ポリタス

  • 視点

抜本的なチェインジを

  • モーリー・ロバートソン (ミュージシャン+ジャーナリスト)
  • 2014年1月28日

ぼくは日に日に都知事選への興味を失っている。老人の世界観に媚びた候補者ばかりだからだ。究極の田舎者であった、旧世代の日本人の最後のあがきにも思える。何も変えたがらず、かつてうまく行っていた時代を追体験したい、固まってしまった思考を持つ有権者が想定されており、エキサイティングな要素が何もない。何も変えないのなら、茶番の少ない保守候補が良いと考えている。しかしそれも消去法だ。つまらない。

オリンピックをせっかくやるのだから、一世代で日本社会を刷新した方がいい。東京から。ぼくなりのユートピアを泡沫の一つとして提案しておこう。これには都政を越えて、次世代の日本のビジョンが盛り込まれている。

英語

まず、世界に通用するリーダーを輩出する日本にしたい。

製造立国・ものづくりのパラダイムを越えて世界に発信するオリジナルな発想を持つ、親の世代からは想像できない若者を育てたい。

そのためには英語が話せないと、話にならない。技術的に流暢な英語を話せるだけではなく、国際基準となっている激しい駆け引きで雄弁に、緻密にディベートができる人材がほしい。ITツールも使って、英語教育のマーケットを作り出せば、一世代でバイリンガルな子どもたちを育てることも可能だと思う。中国政府はすでにその気だ。

移民

次に移民をごっそり日本に入れる。年金問題の低迷、社会のスローダウン、少子高齢化が急速に進む中、まずは高度な技能を持つ外国人労働者に5年以上の定住ビザを発行する。BRICSの新興国からも、先進国からもどんどんと呼ぶ。続いて単純労働者もだ。移民反対をする者からは、西ドイツでトルコ人を定住させて大失敗だったという声が決まって聞こえる。だがカナダではうまく行っているらしいから、そのあたりも調べてほしい。日本は移民大国になれる。つまりシンガポール化させて蘇生させる案だ。経団連も安倍政権もすでに移民大国への布石となる規制緩和をにらんでいる。人口が足りないという、現実は現実だ。移民によって社会はかき乱されるだろう。しかしその刺激が社会を若返らせ、元気にする。昭和に別れを告げる時が来ている。

理数系

そして脱原発だが、急がば回れの発想を提案する。理数系に弱い現在の教養レベルをがん、と引き上げることが必要だ。脱原発という、今はまだ絵に描いた餅、お利口さんのきれいごとを実現するには、代替エネルギーが必要だ。火力依存ではなく、アメリカ由来の天然ガスへの依存でもなく、まったく新しい発電方式が望まれる。より災害に強く、電源喪失をしない設計の次世代型原子炉でもいい。科学の知見がない者たちが「どの脱原発が正しいのか」と罵倒し合っている現在の運動は、目も当てられない。こんな恥ずかしいぐだぐだを抜け出すためにも、パラダイムシフトだ。子供を対象に科学教育を抜本的に作り直し、教育そのものを活性化する。欧米のみならず、今、世界中でオンライン教育が革命へと突入している。日本語の壁によって有益な情報から遮断されていると、その興奮は残念ながら伝わってこない。オンライン教育の可能性をNHK・民放こぞって毎日何時間も放送するといい。このチャンスは、それほど大きい。

フェミ

女性のエンパワーメントもそろそろ何とかした方がいい。日本の女性は制度によって苦しめられている。国際機関による評価で「女性に厳しい日本」と断じられるのには、理由がある。事実上の男尊女卑が定着しているのだ。女性たちが経済的にも社会的にも理不尽な負担から解放され、自信を持って思い切り羽ばたける日本。男女ともに子育てに参加する新たな家族の形態。同性婚も含む多様性。移民してきたやる気満々の男女との国際結婚も増えていい。余談だが、国際的な家庭に育った日本人や日本人ミックスの子どもたちは、成人するとたいがいナショナリスティックになる。世界中の自己主張が強い文化と接するうちに、日本人としての自分に強い誇りを感じるようになるからだ。

ガンジャ

最後に大麻の合法化だ。葉っぱを吸ってラリっている人間が多ければ、音楽がおもしろくなる。レゲエだけではない、ダブステップもエレクトロ・ハウスもロックもおもしろくなる。100人ぐらいの清志郎たちが出てくる。女性の清志郎たちが出てくる。観光客も葉っぱを吸いたくて世界中、特に中国・韓国からどっと押し寄せる。九州で葉っぱフェスをやったらそれはもう、ウッドストックになるだろう。葉っぱが良くないという議論は今、終わろうとしている。アメリカの解禁の流れ、ウルグアイの解禁の背景をとことん真摯に調べればそれがわかる。日本人には葉っぱが向いている。酒を飲み過ぎ、タバコを吸い過ぎだと思うし、ドラッグと言えば暴力団が流すシャブしかないのはやばい。ただでさえ日常がプレッシャー満載でピキピキしている日本人がシャブを入れて「もっと早く」なっているのは、解せない。都会人ならベジタブルなトマトジュース、そして大麻だ。医療大麻の特区を作って研究を解禁。その3年後に20歳以上の所持・使用・譲渡を合法化する。イオンモールよりもコーヒーハウスが増えた方が日本の町並みが楽しくなる。デモもおもしろくなる。あの太鼓を叩く時のグルーブ感がもうちょっとましなら、参加する若者も増えるね。

脊髄反射のような反論が聞こえてきそうだ——大麻はだめだ、怠け者が増えて治安が乱れるから。移民はだめだ。非正規雇用者の給料がますます下がって、社会がぐちゃぐちゃになるから。日本にフェミニズムはいらない。女性たちは今のままで十分、幸せになれる。英語なんか押し付けられたくないし、TPPもいやだ。原発を全部止めているのに、現に今、電力は足りているじゃないか。これに再反論する——そこまでして変われないのは、あなたがお年寄りだからですか? と。日本が世界地図の中で存在感を日に日に失っている現在、昭和をカムバックさせようとするそのパラダイムが間違っているんですよ。一回アメリカに行って葉っぱを吸ってみたら考え方が変わるかもしれません。

風営法

では、せめて。せめて都内の風営法を変えて、朝まで踊れるようにするのはどうか? 赤線の時代にテンプレートを置く風営法を撤廃し、オリンピックまでにクラブシーンを外貨獲得の観光産業までに育て上げることぐらいなら、検討してもいいのではないか? クラブに葉っぱを持ち込む若者がいたらどうするんだ、と心配するのもわかる。だがこの先、若者の何人かに一人はドトールに葉っぱを持ち込むようになるのだ。修学旅行でアメリカに行けば、何人かに一人はガンジャ・スモークを肺いっぱいに吸い込んで帰ってくるだろうから。現実を見据えて落とし所を見つけるのが、大人だ。

日本を変える、バイリンガルで実務肌、天才肌のリーダーに出てきてほしい。そういうリーダーがいなくても変われる日本社会へと覚醒してほしい。変化があってこそ、政治は面白くなる。今のところ、こういう提案に耳を傾けてくれるのは安倍政権かもしれない。元気でおもしろい日本を取り戻そう。

著者プロフィール

モーリー・ロバートソン
もーりー・ろばーとそん

ミュージシャン+ジャーナリスト

1963年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。国際ジャーナリスト、作家、ミュージシャン。政治、社会問題、芸術など多岐にわたる話題を扱う。

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