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なぜ脱原発が都知事選の争点なのか

  • 金子勝 (慶応義塾大学経済学部教授)
  • 2014年2月7日

原発推進の中心的役割を果たしてきた甘利経済財政相をはじめ、原発推進派から「国のエネルギー政策は知事選には馴染まない」というキャンペーンが張られています。しかし、本当に都知事選で原発は争点にならないのでしょうか。

そもそもエネルギー政策を国だけが決めるという発想自体が「原発的」です。巨大な原発を、国が多額の交付金を出したりしながら、どこに立地させるかを決めてきた——その発想がそのまま出ています。

しかし、一つ一つが小規模な再生可能エネルギーは分散型エネルギーであり、その立地は地域自身が決めます。都知事選になじまないどころか、21世紀のエネルギー政策の主体は地域・地方になるのです。「国のエネルギー政策は知事選には馴染まない」という主張自体が、すでに時代遅れなのです。

現時点でも、誰が都知事になるかで、国のエネルギー政策は大きく違ってきます。

候補者の舛添要一氏は「私も脱原発」と主張し始めたが、争点隠しと言われても仕方ないでしょう。ラジオ番組では、シベリアに核廃棄物の最終処分場を作って原発を再稼動させればいいと語り、高速増殖炉の「もんじゅ」も推進すべきと述べています。舛添氏が都知事になった場合、いま閣議決定を先送りしている、原発を「重要なベース電源」とする国の新エネルギー基本計画が「復活」させられる可能性が高まります。

一方、「原発ゼロ」を掲げている候補者が都知事に就いた場合、国のエネルギー政策は大きく変わらざるをえません。たとえば、もし新都知事が、柏崎刈羽原発の「再稼動」に反対する新潟県の泉田裕彦知事とタッグを組んだらどうなるでしょうか。最大の消費地である東京都の知事と、原発の立地県である新潟県の知事が「原発ゼロ」で足並みを揃えた時のインパクトは大きく、原発の再稼動は不可能になるでしょう。

そもそも柏崎刈羽原発の「再稼動」を前提とした東京電力の再建計画は「絵に描いた餅」です。結局、東電は電気料金の値上げで持たそうとしています。しかし、都は東電の大株主です。巨額の税金や電気料金を投入することによってゾンビ東電をひたすら救済するという現行の再建計画の見直すことを促すこともできます。「原発ゼロ」を訴える都知事が誕生したら、様々なことが動き出すでしょう。

さらに、東京都は自らいろいろなエネルギー政策を実施できます。たとえば、東京電力が東京都の方針に従わない場合、新電力からの購入を増やしたり、地方の再生可能エネルギーを買ったり、といった政策を行うことができます。

ニューヨーク州は2015年までに5000の学校を地域の再生可能エネルギーのハブにする考えを示していますが、こうした取り組みで公共施設の屋根にパネルを張ったり、ビルの建設認可に関して新たに省エネを義務づけたりすることも可能になります。またモデル的にマイクログリッド(小規模発電網)を導入することも可能です。すでに全国各地でも少しずつ始まっていますが、東京都がこうした脱原発政策を実施していけば、他の地域・地方への波及効果が大きいでしょう。

何より決定的に大きいのは、2020年の東京五輪開催です。

おそらく2年後に「リオ五輪」が終わった後、世界の関心は「東京五輪」に集まるに違いありません。その時、福島第一原発の地下水汚染が広がり、凍土壁が壊れ、仮設タンク(フランジ型)から汚染水がだだ漏れしていたら、どうでしょうか。世界のメディアは福島第一原発の事故が収束していないことに注目し、「汚染水は完全にコントロールされている」という安倍首相の発言がやはり嘘だったと騒ぐでしょう。

その時、誰が都知事なのかで世界の見る目は変わってきます。柏崎刈羽原発を再稼働させようとする都知事だったら、東京五輪は一転して世界の恥さらしになってしまいます。放射能汚染に対する懸念が世界中の話題になります。東京五輪は台無しです。

一方、「脱原発」に動き、世界一のスマートシティで「東京五輪」を迎えようと考えている都知事なら、たとえ福島第一原発事故が収束していなくても、世界は東京の努力を評価してくれるでしょう。実際、新しい都知事が“五輪の顔”として世界を回る時、「脱原発」と「エネルギー転換」を訴えれば、そのインパクトは大きい。

そのうえで、東京を世界一のスマートな環境都市にして東京五輪を開催することです。五輪施設はすべて先端の環境・省エネ技術を導入します。こうすれば、衰退する日本産業にとって、またとないアピールの機会となるでしょう。脱原発は新しい産業構造と雇用を作り出す政策でもあるのです。

最後に、都知事選は国政にも大きなインパクトを与えることを忘れてはなりません。安倍政権は公約を公然と破ってTPP、原発、秘密保護法などを推進していますが、野党の無力さが目立ち、安倍首相の暴走を許しています。しかし、都知事選で有権者が安倍政権の政策にノーを突きつけた場合、<国vs地方>という構図ができ、世論を無視する国政に対して、国民は民意を反映させる手段を手に入れることができます。それは民主主義を取り戻す一歩になりえるのです。

昨年12月の都知事選で都民は、猪瀬直樹に430万票を与えてしまいました。今度こそ、あの時を反省して一票を投じる必要があります。

著者プロフィール

金子勝
かねこ・まさる

慶応義塾大学経済学部教授

経済学者。慶應義塾大学経済学部教授。専門は、制度経済学、財政学、地方財政論。経済理論学会所属。著書に『新・反グローバリズム 金融資本主義を超えて』(岩波現代文庫)、『「脱原発」成長論 新しい産業革命へ』(筑摩書房)、『失われた30年 逆転への最後の提言』(NHK出版)、『原発は不良債権である』(岩波ブックレット)、『原発は火力より高い』(岩波ブックレット)など多数。

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