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2014年東京都知事選候補者がネットを介して有権者と対峙した「 #都知事候補だけど質問ある?」

  • 西田亮介 (東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)
  • 2014年2月6日

若年者の政治参加を促す様々な取り組みを行っているNPO法人YouthCreateが、「ASK TOKYO 2014」という2014年の東京都知事選の投票を促す活動の一環として、2月4日の21時から1時間にわたって、「 #都知事候補だけど質問ある? 」という企画を行った。Twitter経由で、有権者を含む多くの人々から質問を集めて、それに都知事選候補者たちが答えるという企画だ。宇都宮健児 舛添要一、家入一真 細川護煕の4人の候補者が参加した。

この模様は、現在もTwitterのハッシュタグ「 #都知事候補だけど質問ある?」から読むことができる。宇都宮健児 舛添要一、家入一真 細川護煕の4人の回答数は、それぞれ「25、11、54、19」だ。公式アカウントの書き込みによると、細川候補は事前に回答を用意した質問に回答するというスタンスだったようだ。参加した候補者が全員ではなく、このように対応に温度差は見られたものの、多くの質問が寄せられ、回答が行われた。まずは候補者の調整や運営に当たられた主催・共催のみなさまお疲れさまでした。

そもそも政策的な主張に乏しいと言われ続けた今回の選挙だけに、こうした企画が、とくにネット発で行われたことの意味は大きいと思われる。有権者から、参加しない候補者がいることも含めて、候補者の「人となり」、政策的主張について知る機会が増えたことは、課題を残すものの、極めて重要だろう。日本のメディアは公選法や放送法、業界の自主規制等の存在によって、内容的にはさておき、分量や放送時間等において形式的には「中立公正」と「不偏不党」が求められるため、特定候補の突っ込んだ話題や主張を、有権者が低いコストで知ることができる機会は多くはない。街頭演説を聞きに行くのは、候補者の移動場所を把握したり、移動を伴うので、政治に強い関心がある人が中心だ。

しかし、2013年のネット選挙解禁によって、ネットではかなり自由度の高い選挙運動が可能になった。「ASK TOKYO 2014」という2014年の東京都知事選の投票を促す活動の一環として、2月4日の21時から1時間にわたって、「 #都知事候補だけど質問ある?」のような企画が可能になったのは、こうした変化を受けてのことだ。双方向性と拡散性というソーシャルメディアの特性を活用して、候補者と有権者を架橋し、「人となり」、それから政策観を可視化する重要な取り組みといえる。

ネット選挙解禁が日本社会に与えうる変化の本質は、投票率の向上等ではない(前者は、他国の事例でも、日本の2013年のネット選挙解禁でも実証されているとはいえない。また「理想の投票率」も規定できない。投票の義務化という議論もあるが、普通選挙の実現に至る歴史的経緯からして共感しない)。『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』と『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』では「漸進的改良主義」と呼んだが、ウェブサービスの大きな特性である、強力な透明化と双方向性を政治、政策過程に導入していくことにこそある。

早くも告示日や選挙運動期間中の、ニコニコ生放送での演説会が定着し、それに続くネットの特性を活かした取り組みは多くはない(ひっそり付け加えておくと、筆者と毎日新聞社の都知事選の共同研究などもある)。候補者からのネットを使った発信や周知の手法は進化したが、有権者の立場や視点から候補者の取り組みを可視化する取り組みは多くはなかったのである。このような意味で、「ASK TOKYO 2014」という2014年の東京都知事選の投票を促す活動の一環として、2月4日の21時から1時間にわたって、「 #都知事候補だけど質問ある?」は重要な取り組みといえる。

いくつかの課題も残されている。特に気になったのは、回答する質問を、候補者側が選んでいることだ。この形式の問題は、候補者が共通して避けたい話題が回避されたままになることだ。目視で見る限りでは、「人となり」に関する話題の回答が多く、「政策」主題の課題は各候補それぞれの得意分野に集中していたように見える(あくまで目視なので、各自「ASK TOKYO 2014」という2014年の東京都知事選の投票を促す活動の一環として、2月4日の21時から1時間にわたって、「 #都知事候補だけど質問ある?」を見てほしい)。筆者も、あえて都議会との関係のマネジメント方法など各候補が共通して答えにくそうな質問を3回ほど、ハッシュタグを経由して質問してみたが、いずれも回答は得られなかった。もちろん質問が多かったからということも関係しているのかもしれない。

こうした課題を回避するためにも、田原総一朗さんや選挙報道における池上彰さんのような強力に切り込むタイプの司会者を導入してみてはどうだろう。「人となり」は、うまく答えることで、与える印象を改善できるので、候補者にとっては答えやすい。多くの人が気にするのもそちらだろう。政策的な主題は、政策的な知識や、力量が顕著に可視化され、失言にも繋がりやすいから、候補者にとってはあまり答えたくない類の種類の質問と考えられる。炎上の可能性があるネットなら尚更だ。これらの主題からも、候補者が逃げないように、答えたくない質問にも回答を強く促す、単なる進行役ではない司会者が重要な役割を持つように思えた。

とはいえ、前述したように、そもそも重要な機会だし、何事もいきなりベストな取り組みができるとは限らないから、ぜひ、今後の企画では検討してほしい。「人となり」も重要だが、「政策」についての考えも引き出すべきだ。このような、ネットの特性を活かして、有権者の立場で可視化していく取り組みがさらに増え、日本の選挙や政治、政策過程の透明性の改善に寄与することに期待したい。

著者プロフィール

西田亮介
にしだ・りょうすけ

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授

専門は情報社会論と公共政策。社会起業家の企業家精神醸成過程や政策としての「新しい公共」、情報と政治、地域産業振興、日本のサーフカルチャーの変遷等を研究。 1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。同助教(有期・研究奨励II)、(独)中小機構リサーチャー等を経て現職。著書に『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)、『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』(NHK出版)ほか。

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