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  • 視点

政治家の入り口を変えなければ政治は変わらない —選挙ポスター掲示板のデジタル化から変わること—

  • 神田敏晶 (ITジャーナリスト)
  • 2014年2月6日

5000万円問題で50億円かける都知事選?

猪瀬元都知事の5000万円問題による辞職によって、急遽都知事選挙が展開されることとなった。しかし、この選挙で問題なのは、たった1人の都知事を選ぶために、50億円も費やされてしまうことだ( http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131225/elc13122501060000-n1.htm )。しかも、なんと、この3年間は、130億円もの税金が都知事を1人を選ぶためだけにかかってしまっている。

その費用の主な出費は「投開票所にかかる職員の人件費に充てる市区町村への交付金だけで計約43億円、そのほかPRポスター制作や選挙カーの燃料費など幅広く負担する」——今回は突然の辞職だったため、都選管は「入札で委託業者を決める時間がなく、通常より費用がかさんでしまう」「「本来なら(4年間に)50億円で済むところが、100億円も多くなってしまった」というから驚きだ。

これは、猪瀬知事の辞任責任もあるが、選挙の高コスト体質をもっと、もっと疑うべきであろう。

まったくヤル気のない選挙管理委員会は年間52億円の税金ドロボウ?

現在の東京都の選挙管理委員会のHP(※HPという言葉はウェブとすべきだろう)を見れば、ヤル気があるかどうか一目瞭然だ。 http://www.h26tochijisen.metro.tokyo.jp/

カラーで立派なウェブサイトだが、肝心の候補者を選ぼうとしたら、立候補者一覧をクリックして唖然とする…! 信じられない!

——本当に有権者のことを考えているのか? 名前と通し番号とウェブアドレスのみだ。

しかも、リンクもなければ、コピペさえもできない。 http://www.h26tochijisen.metro.tokyo.jp/pdf/candidates.pdf

こんな、まったく仕事になっていない選挙管理委員会でさえ、年間52億1700万円の、歳入があるから信じられない。税金ドロボウとしか思えない!

委員長の尾崎正一以下3委員と東京都の総務課、選挙化の局長にすぐに新都知事は指示すべきだろう(笑) http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/outline/index.html

663万4000票のゆくえは?

東京都民は1300万人だが、実質の有権者数は1070万人。投票率は62%(前回都知事選)とすれば、663万4000人が投票所へ向かうこととなるだろう。

そして、投票所は2000カ所。ポスター掲示は1万5000カ所である。

つまり、投票所1カ所あたりに、3317人集まり、1カ所あたりに150万円の選挙費用がかけられている計算だ。有権者の1票ごとに452円のコストが発生している。午前7時から午後8時までの13時間のコストで考えると、1時間あたり50万円だ。

ポスター掲示板は、1万5000カ所が毎回、選挙のたびにトンチンカンチンと木材で建てられる。選挙候補者の陣営は、毎回公示日で番号をもらった途端にそのポスター貼りが一番の仕事となる。

1カ所で約5分程度のポスター貼り作業が必要となる。一陣営あたり、すべて貼るとすると、7万5000分、つまり1250時間必要だ。一陣営あたり、時給1000円だったとしたら、125万円。そしてもちろん移動が伴うので、その3倍、375万円分のコストが発生している。それが、10候補分とするだけで、掲示版にはるだけで、3750万円の人力とコストが投入されている計算となる。

しかも3年に一度の参議院、4年以内に衆議院、そして今回のように突然の辞任による選挙で考えると、毎年選挙が発生している。

選挙デジタルサイネージで、年間610億円の新・歳入

そこで、選挙デジタルサイネージの提案だ。5カ年計画でデジタルサイネージ化すれば、年間3000カ所、5年で全1万5000カ所のサイネージ掲示板が登場する。5年後に東京都の掲示板の場所は、すべてネットワーク対応で太陽光自家発電のサイネージに変化させる防災デジタルサイネージが実現できることだろう。

3000カ所一括受注なので、入札コストは限りなく安くなり、強化ガラスで監視カメラ付きで、4Kとか8Kパネルでサイネージが設置され、地上10cmから放射線量測定も行えばいい。

普段は広告媒体としても都内で活用できる。そして非常時は地域ごとの避難案内や防犯サイレンや非常ボタン、非常灯、常夜灯の機能も搭載可能となる。

太陽電池の蓄電所としても機能できるはずだ。公園、学校、などの公共の場所ならではの防災活用が期待できる。家賃も東京都の持ち物なので発生しない。

400万円相当のサイネージも、3000台であれば、200万円まで下げられ、毎年6000万円で実現可能となる。もちろん、防災予算と組めば、さらに半額で済むだろう。すると毎年実質的に3000万円の負担で可能となる。サイネージパネルの国産メーカーも工場を安定稼働させられる。

もちろん東京都下で1万5000カ所の今まで広告を掲示できなかった場所での広告費用を考えれば、3000万円なんて広告費はすぐに捻出できるだけではなく、新たな都の歳入基盤となるはずだ。

電通発表の日本の屋外広告費は2013年発表で3095億円だ。 http://www.dentsu.co.jp/news/release/2013/pdf/2013016–0221.pdf

その20%の価値と見積もっても610億円の新・歳入基盤の可能性が見える。これならば、都知事選(50億円)を毎月(12.4回/年)やってお釣りもでるくらいだ(笑)。もちろん、一気に1万5000カ所もあるが、デジタルは3年で陳腐化するので、毎年新設していったほうがサイクル的には好ましい。

そして、5年後には1万5000カ所なので、東京オリンピックの2020年には、街角公共テレビとして活躍しているはずだ。最新型のサイネージで東京のインフォメーションプラットフォームになり、地域のコミュニティメディアにもなっていることだろう。そして、フォーマットを統一することにより、東京都全体の情報がデジタルデータ化され、ローコスト体制と人材削減が可能になる。

選挙では、公示日と共に、全候補のデジタルポスターが事前に入稿されているので、すべての候補の情報に同時にアクセスできる。ARやQRコードに、スマホやグーグル・グラスをかざせば、候補者の情報がさらに引き出させる。政見放送もその場でURLを飛ばして、視聴することができる。

おっと、その前に政見放送は、YouTubeなどの動画共有サイトに転載協力する放送局のみを総務省管轄で指導すべきだろう。

手話通訳者と、候補者しか出ない放送に、経歴を読むだけのアナウンサーなどの権利関係などはいらない。経歴は音声よりも、文字で表示したほうがわかりやすい。候補は共有サイトの掲載を絶対に否定しないから、これで一気に権利関係はクリアする。

また、このように自由に有権者が情報を引き出すことができれば、マスコミが独自に主要候補などと設定しなくても、有権者が独自に判断する。泡沫か主要かは有権者が判断すればいいのだ。

マスコミ視点による主要候補者選定は、国民の憲法で守られた知る権利を阻害しているといえる。

公職選挙法は政治家以外が決めなければ何も変わらない

さて、防災と広告を取り組めば、一瞬で、こんなにも簡単に、選挙掲示板プロジェクトができてしまうはずなのに…。問題は公職選挙法だ。 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html

第百四十四条の二 衆議院(小選挙区選出)議員、参議院(選挙区選出)議員又は都道府県知事の選挙においては、市町村の選挙管理委員会は、第百四十三条第一項第五号のポスター(衆議院小選挙区選出議員の選挙において候補者届出政党が使用するものを除く。)の掲示場を設けなければならない。

この条項を、すべてデジタルサイネージへと変えれば良いのだ。

そして公職選挙法で、一番重要なのは、

第一条(この法律の目的) この法律は、日本国憲法の精神に則り、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする。

なので、方向性は間違っていないはずだ。

そして、もっといえば、

第五条(選挙事務の管理) (選挙事務の管理) 第五条  この法律において選挙に関する事務は、特別の定めがある場合を除くほか、衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙については中央選挙管理会が管理し、衆議院(小選挙区選出)議員、参議院(選挙区選出)議員、都道府県の議会の議員又は都道府県知事の選挙については都道府県の選挙管理委員会が管理し、市町村の議会の議員又は市町村長の選挙については市町村の選挙管理委員会が管理する。

……とある。「特別の定め(例えば、防災都市条例など)」を作れば、選挙事務の管理運営こそ、民間にアウトソースすることも可能ではないだろうか? もっと効率よく、ローコストで実現できるはずだ。前出の選挙管理委員会の候補者サイトさながらに。

もしくは、政治家を選ぶ公職選挙法という法律なので、政治家に決めさせない唯一の法律にすることも検討したほうがいいのではないだろうか? 政治家にとって都合のいい選挙法では何も意味がない。ここだけは、国民が決定権をもつべきだろう。

本当の意味での民主主義は、誰もが立候補でき、政党の支援や組織の支援がなくても、そして資金がなくても、議員への道の可能性が担保されていることではないだろうか?

そうでなければ、「主要候補」という、いつまでたってもお仕着せがましいマスメディアの選択肢に選ばれない限り、本当に思いと実行力のある人は政治家になんてなれない。

党議拘束や支援団体で去勢された政治家しか生き残れない政界の入り口を、本当にこれからは変えなければならない!

著者プロフィール

神田敏晶
かんだ・としあき

ITジャーナリスト

ワインの企画・調査・販売などのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の企画編集とDTPに携わる。その後、CD-ROMの制作・販売などを経て、ビデオストリーミングによる個人放送局「KandaNewsNetwork(通称KNN)」の運営を開始。2007年に参議院選挙に立候補。1万1200票で落選。2016年に参議院選挙へ出馬予定。

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