東京都知事選挙に筋違いの「原発ゼロ」を掲げて立候補した細川護煕氏の信条は「脱成長」だそうである。彼の第一声( http://thepage.jp/detail/20140123–00000021-wordleaf )では、こう訴えている。
日本の人口は今、1億3000万人ですが、あと50年すると9000万人になる。100年たったら4000万人になる。4000万人と言えば江戸時代の人口です。江戸時代の人口とほぼ近い。そういうことになると、これは今までのような大量生産・大量消費、そういう経済成長至上主義というもので、果たして日本という国はやっていけるのかどうか。私は難しいと思います。
これからは原発をあちこちの国に売り込んだりするような、そういう欲張りな資本主義ではなくて、もう少し、自然エネルギーとか、脱成長とか、そうした心豊かな生き方というもので満足できるような、そうした国づくりというものを進めていかなければならないのではないか。
この前半は正しい。政府の予想では、2100年に日本の人口は4771万人(中位推計)になり、世界の1.8%の小国になる。そのとき今のGDPを維持するには年率1.2%で労働生産性が上昇しなければならないが、最近の実績は0.7%なので、今のままでは日本経済は縮小する。
経済が縮小しても一人あたりGDPが維持されれば今の生活は維持できるが、何もしなければ働かない高齢者が増えるので生活水準は下がるから、労働生産性を上げる必要がある——というのが普通の議論だが、細川氏は「腹七分目」でいいという。彼のいうように原発をすべて止めて廃炉にしたら、確かに電気代が大きく上がって所得は減る。それによって何が起こるだろうか。
まず世代間格差が拡大する。実はこれから高齢化がもっとも急速に起こるのは、大都市圏である。東京圏では2035年までに65歳以上の人口は75%も増え、人口の32%を占める。これは現在の島根県より高齢化率が高く、現役世代2人で高齢者1人を養う計算だ。今の20代の一人あたりの税・社会保障の負担は65歳以上より1億円近く多いが、所得が下がると若い世代はさらに貧しくなり、この格差はさらに広がる。
次に東京都が財政危機に陥る。今の社会保障を維持すると、財政負担は25年間で2倍以上になり、税率(国税・地方税)は50%以上になる。このように大きな負担は不可能だから公共サービスの大幅な縮減は避けられないが、高齢者施設は増える。したがって若者は今より大きな負担をして今より貧しい公共サービスを受ける。
細川氏は東京がいつまでも「欲張りな資本主義」で成長すると信じているようだが、これから東京は高齢化で衰退するのだ。この人口変化に対応するには、労働市場を改革して労働生産性を高めることが重要だ。最低賃金などの規制を廃止して雇用を流動化し、女性や外国人の働ける環境をつくるなど、都のできる仕事がある。
都市のインフラについての考え方も、転換が必要だ。今後はインフラを補修・維持するコストがふくらむので、今までのように成長のために都市開発するのではなく、投資をコンパクト・シティに集中し、低コストで維持できる公共賃貸住宅などを増やすべきだ。
このように急速な高齢化のひずみは、東京に集中する。「都政なんか誰がやっても同じ」というのは、前例を踏襲する場合の話だ。老人と現役世代の格差が拡大して利害が対立する東京で、負担と受益を配分するのは都知事だが、原発を止めてそのコストを将来世代に負担させ、「腹七分目で暮らせ」と言い放つ76歳の細川氏は、明らかに老人代表だ。
可処分所得が大幅に減る将来世代が、具体的にどうしたら「心豊かな生き方」ができるのか。個人資産が25億円(首相当時の資産公開)もある細川氏は金なんかいらないだろうが、格差と貧困の深刻化する東京で、都民をさらに貧しくすると公言する人は都知事にふさわしくない。