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都立高校から世界を変えるクレイジーな人材を!

  • 税所篤快 (NGO e-Education 共同代表)
  • 2014年1月27日

せっかくの都知事選なのに教育の話はなぜないんだろう。

タブレットを使用した反転授業や、映像学習など最近メディアを騒がせている。

しかし僕はタブレットや映像授業などの「デジタル教材」は日本では本質的な働きをしないと思う。

バングラデシュなどの途上国で映像授業による教育革命に挑戦しているのが僕の本職だが、途上国でなぜ映像授業が有効かというと、「先生が不足している」からだし、「学びへの渇き」があるからだ。

ということは日本の教育における映像教育などは「刺身のツマ」程度にしかならないというのが僕の意見だ。

そんなことよりやることがある。東京の公立に通う子どもたちに「本物」との出会いを届けること。

僕は東京都足立区の公立小学校から高校まで通った。2人ほどの先生を除いてはこの12年間、人間として「あ、本物だ、この人」という出会いはなかった。その代わりにあったのは教科書を丸読みする果てのない授業や、どうでもいい校則の縛り上げだった。

僕が「この人は凄い」と初めて鳥肌がたったのは高校2年生のころの学外のイベントだ。日経が主催したエデュケーションチャレンジで米倉誠一郎(一橋大学教授)という、とても魅力的で凄い破壊力を持つ人物に出会い、「既存の枠にとらわれるな。世界を変えろ。」と薫陶を得ることで自分の世界観はがらりと変わった。つまらないモノクロの世界からいきなりカラフルな自由な世界に迷い込んだかんじだ。

当時通っていた都立両国高校では「いかに千葉大学に現役で合格する人材」を育てるかということに焦点があたっていた(これは今も変わってないんじゃないかな)。

米倉教授は「いかに世界にインパクトを与える人材」を育てるかということに焦点を合わせていた。

2014年になった今年どちらの人材が世界で求められているかははっきりしている。米倉教授のような「本物の人間力をもった人」や「世界の修羅場を乗り越えてきた百戦錬磨のつわもの」をどんどん教育現場に入ってもらい、子どもたちに「マインドセット」を与えていくべきだ。杉並区和田中の元校長・藤原和博さんの「よのなか科」を実際見たことがあるが、子どもたちは現役の国会議員とのディスカッションを目を輝かせていた。

昨年の夏、東京都教育委員会主催の「次世代リーダー育成道場」というプログラムで講師として研修の一旦を担った。都立高校に通う有志の高校生たちにアメリカやニュージーランドへの留学を支援し「グローバル人材」を育成するというプログラムだ。僕の都立高校に在籍していたときを思うと「こんな先進的な取り組みが……」と隔世の感がある。

だが、これについてひとつだけ言いたいことがある。グローバルな人材が果たしてアメリカやニュージーランドで育成できるのだろうか。はっきりいってどちらの国でも、日本とレベルの変わらない生活水準で暮らしていける。せっかく税金で渡航を支援するのであれば、高校生たちが自力では行けないところへ導くべきだ。それはやっぱりバングラデシュや、インドネシア、フィリピンなどアジアの日本にはないエネルギッシュさが満載されている国々、あるいはアフリカのルワンダ、中東のイスラエル、エルサレムなど歴史的文化的にインパクトがあり、比較的治安の良好な国々がいいだろう。そこで生きる人たちとの出会いは高校生たちの将来の財産になる。僕自身がバングラデシュの農村の人々に学んだからだ。

僕ら日本人は教室で彼らが「1日1ドル以下で絶望的に生きている」と教わるが、実際の彼らは、僕たち日本人を超えるたくましさで生活を営んでいる——そういう世界の美しさや豊かさを机上の空論だけで教え、満足させてしまうことが学校現場でもっとも危険なことじゃないだろうか。

都立のみんなに本物との出会いをたくさん提供すること。かわいい子には旅をさせろの精神で世界の様々な現場に導くこと。

こういった教育政策が今回の都知事選でももっともっと話されるべきだ。教育こそ僕たちの世代が未来に残せる最も大きな投資であり、変化なのだから。

著者プロフィール

税所篤快
さいしょ・あつよし

NGO e-Education 共同代表

1989年生まれ。東京都足立区出身。19歳でバングラデシュに渡り、グラミン銀行の研究ラボ「GCC」で初の日本人コーディネーターになる。20歳で独立し、バングラデシュ初の映像授業を実施する「e-Educationプロジェクト」をスタート。現地の大学生パートナーと協力して貧困地域の高校生を国内最高峰ダッカ大学に入学させる。現在は仲間と共に、世界各地でこの方式を広めようと奮闘中。2012年にはヨルダン、ルワンダ、パレスチナ、フィリピンでの活動を開始。近著に『最高の教室を世界の果てまで届けよう』(飛鳥新社)【photo:hikita chisato】

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