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  • 論点

日本経済の行方を決する都知事選 劇場型を排し、政策を真摯に問え

  • 堀義人 (グロービス経営大学院学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)
  • 2014年1月25日

妻と子供5人と暮らす東京都民、そして企業家として、今回の都知事選に対しては強い関心を持っている。

今、安倍晋三首相の「アベノミクス」の効果が徐々に表れ、日本経済が好転に向かい始めていることを、多くの人々が実感しているはずだ。その首都である東京は、政治・経済・文化の中心であり、海外からの観光客を多く迎える日本の玄関であり、ベンチャーを次々に生み出す“第2のシリコンバレー”でもある。

2020年オリンピックの開催が決まった。これを成功させるべく知恵を絞り、規制緩和やインフラ投資など大胆な行動を起こす時である。首都直下型地震を想定した防災対策や少子高齢化という現実に対処するための社会保障対策など、様々な難題も横たわっている。

日本をより良く、より強くするためには、まずは東京をより良く、より強くする必要がある。今回の東京都知事選では、そうした明確な目標を掲げ、具体的な政策を提案し、それを実行する政策実現能力を持った候補を応援したいと考えている。そうした政策論をぶつけ合う討論を聞きたいと思っている。僕が提唱している「批判より提案を」「思想から行動へ」「リーダーの自覚を」の精神だ。

政策により候補者を選ぶ

今回の東京都知事選挙について僕の私見を書かせてもらう前に、まずは企業家としての政治的スタンスを明らかにしておきたい。

  • 日本の国益を考えて原発再稼働には賛成である。
  • TPPにも賛成、規制改革には大賛成。
  • 少子高齢化の厳しい現実を考えると財政均衡のために生活保護・社会福祉の削減もやむなしとする。
  • 憲法改正に賛成、靖国神社参拝は個人の心の問題であり外国からの批判を恐れて萎縮すべきではない。
  • 婚外子を社会として受け入れ出生率をアップへ……等々。

僕自身は、保守であり、リベラルである。右寄りでも左寄りでもなく、「ど真ん中」だと思っている。そのことは、一昨年から書き続けている「100の行動」という政策提言集を読んでもらえれば分かって頂けると思う。

日本は今、全ての原発を止め、火力発電で電力需要を賄っている。膨大な原油を割高な価格で買い続けているため、1日当たり100億円もの国富が海外に流出している。2013年11月の経常赤字は5928億円と単月で過去最大に膨らんでいる。極めて深刻な問題だ。一刻も早く「原発再稼働」を決断しなければ、日本が潰れてしまう。

宇都宮健児、田母神俊雄、細川護熙、舛添要一の4氏(五十音順)の中で、細川氏と宇都宮氏は、原発ゼロを主張している。「脱原発で成長戦略を!」とは、掛け声は良いが、ドイツの事例を見ても、電気料金が倍増しながらも、まだまだ原発を代替するに到っていない。むしろCO2の排出を増やしているのが現状だ。従い、基本的には、両氏は現実性を考えると論外だと思っている。

となると残りは、舛添氏と田母神氏のどちらかとなろう。舛添氏は、脱原発を唱え、田母神氏だけが原発再稼働を主張している。田母神氏は、災害時の人名救助体制の構築、五輪に向けた東京強靱化などの政策を掲げており、僕のスタンスに最も近い。元航空幕僚長としてリーダーシップを発揮したが、決して堅物ではなく、ユーモアたっぷりの人物である。

最終的には有力候補者が集まる政策討論を聞いてから決めたいと思っている。候補者の皆さんには、東京をより良くするための前向きで建設的な議論を心から期待している。そして、僕たち首都東京の有権者には、目先の扇情的なシングル・キャッチフレーズに踊らされることなく、子供たちに引き継ぐ東京の未来をしっかり考える見識が求められていると思う。

細川氏当選なら日本の信頼は失墜する

その上で、一言だけ付け加えたい。細川氏の立候補についてだ。誰が立候補しようが基本的に自由だと思っている。だが、そもそも、細川氏は不透明な政治資金疑惑で批判を浴び、その真相を明らかにしないまま、総理の座を投げ捨ててしまった人物だ。猪瀬氏が5000万円で辞職し、1億円疑惑で灰色に染まったままの細川氏がその代わりに当選するなど、冗談にもならない。

僕は、人間の資質を普段の生活、そして言動で判断する。細川氏は、過去20年近く隠居して、陶芸をされていた方だ。僕は、何度か都内のホテルや軽井沢の駅で細川氏をお見かけした。だが、精気が無く無気力の印象が強かった。安倍氏が総理の座を離れた後も、積極的に多くの人と政策について意見交換していた姿とは、真逆で対照的であった。

また、首都東京の首長として職務を全うするためには決して折れない頭脳、精神力が必要だ。その精神力を支えるためには強靱な体力が不可欠であろう。細川氏は御年76。2020年東京オリンピックに向けて激務をこなしていかなければならない東京都知事としては、健康面での不安がつきまとう。

そして、こともあろうことか、細川氏は「原発があるから、五輪は返上すべきだ」などと仰っているという。無責任にも程がある。この人を都知事にしてはいけない。日本への信頼は地に落ちてしまう。

1億円の政治資金を受領したことにより唐突に首相を辞め、今度は唐突に脱原発を掲げて都知事選に出馬する……。僕は細川氏の無責任な行動に対して、怒り心頭に発している。

細川氏が当選すると日本の信用は失墜、株価は下落し、アベノミクスは終焉してしまうだろう。都知事選挙を隠居老人の戯れの場にするのは、お願いだからやめてもらいたい。

首都有権者の見識が問われる

冒頭に書いた通り、今回の都知事選は、東京の未来ばかりでなく、日本の未来を占う選挙となろう。是非とも政策をぶつけ合い、有権者が納得いくまで、議論してほしい。今は、候補者が討論会に集まらないと言う。とてもゆゆしき問題だ。劇場型のイメージ選挙を排し、政策を真摯に問い続けて欲しい。そして、都民が必ず選挙に行き、自らの未来を切り開いていきたい。今こそ首都東京の有権者の見識が問われているのだ。

著者プロフィール

堀義人
ほり・よしと

グロービス経営大学院学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設し、2013年4月に一般社団法人G1サミットの代表理事に就任。2011年3月大震災後には復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、代表理事を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『新装版 人生の座標軸 「起業家」の成功方程式』(東洋経済新報社)等がある。

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