ポリタス

  • 視点

四谷三丁目にて

  • 高橋健太郎 (文筆家/音楽制作者)
  • 2014年2月1日

四谷三丁目の交差点から、四谷方向に二分ほど歩くと、宇都宮けんじの選挙事務所があり、新宿方向に二分ほど歩くと、細川もりひろを支援する「勝手連」の事務所がある。両事務所の真ん中あたりにカフェを見つけたので、僕はそこでラップトップPCを広げたところだ。

どちらの事務所にも、僕の知り合いがいるはずである。福島第一原発の事故以前に遡る「反原発」の同志と言ってもいい人達が、今は両陣営に分かれている。僕はと言えば、支援者になってください、というお願いも受けたものの、東京都民ではないから、というのを言い訳に、少し距離を置いて、選挙戦を見ている。

東京都民でなくなったのは、前回の都知事選の直前だった。僕は東京生まれの東京育ちで、神奈川に居を移した今も、週何日かは都内に足を運ぶ。だが、住民票を失い、選挙権がなくなった途端、都知事選には大きな興味が抱けなくなった。前回の都知事選は、猪瀬直樹の圧勝が確定的だったのだから、なおさらだ。

比べれば、今回の選挙戦は面白い。日に日に、面白さを増して行くようにさえ思えている。面白くしたのは、言うまでもなく、「脱原発」を掲げた細川・小泉タッグの登場だ。おかげで、前回、猪瀬直樹が得た430万票の大半が自民公明の推薦を受けた舛添要一に流れるという無風の選挙はなくなった。舛添vs宇都宮だけでは、争点にならなかっただろう「原発」の話題が、街頭に溢れ出した。「一本化」をめぐって、いろいろあったとも伝え聞くが、脱原発候補同士の争いで選挙戦がヒートアップするなんて、これは想像だにしなかった出来事である。

2007年に、僕は新潟中越沖地震で事故を起こした柏崎刈羽原発の廃炉を求める署名運動をした。賛同者には坂本龍一、村上龍といった著名人が名前を並べたが、集まった署名は7000名あまりだった。7年後の今、二人の元首相が「脱原発」を訴えている光景には、さすがに心揺さぶられる。7年前には全国で7000人の賛同者しか得られなかった柏崎刈羽原発の廃炉に、今はどれだけの東京都民が賛意を示すだろうか。宇都宮・細川が得る票数の合計から、それを計ることができるだろう。票が割れて、脱原発派は選挙には負けるかもしれないが、それでも、今回の都知事選は来るべき変化を指し示す、日本社会のターニングポイントになりうると思う。

思えば、投票したい候補者が二人もいる選挙、というのを僕は経験したことがない。白紙投票を避けるために、消去法で仕方なく選んだ一人の名前を書く。僕はずっとずっと、そんな選挙ばかり、経験してきた。投票したい候補者が二人もいる選挙があるとしたら、それは素晴らしいことじゃないのかな。都民のみなさんが本当に羨ましい。

著者プロフィール

高橋健太郎
たかはし・けんたろう

文筆家/音楽制作者

文筆家/音楽制作者。OTOTOYプロデューサー。音楽雑誌「エリス」編集長。NPO APAST理事。評論集に『ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの』。

広告