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家入一真という「実験」 希望の都市の絶望の若者ネット選挙

  • 常見陽平 (人材コンサルタント)
  • 2014年2月7日

家入一真氏は単なる泡沫候補ではない。彼は都知事選により、公開実験を行っているのである。若い世代が、ネットを駆使してどこまでできるのか挑戦しているのである。傍から見ていると、彼は実験を楽しんでいるかのように見える。しかし、その実験が生み出しかねない絶望を、我々は直視しなければならない。

いやはや、都知事選である。突然やってきた今回の都知事選は、もうすぐ投票が行われる。たまに、何のための都知事選なのかわからなくなるのだけど。

「主要四候補」なる言葉をメディアでよく見かける。前日本弁護士連合会長の宇都宮健児氏、元航空幕僚長の田母神俊雄氏、元厚生労働相の舛添要一氏、元首相の細川護熙氏の4人だ(五十音順)。世論調査における支持率を見ても、過去の実績からしても、この4人が「主要四候補」であることは間違いない。

そこには、家入一真氏の名前はない。ただ、彼が立候補したこと自体や、選挙活動のスタイルは型破りだ。堀江貴文氏が「保護者」として登場しネット中継された出馬会見、街頭演説をほぼ行わずネットを駆使する選挙活動、選挙中に支持者からの投稿で政策を作り上げるという手法などはいちいち斬新である。2月1日には渋谷駅のハチ公前広場で街頭演説を行った。Facebookでその様子がシェアされていたが人でいっぱいだった。「後ろの方が空いているから、違う写真の方がいいのでは」なんていう書き込みも見かけたが。

ただ、残念ながら当選は厳しそうな情勢である。冒頭で触れたように、メディアは宇都宮健児氏、田母神俊雄氏、舛添要一氏、細川護熙氏を「主要4候補」としているし、世論調査においても、これら4候補、特に舛添要一氏と細川護煕氏の優位はどうやら間違いなさそうだ。日本経済新聞社が1月30日から2月2日にかけて行った世論調査では、舛添要一氏がリードしており、細川護熙氏が追うという展開になっている。まだ投票先を決めていない人が2割弱いるので、何が起こるのかは分からない。ただ、家入一真氏が不利であることは揺るがないだろう。

こうなると焦点は、当選しないにしろ(くれぐれも言うが、確定的に言っているわけではない)、どれだけ得票数を集めるかが注目される。4候補に及ばないことは、今のところの世論調査で推測されるものの、では、どれだけ善戦して負けるのか、と。

ただ、そもそも、家入一真氏は当選する気があるのだろうか。会見などを見る限り、その意志は微塵も感じられなかった(あくまで私の感想である)。思うに、得票につながる取り組みをほぼ行っていないのである。

例えば渋谷のハチ公前を満員にした件、一つとっても、得票につながる行動と言えるだろうか。渋谷は、東京都民以外の比率が高いエリアだと言われている。もちろん、話題作りにはなったのだろうが、ネット中心にシェアされただけであって、マスメディアに報道された様子は、管見の限り見られない。

細川護煕氏は立川駅前で演説を行い、8000人を集めた様子が報道された。これは、投票につながる行動である。一部、神奈川方面からも人が集まるエリアではあるものの、多摩地区の都民が集まる街に8000人を集めたインパクトは大きい。

平成25年1月1日現在の住民基本台帳を元にした、ややアバウトなデータだが、東京都の有権者は約1000万人いるが、20代が約154万人、30代が約207万人、40代が約205万人、50代が約145万人、60代が約161万人、70代以上が約198万人である。世代ごとの投票率がよっぽど凸凹にならない限り、若い世代だけの支持では無理だ。

選挙に勝つためには、一般的には支持層、支持母体が必要である。家入一真氏はNHKなどの番組にも出演しているし、起業で成功しているし、本も売れている。ただ、他の候補者とくらべて一般的な知名度が低いことは明らかだし、有力な支持母体があるという話は聞いたことがない。

もちろん、1995年の都知事選における青島幸男氏のように、特に支持母体がなくても、選挙活動を行わなくても、圧倒的な得票数で当選した例はある。ただ、彼の場合もすでに国会議員を経験していたし、知名度は高かった。「世界都市博覧会中止」というメッセージもわかりやすかった。

「東京をぼくらの町に!」と言うメッセージは、わかりやすいのだが、そもそも、ぼくらとは誰なのだろう。Twitterで政策募集などを行っているのだが、これはかなり限定された「ぼくら」なのではないだろうか。そもそも、選挙期間中に政策募集というのは、実験として面白いが、票集めの上で有効だろうか。投票するからには勝ってもらわないといけないのだ。「飛べない豚はただの豚だ」は宮崎アニメ『紅の豚』の名セリフだが、知事候補は落選したら、ただの人である。

30代の候補者が出た意義は大きい。なんせ、オリンピックまでに死にそうな候補者ばかりだ。またネットを使った選挙という実験も評価しよう。ただ、彼の落選により、またどのレベルで落ちるかにより、若者候補者と、ネット選挙というものは絶望するしかない存在にならないか。もちろん、彼が落ちただけでは若者候補者、ネット選挙=ダメという風には断定できないのだけれども。

彼以外に出るべき若手候補者はいただろう。出馬しただけ、彼は偉い。ただ、単なる泡沫候補者と思われて終わるのは残念でしかない。都知事選が実験だとするならば、最大限の足あとを残して頂きたい。信じた者を裏切らないで頂きたい。それこそ、ネットで映像を配信するのも、Twitterで政策を募集するのも、堀江貴文氏の流行語大賞にノミネートされた言葉を借りるとするならば「想定の範囲内」である。

彼のファンでもアンチでもないが、アラフォーからの私なりのエールである。

著者プロフィール

常見陽平
つねみ・ようへい

人材コンサルタント

人材コンサルタント、著述家。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。学生時代に就職氷河期を体験後、新卒でリクルートに入社。玩具メーカー、人材コンサルティング会社を経てフリーに。残業、休日出勤、接待、宴会芸、希望外の異動、出向、転勤、過労などサラリーマンらしいことをひと通り経験する。雇用や労働をテーマに執筆、講演、メディア出演などで活動中。一橋大学大学院社会学研究科修士課程に在学中。主な著書に『「就社志向」の研究』『普通に働け』『僕たちはガンダムのジムである』などがある。

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