言うと、増税する意義っていうのは増税すること自体が国債の信頼性を高めるとか、日本の経済成長に対する不安をなくすことで株価の向上に勿論貢献しうるのだけど、日本の国債って殆ど日本の銀行が買っているわけで、海外のそこ(海外投資家の信頼、期待)の部分ってそんな言うほど重要なものじゃなかったりするわけだよね。

考えると今もうこんだけ大きな博打を打ったんだから、じゃあもう増税とかせずにそこに特化するべきで社会保障の財源とかどうするのっていう話しを一回切り捨てる必要もあったのかもしれない。でもそこを総花的にやってしまったというのは、社会保障も大事、でも景気回復もしなきゃいけないってあれもこれも取りたがっている人たちがいること、すべてに配慮してしまっている政権であり、そういうものじゃないとぼくらが選べないというところに問題がありますよね

都市が強くなってはいけないのか?

地方創生の話もほんとその通りで、結局東京オリンピックとかの議論も含めて、経済活性化については、重点的にどっかの都市を伸ばすとかいうことが大事なわけですね。東京を伸ばしますとか名古屋を伸ばしますとか、それは少なくとも地方に対するばら撒きではなくて、淘汰をもっと促す仕組みになっていなきゃいけないのだけど、基本的には公共事業の話も含めて悪い意味で平等というか、すべてがばら撒きという形にしかなっていない。

皆すぐ地域活性化いいじゃんって言うけど、実際これから先人口は減ってきますよと、その中で地域の統合を促すほうがもっといいのにそれはできていませんよねっていうところには切り込まない

もっとどこどこを重点的に伸ばしますっていう選択肢があるべきですよね。たとえば東京の有能な人材を地域に斡旋して地域活性化しましょうとかいう風潮があるけど、でもそうすると、そもそも東京の都市としての価値は下がりますよ、と。だって東京に面白い人がいっぱいいるから都市としての価値が高まって、N.Y. やロンドン、シンガポールと戦えますよっていう話なわけで、そこは単純に地方創生で票が取れるからとりあえず東京から面白い人をじゃんじゃん行かせましょう、じゃまずい。皆すぐ地域活性化いいじゃんって言うけど、実際これから先人口は減ってきますよ。その中で地域の統合を促すほうがもっといいのにそれはできていませんよねっていうところには切り込まない。だから耳触りがいい。これもある種総花的ですよね。


Photo by yoppyCC BY 2.0

経済を論点の縦にしつつ別の目標を達成しようとする自民党はずるい。

あとは、今の政権与党が戦後レジームからの脱却をしたいっていうのはわかるけど、いわゆる女性の活用とか産業振興とかって、そもそも「戦後レジームからの脱却」っていう話とは全く関係ない。安倍政権の本当にしたかったことが戦後レジームからの脱却なのか、経済とか女性の活用を推進することで日本を再浮上させることなのかっていう論点に関して。結局誰もあまり深く突っ込んでいないですよね。安倍政権も上手く隠し続けてのらりくらりとやってきたのかなと思う

戦後レジームからの脱却っていうのは極東裁判は嘘っぱちで自衛戦争でしたって言いたいし、憲法改正も自分たちの手でしたい、あるいは集団的自衛権を取り戻して戦争できるようになりたいですってことではないんですかね。それが本当にやりたいのだとしたら、僕はやはりそこに論点据えて選挙を行うべきだと思うわけです。経済政策を支持していても、戦後レジームからの脱却を国民が支持しているかどうかっていうと結構きわどいなと思っていて、あくまで経済や女性活用っていうものに対しての期待値が高いっていうのであれば、やっぱりそこに優先度をつけて政権としてはやってくべきじゃないの? そこで国民の信を問えば? って思います。

逆に、有権者の我々としては耳触りのいい総花的なものでいいんですかっていうことをもう一回自分自身に問い直す必要があるでしょうね

逆に、有権者の我々としては耳触りのいい総花的なものでいいんですかっていうことをもう一回自分自身に問い直す必要があるでしょうね。どういう優先順位で、この国を建てなおしていって、経済的にも、国民それぞれのQOL的にも、なんとかしなきゃいけないポイントだらけなわけですから。なんでもかんでも好きにやればいいじゃないですか、全部やりたいことやりましょう、全部うまくいくはずですっていう選択肢を取るのはそろそろ甘いんじゃないのっていう投げかけが必要かなっていう感じがします。

まとめると、安倍政権っていうのは総花的な話をやってしまったがゆえに、上手く行っているところと上手く行ってないところ両面ありますよということなんでしょう。たくさんある魅力的な選択肢から優先順位をつけて選ぶことが大の苦手な、この我々の意思決定能力の低さをなんとかしたいですよね。なにかを切り捨てないと厳しいと思うし、もっと言えば総花的であるということは実質的にはまだ選挙権を持っていない未成年者や、これから生まれてくる子どもたちを切り捨てているという側面があるわけですよ。

そこは選挙行動の際に我々有権者がなにを切り捨ててなにを焦点にする政党を支持するか、明確にする必要がある。そうじゃないと安倍政権は結局のらりくらりと戦後レジームのところとかを隠しながら続けていくんだろうし、まあ最終的にはそこに全力を注いで全部通してしまいますよね、っていう。ぼくらが突っ込まない限り彼らが立ち止まってなにかしら答えてくれるわけないですからね

2年間の安倍政権の評価総括と自分の投票に関して

解散の是非に関して言うならば、増税やるやらないだの延期するだのっていうのを、安倍政権が国民に問うっていうこと自体は、民主主義の基本からしたらいいことなんじゃないかなと思います。マニフェストが成り立たなかったので、もう一回国民に聞きましょうっていうのはそうそうやってくれるようなもんじゃないからね。もちろん政権としての思惑は別にあるんだろうし、700億円もの税金を使ってるんだけども、国民に問いますよっていうのはまぁわかります。おそらく参院選までは大きな勝負には出ないだろうし、もう半年ふつうにやっていくでしょう。たぶん圧勝してより強気の姿勢でいくでしょうから、アベノミクスにもう1回金融緩和とか入れるかもしれない。わからない。でも、そういう、いざ「どうですか?」ってポンッと急に投げられてみたときに国民が意思決定できないっていうのは、我々がいかに日頃からものを考えてないかっていうことの証でもあると思う

今回選挙で実際にどういう投票行動をするべきかっていうのは難しくて、経済一点張りなら絶対自民党に入れたほうがいいんじゃないと、正直思う。僕は自民党すげー嫌いなんだけど、たぶん自民党に入れるわけですね。単純に今回対抗馬がいないし、経済に特化していくなら安倍さんのところに入れるんじゃないですか、と。だって対案ないんだもの。ただ自民党で3分の2とか議席を取りすぎると(戦後レジームからの脱却とか別の論点において)怖いから、その意味では社民とかに入れる可能性もまだあるけど。ほんと難しい。

むしろ大事なのは、選挙というのは票を入れることだけが大事なんじゃなくて、票を入れたあとの政策実現度合いを注視していき、4年間ちゃんとやれてるかチェックして最後総括をすることまでが大事だと思います。あなたたち4年前にこう言ってましたけどどうなりましたかって確認することが大事。そうしていかないと4年後に「結局戦後レジームからの脱却がしたかっただけだったね、安倍さんは」ってなる可能性が高くて、たとえば経済一択でまずはそこを改善してきましょうよっていう観点で我々が票を入れるんであれば、そこがちゃんと機能したかどうかっていうことをきっちりと定点観測した方がいい。

人口と長期的な国のデザインについて

安倍さんが人口1億人で抑えたい、それはそもそも正しいのか、人口論っていうところの議論はもっと深めた方がいいっていうのが個人的な主張です。安倍さんは1億人の維持っていうのをある程度打ち出しているから、それはこれまでの政権と比べると明確なメッセージでいいと思います。ただ、本当に1億必要なの? 実現可能なの? ということは議論した方がいいし、1億人が住む日本の国土計画はどういうデザインでいくべきなのかという風に展開していくのが大事。大体この日本に適切な人口って一体どのくらいなのか、皆どう思ってるんだろうとか、わかんないじゃないですか。

国土計画に関して言うと、平成の大合併とかずっとやってきてわかっているのは、人間は自治体の区域を統合したところで、それが好きだとか気にくわないからって住まいを動かしたりはしない。住まいを動かすっていうのには、別の要素・理由が必要で、そこに対して戦略を立てて、政策をうったり、お金を投じるべきだと思う。まあ街づくりといっても大体がただのばら撒きになってしまっているので、大した効果あげてないよねってことになっちゃうのかもしれない。

復興支援で南三陸とか松島とかでコンパクトシティというものが出てきてるけど、こういうのは昔からあって、でもなんかどこかしら駄目だった。それは、どんな街を作ります! はあるけど、じゃあその街を作る住民がどうやって移住してくるんですかという肝心なところのデザインが無かったから。これを作らないといけないし、そこに政治からお金を使うべきというのが地域活性や人口論に関して僕が思っているところ。

人口の議論、国土計画の議論の先に教育がある

人口のある程度の目標に合わせて教育を考えるということが重要。人口これぐらいで、こういう街づくりになっていて、そうするとこれぐらい特定の仕事が必要になってくるから、こういった教育のデザインをしなきゃいけませんよね。たとえば1億人いたらブルーワーカーが出てくるから、その人たちはどんな仕事をするんだろう、じゃあこういう産業を育てましょうという話になっていく。人口がもっとずっと少なくて数千万を切ったとなると、じゃあ量で勝負するのはやめて、ハイクオリティなクリエイティブワークができる人材を育成できる教育に特化したほうがいいかなとか、地に足のついた建設的な話しができる。

強い有権者としての高齢者層とどう向き合うか

今の政治は高齢者に甘過ぎる。そこが情けない。戦後レジームの話しも含めて、高齢者受けする政策を優先的に取っている。安倍さんとかまだ若いはずだけど考え方が高齢者だよね

例えば、ひいおじいちゃんが95歳になって死にます、そのひいおじいちゃんの遺産は60~70代のちょっと若いけどやっぱりおじいちゃんおばあちゃん世代の人の遺産になります、と。この世代にお金わたしても世の中のために使ってくれそうにないじゃん。30代の小さい子どもがいる世代にいくだとか、40代の一番金かかる子どものいる世代にいきますよっていう仕組みにしなくてはならない。極端な話、相続税100%にしましょうとか、ラディカルにやっていこうとしない。そうしろって言ってるわけじゃなくて、全然検討もしていないところが問題だと思う。各種規制緩和も全然していかないし、そこは改善して欲しいところ

リベラルからの改革が求められている

そういう具体的なところに実際に手をつけられないのが、改革を謳ってはいても自民党っぽいところだなーと思います。ただ保守としては強いリーダーだとは思うよね。こないだ田原さんと話してすごい納得いった話なんだけど、結局今改革を謳って目立っているのは保守なんだよね。リベラルって今恰好よくないじゃん。本来社会を変えるというのはロックンロールな話なわけで、もっとリベラルの層が改善してくると良かったんだけど、それが全然できてないよねっていうのは思うところでございます。


朝日新聞社提供

著者プロフィール

安部敏樹
あべ・としき

一般社団法人リディラバ代表理事

一般社団法人リディラバ代表理事/マグロ漁師/東京大学大学院博士課程。みんなが社会問題をツアーにして発信・共有するプラットフォーム『リディラバ』を2009年に設立。500名以上の運営会員と60種類以上の社会問題のスタディツアーの実績があり、これまで2000人以上を社会問題の現場に送り込む。(「Travel the Problem:https://traveltheproblem.com/」)また都立中学の修学旅行や企業の研修旅行などにもスタディツアーを提供する。その他、誰でも社会問題を投稿できるwebサービス「TRAPRO」の開発・運用なども行い、多方面から誰もが社会問題に触れやすい環境の整備を目指す。2012年度より東京大学教養学部にて1・2年生向けに社会起業の授業を教える。特技はマグロを素手で取ること。学生起業家選手権優勝、ビジコン奈良ベンチャー部門トップ賞、総務省起業家甲子園日本一、KDDI∞ラボ第5期最優秀賞など受賞多数。

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