ポリタス

  • 視点

結局、消去法で決めるしかないのが悲しい今回の都知事選

  • 辻野晃一郎 (アレックス株式会社代表取締役社長)
  • 2014年2月6日

ポリタス頑張れ!

今回、津田さんからこちらへの寄稿のお声掛けをいただき、喜んで引き受けました。理由は二つで、一つ目は、かねて津田さんのようなまったく新しいタイプのフリーランスのジャーナリスト(この言葉が適切かどうかは別として)の活動に大いなる可能性を感じており、必ず今後の日本のさまざまな課題を解決する大きな力になっていく、と感じているから、ということと、二つ目の理由は、盛り上がらない都知事選挙に都民や国民の関心を少しでも向けねばならない、という危機意識からです。したがって、今回の都知事選挙に関して言えば、投票行為そのものよりも、津田さんのような方がこのような呼び掛けを行い、それにさまざまな立場の人達が呼応して、そのやり取りを大勢の人達がネットで見る、ということそのものが重要なのだと思います。

候補者の顔ぶれ

前置きが長くなりましたが、今回の候補者の顔ぶれを見ての第一印象は、とにかく、これでは盛り上がらないのも仕方がない、というような候補者しかいないことです。その中で、お会いしたことはありませんが、田母神俊雄氏の言動には関心を持ってきました。この方は日本人として一本筋の通った方だ、という印象を持っていますが、しかし、政治や経済に関しては全くの素人である軍人ですから、2020年のオリンピックを控えた大切な時期の都政を任せるにはやはりリスクが大きい。政治も経済もプロの仕事であることを考えると、選択肢としては、結局、舛添要一氏か細川護煕氏かの選択肢しかないと思いますが、巷では舛添要一氏の圧勝が確実視されています。

クラウドファンディングで政治資金集め

泡沫候補というと怒られますが、今回、その中での話題は何といっても家入一真氏でしょうね。ご本人も当選するとはまったく思っていないでしょうし、インターネッ党などと、どこまで本気なのか冗談なのかもわかりません。立候補の目的も、そもそも政治に関心があるのかさえもわかりませんが、ネットを駆使し、ホリエモンの応援も得て、ニートの人達など、他の候補にはまったくないユニークな目線を代表した存在であるのは間違いありません。東京都にはいろんな人達が集まっているわけですから、「標準的な人達」が拾えない声や見えない課題をもっと主張して、新たな論点を提示してくれると選挙戦も少しは盛り上がるのに、と思いますが、あまりにも時間がなさ過ぎるのが残念です。ご自分でもキャンプファイヤーというクラウドファンディングの事業を手掛けていますが、あえてシューティングスターという別のクラウドファンディングを使って選挙資金を集めたりもしています。こういう着想はやはり素晴らしいと思いますし選挙の常識に一石を投じるアクションとして貴重です。今回の選挙で彼が想定以上の支持を集めたりする現象が起きると面白いな、と心密かに応援しています。年齢的にも、上記の3名と宇都宮健児氏がすべて65歳以上のご高齢なのに対して、35歳と圧倒的に若い存在でもあります。

ちなみに、グーグル検索の累計件数は、2月1日の夜の時点で、「舛添要一」が526万 件、「細川護煕」が268万件、「田母神俊雄」が何と544万件、そして「宇都宮健児」は197万件です。「家入一真」も159万件と健闘しています。グーグルトレンドでの過去7日間の人気度は、やはり2月1日の夜の時点で、家入氏、細川氏、舛添氏、田母神氏、宇都宮氏の順になっています。

東京都のトップの重み

ところで、東京というのは本当に凄い都市だと思います。パリでもロンドンでもニューヨークでも、私の知る限りでは、世界中どこに行っても、東京ほど、公共交通機関などの都市インフラが整備され、空気が綺麗でゴミもなく、食事もおいしく、安全な都市には出会ったことがありません。今や、大抵の公衆便所にすらウォシュレットも完備されています。1300万人もの人が住んでいながら、毎日毎日、分単位の過密スケジュールの中で大きな事故も遅延もなしに同時に多方向に人が移動できる都市、というのは驚異的です。都知事選挙では、国家権力とも渡り合えるだけの力すら持つこれだけの大都市のトップを直接民主主義で選ぶわけですし、特に今回は、2020年に向けてこの大都市を防災やバリアフリーなどの様々な観点でリニューアルしていく為の明確なグランドビジョンを描き、それを実行できる人を選ばねばなりません。本来であればもっともっと盛り上がるべきですし、それにふさわしい候補者を我々は厳選しなければなりませんが、そのような流れにならずに白けてしまうのは、今回の都知事選が猪瀬氏のスキャンダルによる辞任に起因していることと、都知事選挙の仕組みに問題があるからだと思います。

都知事にふさわしい候補者のスペックとは?

アベノミクスにより、ようやく長いデフレや経済不況の暗黒から抜け出る兆しが強くなってきた中、決してこの勢いに水を差すことなく、東京を更に進化させて世界のモデルとなる未来都市を構築していく為には、高いクリエイティビティと共に強い実行力が求められますし、経済や先端技術にも明るいことが必要です。本来であれば、政治家や学者よりも、強い起業家・事業家タイプのスペックの人が候補者としては最もふさわしいのではないかと思います。残念ながら、今回の候補者の中にはそのようなスペックの人がいないので、どうしても消去法で選んでいくしかない、というところが残念な現実というところです。

著者プロフィール

辻野晃一郎
つじの・こういちろう

アレックス株式会社代表取締役社長

1957年福岡県生まれ。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了し、ソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等のカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、その後、グーグル日本法人代表取締役社長に就任。2010年4月にグーグルを退社し、アレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長兼CEOを務める。また、2011年6月よりKLab株式会社社外取締役。2012年4月より早稲田大学商学学術院客員教授。6月よりAOI Pro.社外取締役。2013年10月よりIT総合戦略本部 規制制度改革分科会構成員。著書に、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』(新潮社、新潮文庫)。

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