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都知事選候補者のエネルギー政策を分析する

  • 小寺信良 (テクニカルライター/コラムニスト)
  • 2014年2月6日

都知事選において「脱原発」が争点になるのかどうか、意見が分かれている。そもそも東京都は東京電力の持株比率が1%強しかないのに、都の方針で脱原発できるのか疑問視する声はもっともであろう。そもそも東京電力が電力を供給しているエリアは、群馬県、栃木県、茨城県、埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県、山梨県、静岡県の富士川以東で、1都7県半ぐらいある。これだけの範囲でつながっちゃってるのに、東京都だけ原発以外の電気流してね、なんてことは、まあ難しい。

一方で、日本最大のエネルギー消費都市である東京のこれからのエネルギー政策が日本全体に与える影響は、小さくない。つまり、一存で脱原発する権限はないが、東京都のエネルギー政策の転換は可能というのが、東京都が実際にやれることである。

筆者は福島第一原発の事故以来、それに変わるエネルギーについて2年間取材を続けてきたので、多少はエネルギー政策のことがわかるようになってきた。この視点で、各候補者のエネルギー政策を分類したのが、下の表である。これは選挙公報をベースにしているが、政策解説で言及している項目には赤い旗印を付けてある。

図 都知事選候補者のエネルギー政策 (図 都知事選候補者のエネルギー政策)

候補者は脱原発派が多いが、選挙公報の段階ではそもそもエネルギー問題を論点としていない候補者もそれなりにいる。ますぞえ要一氏は公報では言及がないが、政策サイトを読むと脱原発であることがわかる。また田母神としお氏も公報で言及はないが、報道によれば原発容認派であることがわかった。つまり、公報に入稿した時点では原発問題が争点になるとは認識していなかった、あるいは中心には据えていなかったが、選挙戦を戦ううちにスタンスを表明することにした、という流れであることがわかる。

ないとうひさお氏の主張は脱原発ととれないこともないが、国に任せるということは、現時点での政権は原発再稼働へ向けて動いているので、容認ということになるだろう。家入かずま氏は、公報の時点でこれといった政策はなく、政策を広く募集するとしているため、本人の意向は不明である。ただ逆に質問として、エネルギーの問題をどうしようと問うているので、論点ではあるようだ。

具体策を検討する

東京都民のみならず、全国的にも脱原発の意向は強いと思われるが、では具体的に脱原発に向けて何をするのか、という政策に注目してみる。

細川護煕氏は、原発に変わる具体策がないとしてメディアに叩かれたりしているが、政策では再生可能エネルギー推進を掲げている。太陽光、風力、水力など自然エネルギーなら何でもかんでも、とするならば具体策がないのも同じとも言えるが、実はほかの候補者も主張は似たり寄ったりで、細川氏だけ叩かれるのは気の毒である。

具体策として天然ガスに注目するのは、宇都宮けんじ氏と松山親憲氏(図中1)だが、これは猪瀬直樹前知事が副知事時代に、巨大天然ガス発電所を作るプロジェクトチームを発足させた延長線上にある政策だろう。ただこの計画は、2013年9月に計画を見直すことになり、現在は頓挫している。

松山氏は特に、ガスコンバインドサイクル発電に注目(図中2)している。これはガスタービンによる火力発電に、その廃熱を利用する発電機をもう一つくっつけて、効率を上げるというシステムだ。

ガスタービンの基本構造は、ジェットエンジンと同じである。タービンの噴流を推進力に使うとジェットエンジンになり、回転エネルギーから電力を取り出すとガスタービン発電になる。実際に国内で稼働しているガスタービン発電機のうち、相当数が中古のジェットエンジンを再利用している。

だがこれはいくらエネルギー変換効率を上げたからといっても、基本的には火力発電なので、燃料がいる。しかもガスタービン発電は出力調整がすぐできるので、電力ニーズに合わせた調整用発電として使われる。原発のようにずーっと巨大電力を生み続けてベース電力を稼ぐような使い方は、もったいない。

さらに氏は、国内ではすでにガスコンバインドサイクル発電機が160機以上が稼働していると主張するが、これは工場内で利用するなどの小規模発電の合算だろう。現在電力会社クラスで稼働しているシステムは、まだ30基程度しかない。

宇都宮氏は水素燃料電池にも着目(図中3)しているが、これは電池と名前が付くものの、小規模発電機である。天然ガスを供給してその中の水素を取り出し、空気中の酸素を取り込んで、「水の電気分解」の逆をやる装置だ。つまり成果物として、電気と水が出来上がるわけである。ただ電気だけではエネルギー変換効率としては40%程度しかなく、大量に発生する熱も何らかの形で利用しないともったいない。病院やホテルなどでは、燃料電池の発熱でお湯を沸かして、給湯システムと一体化させている例が多い。そこまでやってはじめて、効率は90%ぐらいまで上がる。

金子博氏が地熱エネルギーに着目(図中4)しているのは、着眼点としては面白い。ただ、大量の地熱が得られる場所が都内にはない。理想的には活火山の近くだが、日本ではほとんどの活火山が国立公園となっており、発電所建設の認可が下りない。これを実用化するには、まず国の法律を変えないと、手も足も出ないのが実情である。ただ日本には地熱発電の技術だけはあって、富士電機、東芝、三菱重工の3社だけで世界の地熱発電設備の70%を供給している。この技術を使わないのは、本当にもったいない。

もったいないもったいないとけちくさいことばかり言ってきたが、発電とはいかに無駄がないかが重要なキーになる技術なのだ。

正解はあるのか

日本の電力システムは、少ない場所にドッカンと巨大電力を発生する発電所を作り、それを分配するという方式だ。それが原発を中心としたエネルギー政策の本質であり、それなしで同じ分配システムのままならば、原発に変わる巨大エネルギーの発生装置がいる。だが自然エネルギーを利用した発電では発電量のケタが低すぎるので、もうアホみたいな数の発電装置を作らないといけなくなる。

では自然エネルギーをどう利用すればいいかというと、答えは需要と供給の両方を分析することで送電を最適化できるスマートグリッド(次世代送電網)という事になる。政策でスマートグリッドに言及しているのは宇都宮けんじ氏(図中5)のみである。

これは電力消費エリアを小さい範囲に分割して、それぞれの場所で発電していくという考え方だ。これならば、電力消費の少ないところは自然エネルギーだけで行けるだろうし、足りないところは余ってるところの電力を融通してもらう。ただ東京都が「本来の意味で」スマートグリッド化するということは、脱原発を飛び越して一気に脱東電まで行ってしまう可能性もあり得る。都の責任としてそれでいいのかというのは、また議論が必要だろう。

もちろん、これをやる費用はなみなみならぬものがある。なにせ既存の電力網のほかに、別の電力網をまた引き直す事になるからだ。これを都の費用でやるとすれば、都民の税負担は確実に増えるだろう。また発電装置をご近所と共同で買うという話になったら、何がいいのか、それは誰の資産でどう管理するのかといった、運用上の法整備も必要になる。

知事の任期は、4年である。東京都民が次世代エネルギーに総乗り換えできるほどの期間だとは、正直思えない。やれることと言えば、もっと先、10年後20年後の未来のエネルギーをどうしていく“べき”か、そのために何にお金をかけるかを決めるのが、次の都知事の仕事であろう。つまり、仕組みを作るだけで任期が終わる可能性が高い。

筆者は埼玉県民なので選挙権がないが、東京都民の皆さんは次のエネルギー政策を心配するならば、先を見る力のある人、「やる力」より「やらせる力」を持った人を選んでほしい。そんな候補者が居れば苦労しないという話はなしの方向で、ひとつよろしくお願いいたします。

著者プロフィール

小寺信良
こでら・のぶよし

テクニカルライター/コラムニスト

コラムニスト / 一般社団法人インターネットユーザー協会 代表理事。1963年生まれ。テレビ番組の編集者として報道番組などを手がけたのち、94年に技術系の文筆業に転身。2007年にジャーナリスト津田大介と共に、インターネットユーザー協会の前身となる任意団体「インターネット先進ユーザーの会」を発足、同年より現職。

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