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都知事選について思うこと:「斬新さ」と「陳腐さのウィング」

  • 茂木健一郎 (脳科学者、作家、ブロードキャスター)
  • 2014年1月29日

都知事選の選挙戦が進んでいる。今回は、「脱原発」が争点だとも言われているが、もう少し複雑なことが起こっている気もする。そこで、私なりの、都知事選の感触をドキュメントしたい。できるだけ事実に即して、そしてオープンかつフェアに書きたいと思う。

候補者は、どのように決まるか

まず、2012年末に行われた、前回の都知事選のことを書かなくてはなるまい。私の友人、木内孝胤氏(前衆議院議員、岩崎弥太郎の玄孫)が中心となって、「日本の選択」という政策を考える集団が立ち上がっていて、そこを母体に白洲信哉氏(白洲次郎氏、白洲正子氏、小林秀雄氏の孫)が出馬するという運びになっていたのだが、突然の衆議院解散によって、木内さんがそれどころでなくなったのと、白洲信哉氏もそれならば止めるということで立ち消えになった。この一連の過程では、木内氏により、私の名前も「都知事候補」としてリークされて、一部マスコミによって報じられた(私自身は、選挙に出る意志は、過去も、現在も、未来もないということをここに表明する)。

なぜ、このような経緯を書くのかと言えば、都知事候補というものが、さまざまな「偶有性」に基づいて決まるものだという事実をまず確認したいからである。前回の都知事選では、池上彰氏が、立候補を直談判されている場面も目撃した。もし、池上さんが受けていたら、有力候補になったろうが、池上さんはジャーナリストとしての生き方を貫かれてお出にならなかった。今回の候補者がそろうに当たっても、さまざまな事情があったことだろう。

今回の候補で言えば、細川護煕氏には公示直前にご本人にお目にかかった。大変意欲も高く、本気だと感じた。他の候補者とも面識があり、宇都宮健児氏には、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』のスタジオでお目にかかっている。舛添要一氏には、厚生労働大臣をされている時にお目にかかった。また、家入一真氏とは、たびたびお目にかかっているし、大いに好意を持っている。どなたもそれぞれ魅力があり、どなたが都知事になられても、よい仕事をされるだろう。

政治は、空気製造器である

選挙は、政治の代謝過程である。そして、政治において一番重要なことは、「空気」をつくることだと思う。特に、今の日本のように、転機を迎え、自らの魂の依って立つところを探す(soul searchingの)時代においては、自由闊達な空気を生み出すことこそが、政治の役割だと信じている。

そのために何よりも必要なことは、政権交代の可能性を常に感じられること、その緊張感の中で政治が進むことだと思う。日本の戦後の政治が、形式上は選挙を通した民主主義の要件を満たしていながらも、実質上はそうではなかったのも、自民党の政権が長く続き過ぎたからだった。英国では保守党と労働党が、政権を交互に担っている(現在は自由民主党も連立)。米国では、共和党と民主党の大統領が、ほぼ8年周期で就任している。このような政権交代を通して、政治家は、与党側、そして野党側からものを見て、政策を提案し、実行するというトレーニングを受けることができる。

自民党の政権が続き過ぎることは、自民党自身にとっても良くない。野党の立場にいて初めて醸成される政治家としての資質(批判的思考など)が劣化するからである。2012年末の衆議院選挙、そして2013年の参議院選挙の勝利を通して、自民党は「黄金の3年間」を手にした。安倍晋三首相は、その状況の中で、ベストを尽くされているとは思うが、一方で、自民党以外の政治勢力が政権を担う可能性が消えてしまうことは、自民党にとっても決してよいことではない。もちろん、日本にとっても。

細川護煕さんの当選を願う

このような視点から、私は、今回の都知事選は、国政選挙ではないにせよ、日本国内の政権交代の可能性を担保する重要な選挙であると考える。政権交代が、理念的な可能性ではなく、具体的な可能性として見えていなければ、必ず政治は腐敗する。極論を言えば、二つの政党が交互に政権を担う制度にしても良いくらいだと、私は考えている(あるいは、政権与党にはマイナス10議席のハンディキャップをつけるとか)。

従って、結論から言えば、私は今回の都知事選挙では、できれば細川護煕さんに当選していただきたいと考えている。舛添要一さんも、個人的には素晴らしい方だと思うが、今回は政権与党である自民党の支援を受けられており、以上に述べた、「政権交代可能な空気をつくる」という趣旨には沿わない。宇都宮健児さん、家入一真さんにも健闘していただきたいが、票が割れて、細川さんの当選の確率が減るのは、もったいないことだとも思う。

家入一真さんの斬新さに注目

その上で、家入一真さんの選挙のやり方の「斬新さ」には注目したい。家入さんの立候補は、今回たとえ当選しないとしても、都知事選、日本の選挙の風景を変えた重要な行動として、長く記憶されるだろう。都知事選のような、知名度がものを言う選挙は、陳腐な結果になりがちである。あるいは、「陳腐さのウィング」に幅を広げなければ、当選できないものである。

しかし、未来を開くのは陳腐さではない。家入さんが体現しているような、「居場所」に敏感な政治態度こそが、日本の、そして東京の未来であると私は考える。日本の未来が陳腐なものであってはいけない。

著者プロフィール

茂木健一郎
もぎ・けんいちろう

脳科学者、作家、ブロードキャスター

脳科学者、作家、ブロードキャスター。クオリアの解明をライフワークとする。

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