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投票自体はいいけれど、支持する人を主張なんかしたくないなと思ってしまうくらい僕は無責任な有権者なわけですが

  • 安部敏樹 (一般社団法人リディラバ代表理事)
  • 2014年2月5日

有権者にとって政治的な意見表明はリスクが高い

津田さんから依頼がありこの都知事選に対する僕の考え方をここに書くことになったわけだが、これって大変リスキーなことだなと率直に思ってしまう。

何が大変かって言うと、ここで具体的に誰々支持だ、ということを言うことが個人として今後の大きなリスクになるということだ。物事を記録するデバイスが大いに普及した現代において、我々の情報発信の記録は以前に比べて圧倒的に網羅性を高め、これまでよりもずっと長く我々を拘束する。

将来に今考えていることと別のことを発信すれば、過去の考えに対して一貫していないと批判されるし、誰かを具体的に支持すれば、その人の失脚の際にはその誰かを推した僕にも当然責任が生じるだろう。

それはちょっと嫌だな。だから黙って投票だけしようかな、と思ってしまう。正直日常にそれほど深い不満がない一有権者ってそんなものではないだろうか。判断する基準もよくわからないし。

僕は東京都民だ。しかも色々な社会課題のスタディツアーを作るのを仕事にしているから、色々な課題の現場を扱っている。だから多くの人より政治に近い情報に触れることが多いし、当然今回の都知事選にだっていくらか関心はある。

だけど、自分の仕事に割く時間ほど長くは政治のことを考えていないし、東京都の今後におけるビジョンに関して確信めいた信念もない。立候補した政治家の人柄までよく知っている訳ではないし、今回の選挙の争点になりうる多様な課題のことを全て理解している訳でもない。

匿名の選挙において投票することは国民の義務であり権利としてもちろん行使するけれど、自分の名前を明かしてまで未熟な意見や支持を表明したいとは思わない。自分が発信したいというテーマに限って、十分に熟考した上で発信したい。そう出来ないものに関しては黙っていたい。

だって批判されるし炎上するわけですよ。何のメリットもないでしょ——そうして僕みたいな人間は政治から遠ざかって行くだろうなって思う。

僕らは十分に学んでいる。個人としてこういうときは静観をするべきだと。民主党や鳩山さんの綺麗なお題目に共感して支持した人たちは今さらあえて鳩山さんを支持していたということを批判されたくない。それはなかなかに痛い事実だからだ(ちなみに僕は民主党を支持してなかったからこう言うことが言いやすい)。

自ら意見を表明してリスクを冒す必要はない。マジョリティに乗っかっておけば少なくとも自分だけが批判されることはない。それでいいじゃないか。後からしれっと、わかった風に言えばいいじゃないか。ほら見ろ、やっぱりダメじゃないか、って。ね?

そして誰かがそう思い始めると、発信する人はよりリスクを負うようになる。なぜならじゃんけんは後出しの方が強いからだ。当たり前の話でしかない。

ただこう言うことを続けていると、知らんうちに手が付けられないような問題を放置しちゃうことになるわけで、そろそろこの何とも言えない空気感は変えていかなければとも思っている。

政治に対しての意見表明に対してもう少し寛容になると、もっと多くの人が声を上げやすくなるし、全体としての政治への知見も長期的に底上げされていくだろう。

だから頼むから僕が言ってる未熟な内容にいちいちくだらない突っ込みは入れないでほしい(笑)。

今回の選挙の注目ポイント

僕としては一番言いたい「政治に対する意見発信に対してもっと相互に寛容な社会を作ろうよ」というメッセージは書けたから後はおまけみたいなものなんだけど、一応個人的な今回の選挙で注目している点も書いておく。

( 1 )地方政治と国政の逆転現象がおきるのは面白いこと

今回の選挙で細川・小泉のタッグが自民党を揺さぶっているのを見ると本当に面白いなと思う。よくよく考えれば知事選は首長を選ぶという意味で直接的に民意を反映できるから、総理大臣を選べない我々からすれば大変参加する意義の大きい選挙である。そしてその選挙の結果にここまで国全体の行く末が託されそうな選挙もなかなかない。選挙の制度的な側面も含め、地方行政の力がより大きくなっているんだなと実感している。

( 2 )原発が争点になるのはアリなんじゃないか

東京駅の目にある新丸の内ビルは、電力を全て青森県の六ヶ所村で発電している再生可能エネルギーで賄われている。しかもちゃんと託送されているので、「みなし」電力ではない。これ自体も今後の発電・送電・売電に対して重要な取り組みの事例だ。これを核の再処理施設がある六ヶ所村から送っているというのは何とも皮肉な話だが、東京都は元から「再生可能エネルギー地域間連携」というのを北海道や東北地域と協定を結んで進めているし、エネルギー源をどうしていくのか、というのは大いに都政に絡む話である。そして脱原発の議論は、最終的には核燃料の最終処理をどこでどうするか、という話になるわけだが、これは正直自民党の長老連中が話を付けないといかんともしがたい。少なくとも青森県と自民党政権が再処理工場を作る際に交わした約束に関しては、今やそれらの長老の人以外が収拾するのはほぼ不可能だろう。その点ではメインストリームではないかもしれないが、自民党の長老二人が原発をなんとかしようとしてるのはいくらか期待できるなと思っている。

( 3 )東京という都市の成長性を抑制したくない

よく言われることだが、今は国同士で争うというよりは都市間での競争がスピードも速いし実際的だ。日本という国は少子高齢化の中で競争力をだんだんと失っていくのは目に見えているが、「東京」という都市は今後も長期的に世界の最先端都市としてトップ争いを続けられる可能性が高い。そういうなかで、オリンピックなども含めてどんどん成長の可能性があるところに投資をするような都政であってほしい。経済的に潤っているからこそ社会福祉や教育なども充実させていける、という事実はきれいごととか関係なく存在する事実だ。自転車専用レーンを作るとか待機児童をなくすとか、何事も変化する為にはお金がいるのだ。そこで甘っちょろいことは言わないでほしい。

おわりに

正直なところ、僕は誰がいいかとか、よくわからない。投票する先ももう少し悩むことにする。舛添さんは勝ち馬乗ってる感が嫌だし、細川さんにはかつての鳩山さんっぽい理想主義の気があるし、田母神さんは論文がなんか怖いし、家入さんは途中で投げ出しそうな危うさを感じる。何事もベストはない。

ただ僕が思うのは、選挙というのは誰に投票するかもそれなりに重要ではあるが、それ以上に選挙の結果としての「この先の4年間」を、責任を持って我々有権者が引き受けることが大事だと思う。民主主義って本来そういうシステムだ。もちろん選ばれた都知事が何らかの失敗をするかもしれないし、ひょっとしたらまた4年も続かないという悲しい事実が生じるかもしれないが、いずれにせよ、「後出しじゃんけん」はずるい。

せっかくだし、今回の都知事選はちょっと周囲と誰がいいかとか論じてみたりした上で投票しにいって、しっかりとその後に続く都政の責任を引き受けませんか。どうせ自分たちに跳ね返ってくるならば、最初から覚悟を持っていたいものです。

では!

著者プロフィール

安部敏樹
あべ・としき

一般社団法人リディラバ代表理事

一般社団法人リディラバ代表理事/マグロ漁師/東京大学大学院博士課程。みんなが社会問題をツアーにして発信・共有するプラットフォーム『リディラバ』を2009年に設立。500名以上の運営会員と60種類以上の社会問題のスタディツアーの実績があり、これまで2000人以上を社会問題の現場に送り込む。(「Travel the Problem:https://traveltheproblem.com/」)また都立中学の修学旅行や企業の研修旅行などにもスタディツアーを提供する。その他、誰でも社会問題を投稿できるwebサービス「TRAPRO」の開発・運用なども行い、多方面から誰もが社会問題に触れやすい環境の整備を目指す。2012年度より東京大学教養学部にて1・2年生向けに社会起業の授業を教える。特技はマグロを素手で取ること。学生起業家選手権優勝、ビジコン奈良ベンチャー部門トップ賞、総務省起業家甲子園日本一、KDDI∞ラボ第5期最優秀賞など受賞多数。

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