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  • 視点

「Cool Japan」の主たる担い手である東京都のトップとしての都知事にふさわしいのは誰?

  • 小倉秀夫 (弁護士、中央大学法学部兼任講師、明治大学法学部兼任講師)
  • 2014年2月3日

無党派層にとって、選挙は、消去法での選択を迫られる空しい儀式である。

この空しさに耐えきれない有権者は、しばしば棄権する道を選ぶことになる。とはいえ、候補者たちの魅力のなさをあげつらって棄権する自分を正当化してみたところで、自分を含む集団の投票者数が少なければ、政策形成過程でその集団への配慮がなされにくくなると言う意味でしっぺ返しを食らうだけのことである。だから、今回の都知事選でも、空しさを覚悟で、消去法での選択をしていかねばならぬのだ。

とりわけ、都知事選の場合、誰が当選しても、強力な官僚機構を要する都政自体は滞りなく運営されていくことが目に見えているだけに、厄介だ。だからこそ、都知事選では、候補者もまた、勢い都政以外の争点を前面に押し出したくなるのだ。しかも、今回の都知事選は、猪瀬前知事の任期途中の辞任によるものである。都政の現状の問題点を洗い出して政策を集約する余裕がなかったことも事実だ。

では、今回の都知事選はどういう基準で選択をしていくべきだろうか。

1つの考え方として私が提示するのは、「Cool Japan」の主たる担い手としての東京都のトップとして最も「マシ」なのは誰なのかという観点である。

ここでの考慮要素は、主として以下の点である。

1.性表現規制に積極的でないこと

「世界から愛されるJapan Culture」の中心はサブカルチャーであり、そこでは、ある程度過激な性表現が用いられることは不可避である。現代日本、とりわけ東京は、宗教的なタブーが弱いからこそ、「Cool」でいられるのだ。

ただし、日本でも、キリスト教会あるいは神道系の新興宗教を中心として、性表現に規制を掛けていこうという動きがあり、これに迎合する保守系の政治家も少なくない。このため、東京都を含むさまざまな自治体において、性表現規制の強化を望む保守グループと、表現規制の強化を嫌うサブカルチャーの担い手たちとの間で対立が続いてきたところである。

私は、少なくとも国が定める基準を超えて性表現を厳しく規制する必要性が東京にあるとは思わないし、そのような規制をすることにより東京が「Cool」な街でなくなっていくことが得策だとは思わない。

したがって、「道徳」を強調して表現規制を強化しようとする候補者には投票しないように気をつけたいと思う。

2.排外的でないこと

「Cool Japan」に興味を持ってくれている外国の方々は、基本的に、現代の、平和的で、おおらかで、お人好しな日本文化が好きなのである。

近時、国内のマイノリティや、周辺諸国を口汚く罵ることが好きな人たちがこの国でも目立つようになった。この種の人たちが大手を振るう社会というのは、「Cool」ではないのだ。この種の人たちが、マジョリティの、そして自国の利益を声高に叫べば叫ぶほどこの国は「Cool」とは映らなくなるし、偏見や陰謀論を押し出せば押し出すほど「Fool」に見えるのだ。

もちろん、どこの国にも「Fool」な愛国者はいる。故に、その種の人たちを社会全体が冷ややかに扱っていれば、さほど問題ではない。ただ、その種の人たちに迎合した候補者が善戦したり、あるいは当選するようなことがあれば、東京都民自体が諸外国から冷ややかに見られかねない。「Cool」だと見られるのと、冷ややかに見られるのとでは、似ているよう大違いだ。

したがって、排外思想を煽るような候補者には投票するまいと私は考える。

3.才能を開花させる費用を親に負担させない社会を目指すこと

「Cool Japan」は、天賦の才能の持ち主がその才能を開花させることにより、大きく前進する。しかし、才能を開花させるためには、時間と費用が必要だ。

この費用を主として親に負担させる社会においては、天賦の才能の持ち主のうち、富裕層の子として生まれた人しか、その才能を開花させることができないことになる。それでは「Cool Japan」の歩みは遅れ、いずれ後発の社会に追い抜かれていくこととなろう。

そうならないようにするために、「Cool Japan」を支えるさまざまな分野において、その所得階層にかかわらずその才能の有無を早期に試す場を設けるとともに、天賦の才能の持ち主を見いだしたら、その才能を開花させるのに要する費用を公的に負担していくことが望ましい。

私は、東京都にはその程度の費用を負担する能力があると思っているし、才能が開花された人材は東京で創作活動を行う蓋然性が高いので、十分に採算がとれると考えている。今後の選挙戦の中で、この点についての各候補者の発言に注目したい。

今回の都議選は久々に、有力候補に作家等の芸術家がいない(これに対し、元自衛隊員は3人もいる)。したがって、「Cool Japan」を更に推し進めていくこと、とりわけ東京こそがその中心となることについて、候補者の関心は低いのかもしれない。しかし、私は、虚勢を張った東京より、Coolな東京を望んでいるので、この点についての候補者の見解に注意して、投票先を決定したいところである。

著者プロフィール

小倉秀夫
おぐら・ひでお

弁護士、中央大学法学部兼任講師、明治大学法学部兼任講師

1968年葛飾生まれ。現在も葛飾区内在住。葛飾区立南綾瀬小学校→葛飾区立双葉中学校→東京都立両国高等学校→私立早稲田大学法学部を経て、弁護士となる。現在、中央大学では著作権法のゼミを担当し、明治大学では「法・情報・社会」という講義を担当している。

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