ポリタス

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「家入一真」陣営から見る東京都知事選

  • 高木新平 (Context Designer/Liverty共同代表)
  • 2014年2月4日

ダントツで若い35歳・家入一真の立候補

最高につまらない選挙だなぁ、と感じていた。メディアを通して聞く候補は、65歳以上ばかりだったからだ。先日2020年オリンピックの大会組織委員会が「オールドジャパン」になったという悲しいニュースがあった( http://mainichi.jp/sports/news/20140125k0000m050103000c.html )。中核は76歳の森会長と70歳の武藤事務総長らしい。「五輪時に83歳で大丈夫か」との声には、「ギリギリのところまで挑戦していくのがスポーツの神髄」と返したらしい。なんだそれ……。それはさておき、今回の候補者も含めどうして彼らは1964年のオリンピックばかり引用するのだろう。その度に2020年へのテンションが下がる。とにかく僕は興味を失っていた(ちなみに前東京都知事の猪瀬さんは、森さんの就任にずっと反対していたことをあらためて記しておきたい)。

そんな中、家入一真から電話があった。開口一番、「都知事選、出馬することにした」と。実は家入さんとは、ここ2年間一緒にいろんなウェブサービスやシェアハウス、会社などをつくってきたパートナーだ。おそらくお互いにとって最も時間を共有している存在で、思考回路は大体共有していると思う。今回の選挙にはいつも以上に嫌気が差していたし、迷う余地なく一緒に選挙戦を戦うことになった。彼は僕から見ても不思議な存在で、たとえば本気とふざけの境界線が見えなかったりする。ネット上のイメージで嫌いな人も多いかもしれない。しかし実際は物事を受け入れる幅が広い人間で、それは子どもの頃にいじめ・引きこもりや父親の自己破産という辛い生活もしながら、その後IT分野において起業し上場までさせたという幅の広い人生経験があるからだと思う。この両極端さは今後一層に複雑化する東京の課題と重なるだろうし、何よりも35歳と他候補に比べて圧倒的に若い( https://twitter.com/chibicode/status/426280504770306048/photo/1 )。もちろんダメなところも一杯あるけれど(笑)。

とは言え、すでに公示日直前。立候補手続きは詳しい方々に協力いただきなんとか完了したが、何を打ち出すのかも決まっていない。ここまで読まれた方は、馬鹿なんじゃないか、と思われるだろうが、その通りだと思う。でも家入さんはいつだってこうだ。反射神経に従ってまず行動して、その後いろんなものを吸収して考えながら形にしていく。今回も「政治よくわかんないんだけど、やっぱり今の状況なんかおかしい。僕らの生活と全然リンクしてないことばっかり言い争ってんじゃん」と素直すぎる違和感から出馬を決めていた。実に家入さんらしい。

「政治的なものに拒否反応が出る」感覚から

僕は、その違和感から始めればいいと思った。準備するには時間もお金も人手も足りないし、正直ガチガチの政策案をつくってくれた専門家の方もいたが、表面ばかり着飾っても実が伴わない。だから出馬記者会見では、彼が常々口にしてこれまで活動してきた、「多様な居場所」「インターネットによる新しい仕組み」「もっと参加したくなる政治」をつくる、という3つの方向性だけを掲げた。そして具体的な政策は「#ぼくらの政策」を利用して、選挙期間中にネット上から集め、まとめていくことにした。

何を甘いこと言ってるんだ、と政治通の方々からはお叱りを受けそうだが、僕の同世代(20代〜30代前半)を見渡せば、そもそも「政治」「選挙」っていう響きだけで拒否反応を起こしてしまう人が多い。政局争いはもちろん、唐突なワンイシュー設定にも嫌気が差している。僕はと言えば、たまたま1年半ほど前に、ネット選挙解禁実現を目指す「One Voice Campaign」を立ち上げる経験をし、それからこのままじゃヤバいなと関心を持ち始め色々と関与するようになったが、それがなかったら今も投票に行っているか怪しい。なんというか、イメージとして自分と関係ないのだ。右とか左とかよくわからないし、ださいし、難しいし、そもそも何の話をしているかわからないし。あくまで実感値ベースだが、これは偏った話では決してないと思う。

家入さんもまさにそういう人なので、そのまま「今の政治はよくわからない」というところから始めた。だから一方的な情報発信ではなく、できるだけ相互的なコミュニケーションをしようと。「#ぼくらの政策」では、日常生活の中で感じることを中心に聞いていき、これまで約2万3000件(1/31時点)の声を集めた。それらを政策に詳しい専門家の方々に相談し、上に掲げた3つの方向性に沿うものを中心に100近い政策案に変えていった。それらの投稿と政策案は基本的にすべて、公式サイトで見られるようになっている。政策に関してはこちらから→ http://ieiri.net/

政策以上にどんな東京をつくっていけそうか

これこそが民主主義だ、などと大きなことを言うつもりはない。ただ少なくとも僕も含めて、(わかりやすい年齢的な問題も含めて)他の候補に、政治に、遠さを感じていた人にとって、もっと身近なものにしようとする選挙活動はしている。事務所に足を運べばすぐにわかる。毎日新しい若い人がやってきて、勝手なプロジェクトを立ち上げて形にしている。未だに選管からは大量の紙で渡されるポスターの場所もGoogleマップで表示確認できるようなシステムをつくったり、Twitterウグイス嬢なるものをやったり、またはネットで声が吸い上げられない年配の方々のために街頭インタビューに出たり。さらには選挙事務所そのものが、社会と接点を持ちたいけど居場所がなかった人たちの駆け込み場所になっている気がする。

だからなんだ! 選挙は数字が全てだ! と言われたら、たしかにそうかもしれない。家入を支持する人は主に投票に行くことを考えていない層とまさに重なる。しかし、選挙期間内に内輪揉めして人を追い出したり、インターネットも使えていなかったりする人に、多様性のある最先端の都市・東京なんて、つくれないと思う。選挙の姿から実際の政治の姿は想像できる。家入さんにもマイナス要素はあることは承知の上で。でもどちらがぼくらの理想に近いか。

また、個人的な感覚を正直に言ってしまえば、「基本的な政策実行は、誰が知事をやっても大して変わらない」と思う。現に石原さんの時がそうだったわけで、都政は驚くほどしっかりしている。だったら、今のこのなんとも言えない、遠く離れてしまった今の生活と東京都の政治を、技術とアイデアでもっと近づけてくれそうな候補者を推したい。もちろん組織票も知名度も他候補ほどないので、数字的には非常に厳しい。だが少なくとも世界的な都市、東京は「過去」ばかり眺める街にはしたくない。そんな東京に来たいと思う人はいないと思うから、そうじゃないという選択肢を、投票率を上げて、なんとか提示できたらと思う。

著者プロフィール

高木新平
たかぎ・しんぺい

Context Designer/Liverty共同代表

Context Designer / Liverty共同代表。 1987年富山生まれ。早稲田大学卒業後、(株) 博報堂入社。ソーシャルメディアを連動させた広告クリエイティブを担当するも1年余りで退社。新たなコミュニティづくりを目指し、「よるヒルズ」や「リバ邸」など実験型のシェアハウスを立ち上げ、多くの若者の関心を集めて話題を呼ぶ。また起業家の家入一真氏とともに、自由に働くことをテーマにした集団「Liverty」を創設し、インターネットを最大限活用した企画を展開。 その他にも、ネット選挙解禁に貢献した市民運動「One Voice Campaign」や、米大使館×ニコニコ生放送 初コラボ「大統領選17時間SP番組」といった政治企画も仕掛けるなど、領域を横断して活動中。本業はコピーライティング。

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