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残念だった都知事選に咲いた家入さんという一輪の花

  • クロサカタツヤ (経営コンサルタント)
  • 2014年1月25日

家入一真さんが出馬表明したので、この原稿をお引き受けしました。

逆に言えば、津田大介さんから久々に連絡をもらった時、最初はお断りしようかと思っていました。だって津田さん、最近ツレないんだもん。ぼくもリムっちゃったもんね。ふーんだ。

仲睦まじかった頃の津田さんと私 撮影:いちる

さておき。都知事選、本当につまらないなと思っていました。理由は単純で、取りざたされている候補者が、揃いも揃って、高齢者ばかりだから。

東京は日本を代表する、いや(まだ今のところは)ワールドクラスの、大都市です。そんな東京の首長を決める選挙の候補者が、高齢者しかいないというのは、日本の現実を残念なほど如実に表しています。

図1

図1:人口の平均年齢、中位数年齢および年齢構造指数:中位推計 (http://www.ipss.go.jp/pp-newest/j/newest02/3/t_4.html) 出所:国立社会保障・人口問題研究所

平均年齢が45.7歳。65歳以上人口を0〜14歳人口で割って100を掛けた老年化指数が、およそ200。有権者が高齢化しているなら、選ばれる側も高齢化するのは、むしろ自然かもしれません。なんといっても、民主主義ですし。

じゃあぼくらは、その現状を黙って受け入れていいのか。短期的には、きっとそうでしょう。そして高齢者をたぶらかすようなビジネスで、甘い汁を吸えればいい。とても合理的な判断です。高齢者がちゃんと対価を払ってくれるならね。

でも政治は、雇用の促進や、「ハコ」の建造など、人間の社会生活に長期間にわたって影響が及ぶ事案を、判断する機会です。だから短期的な視野だけではなく、長期的な評価に耐えうる合理性を、求めなければなりません。

これまでは、それができなかった。だから、保育園や小学校よりも老人ホームが、小児科よりも在宅看護が優先される、そんな東京になってしまったのでしょう。生まれるかどうか分からない子供達よりも、確実に増加する高齢者の方が、重んじられてしまうわけです。なんといっても、民主主義ですから。

家入さんが出てきてくれて、ようやくそんな話が、都知事選に絡めて、できるようになりました。これは私たちにとって福音です。逆に言えば、家入さんが出馬する前の都知事選が、どれだけ味気ない代物だったのか。これはあらゆる意味で、嘆くべきことです。

じゃあお前は家入さんに投票するの? いえ、しません。

本稿執筆時点では、家入さんがどんな方かは存じ上げません。ただ、ネット経由で断片的に耳にする話を聞くと、都知事に相応しいとは、思えないのです。青島幸男さんと都議会が対立して、都市博中止以外ほとんど成果がなかったのは、ぼくらの世代よりも年上であれば覚えているはず。ええ、なんといっても、民主主義なのですよ。

繰り返しますが、ぼくが家入さんを称賛したいのは、望ましい都知事候補としてではなく、彼の出馬によって、ぼくらが都知事選を通じて考えるべきことの、優先順位がはっきり見えたからです。

たとえば「脱原発」。確かに大事なテーマです。細川さんや小泉さんが言うように、都政が国政に与える影響は、大きいはず。それに、東京電力管内ではない福島や新潟に、多大なる犠牲を強いて、ぼくらは電気による豊かな生活を貪っているのですから、「お前ら少しは考えろよ」というのは、いかにもサンデル先生が喜びそうな話です。

しかし都知事選である以上、国政を論じる以上に、都政を論じなければいけない。だとすると、少子高齢化する東京のコミュニティや、国際社会に約束してしまったオリンピックをどう着陸させるかという話の方が、脱原発よりも大事なのです。

図2

図2:都知事選の争点と主要候補者の軸足の整理に関する私見 出所:クロサカタツヤ

あと、家入さんの出馬で、もう一つはっきりしたことがあります。それは、家入さんも含めて、政治の世界が人材不足だと言うことです。ストレートに言えば、ロクな候補者がいない。

これは実に「ブーメラン」な話です。ロクな候補者がいないというのは、ぼくらが為政者を軽んじていたということの裏返しに、他ならないのです。

そもそも政治には一定程度のカネがかかります。選挙の時のみならず、当選後もスタッフを一定程度抱えなければならないし、社交もしなければならない。首長がファストファッションというわけにもいきませんから、経費だって相応にかかる。ちょっとした中小企業並みに、お金を回していかないと、何もできないでしょう。

でも一方で、政治にカネをかけてはいけない、とぼくらは言う。気がつけば、今回の選挙も、そんな話が出発点です。為政者としての資質を備えている人なら、その矛盾はすぐに見抜けます。そして「そんな仕事に就くのはバカバカしいよね」と、合理的に選択するでしょう。

いま政治家という仕事を選んでいる人の多くは、そういう意味で、自己犠牲の精神の強い、立派な方だと思います。でも、自己犠牲は、為政者にとって最も必要な資質、なのでしょうか。「いい人」と「仕事ができる人」は、ちょっと違うんじゃないかと、ぼくは思います。

残念ながら、民主主義は、最良を選ぶシステムではなく、最悪を排除するシステムです。だから、「仕事が一番できる人」は、どうやら今回も選べそうにはありません。ただ、民主主義というシステムを信じるならば、選ばれた人は「仕事ができない人」ではないはずです。

その「仕事ができるかもしれない人」に敬意を表し、その人を支えること。都知事選で私たち有権者に求められるのは、そういった姿勢なのでしょう。

その人が、家入さんでは、ないと思います。でも、家入さん、出馬してくれて、ありがとう。

著者プロフィール

クロサカタツヤ
くろさかたつや

経営コンサルタント

慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。学生時代からネットビジネスの企画設計を手がけ、卒業後は三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、IPv6やRFIDなど次世代技術の推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立、現在は株式会社企(くわだて)代表取締役として、通信・放送セクターの戦略立案や事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策などのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を実施している。経済産業省IT融合フォーラム有識者会議委員、OECD日本政府代表団員、 国立競技場将来構想ワーキンググループ部会委員、等。

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