ポリタス

  • 論点

投票するよりも重要なこと

  • 赤木智弘 (フリーライター)
  • 2014年1月27日

これまで僕は「選挙の棄権は民主主義の放棄にほかならない。最低限投票をしなければ、政治に文句をいう権利はない」と考え、すべての選挙で必ず投票をしてきた。

しかし今回ばかりは、この考え方を捨てて、投票を棄権しようかと考えている。本当に心の底から投票に行く気にならない。

今回の選挙は汚い言葉で申し訳ないが「カレー味のうんこと、うんこ味のカレー。食べるならどっち」レベルの候補者ばかりである。もちろん、注目されていない候補の中には、もう少しまともな人もいるのかもしれないが、少なくとも現時点で有力とされている4人の候補者については、このように判断するしか無い。

なんでこんなにうんざりしているのかの原因は明確だ。あのうざったい反原発だ。

震災以降、真っ当な放射能に対する知識を付けず、イデオロギー闘争のために被災地を利用し尽くしている、あの反原発だ。

「反原発は都知事選の重大な争点」だって? 馬鹿を言うな。省エネルギー徹底というならまだわかるが、原発が無く、建設計画もない東京で、どうして反原発が争点になるのだ。全く無意味だ。やはり先の参院選で山本太郎が当選して反原発が票になるということで、魑魅魍魎が集まってしまったに違いない。

前回の都知事選で僕が投票したのは、今回の都知事選にも参戦している宇都宮けんじ候補である。僕が都政に望むのは、社会保障を手厚くし、都税から弱者への再分配を真っ当に行うことであり、それを実施してくれそうな候補が彼だけだったという理由から票を投じた。

彼の支援者に反原発が多く、原発のない東京都で論点になるはずもない「原発ゼロ(即時原発廃止)」も主張の一つになっていたことは気になったが、それでも前回は反原発ばかりを声高に叫ぶ候補ではなかったはずだ。

しかし、今回は立候補を表明していきなり「反原発」とか「安倍政権の暴走を止めたい」などと、都政と全く関係のないイデオロギッシュな言葉を発し、左派の票集めに必至になっている様子を見て、宇都宮に落胆する他なかった。

それに加えて、今回突然現れた熊本の殿様こと細川護煕候補と小泉純一郎という、まさかのタッグ。小泉は少し前から反原発を訴えだし、「ああ、もう権力の側を追い出されて、反原発というマジックワードにすがるしかないんだなー」と思っていたのだが、まさか細川引き連れて都知事選に来るとは思わなかった。

でも、かつて親の敵のように憎んでいたはずの小泉純一郎を、いくら反原発といえども支持する左派はいなかろうと思ってたら、不思議なことに政策もロクに出ていないうちから反原発という言葉だけで「細川に一本化するべき!」と声高に主張するヘンな人達が現れた。そのメンツを見るに、案の定、震災以降反原発をカネに変えてきたサヨクたちだ。

彼らはかつて小泉が総理だった時に、さんざん小泉を批判してきたはずではないか。タイムマシーンがあったら、ぜひとも当時の彼らに「2014年に、お前たちは小泉を賛美するぞ!」と教えてあげたい。果たしてどんな反応を示すだろうか。

一本化を訴える側からすれば、古い仇敵とも反原発というシングルイシューで手を取り合い、仲間として一緒に活動できることは素晴らしいと感じているのだろう。反原発で一致団結して、みんなで繋がろう。Be Happy! ということなのだろう。でもそれじゃ都民は置き去りだ。

沖縄の反基地運動でも「沖縄をイデオロギーのために利用しているだけだ」という非難がされることがあるが、まさか東京でそれと同じ利用をされるとは思わなかった。繰り返すが沖縄に基地はあっても、東京に原発は無い。東京都知事が反原発を訴えたところで、イデオロギーの発露以外に何の意味もない。

唯一意味があるとすれば、現在東京都が引き受けている被災地のがれき処理に影響が出ることだろうか。僕は瓦礫の処理は、東京都として引き受けるべき当然の責任だと考えているので、反原発のような「瓦礫は放射能に汚染されている」という根拠の無い被災地差別には僕は与しない。

田母神俊雄候補に関しては、どうも「危機管理のプロ」ということを売りにしているらしい。

しかし、そもそも彼は自らの舌禍により、航空幕僚長の職を追われている。自らの危機もロクに管理できない人間が、危機管理のプロだとはとても思えない。ただでさえ安倍晋三の安易な靖国参拝などにより、世界中から不興を買っている状況で、更に東京都知事が対外的な暴言を繰り返せば、世界中から日本は見放されるだろう。それでは田母神を支持する人たちが嫌う国々が利益を得るだけだ。

もっとも、彼が当選したとして石原都政より悪いということは無いだろう。どうせ猪瀬と同じく途中で問題を起こして辞めさせられるに決まっているのだから、ある意味で、任期を全うするであろう舛添要一候補よりは、当選してもマシであると言える。

舛添要一候補に関しては、考える必然性がない。どうせ当選するだろうし、彼に期待することは何もない。

というわけで、本当に棄権したい気持ちでいっぱいだ。

でも、この選挙から得るものはある。それはこの選挙が「類友選挙」であることを考えれば、誰が誰を支持するのかによって、今後の彼らの言説を信用するかしないかが決まってくる。

少なくとも僕は、細川小泉を支持し、選挙をイデオロギー闘争の道具にして飽き足りない人たちを、今後そうそう信用しないだろう。

そして、僕はその立場にないから分からないが、一方の保守の側でも、田母神支持か舛添支持かで一悶着あるのだろう。この選挙は保守と革新、どちら側の立場にいるにせよ、今後のスタンスを分ける分水嶺となる。票を入れる以上に重要なこの点を、しっかり見極めていきたい。

著者プロフィール

赤木智弘
あかぎ・ともひろ

フリーライター

1975年栃木県生まれ。2007年にフリーターとして働きながら『論座』に「「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。」を執筆。話題を呼ぶ。以後、貧困問題を中心に、社会に蔓延する既得権益層にばかり都合のいい考え方を批判している。著書に『若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』。共著に『アラフォー男子の憂鬱』などがある。

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