都知事選さまざまな論点、パースペクティブがあり、日々議論が尽くされている。それらをだいたい追いながら、私自身がここ2カ月考え続けて最重要だと信じるに至った視点を、その過程とともに辿りたい。
これは前回の都知事選から支持者を変えてまで論陣を張るようになった多くのリベラル派の諸氏と共鳴するところだと思う。
結論から言おう。その視点とは「戦時のごとき圧倒的な危機感」である。
論理の組み立てはこうだ。端的に述べたい。
1 【戦争回避】
一昨年末の衆参両院選挙、昨夏の参院選挙と連チャンで勝利をおさめ、盤石の体制で右傾化、戦争に向かって加速している安倍政権。これを是とするか否か。私は、何がなんでも阻止しなければならない巨大な危機と考える。
2 【生命】脱原発は最重要
様々な政策があろうが、浜岡や柏崎で原発事故があれば首都圏全避難で全てが吹き飛ぶ。まずは都民の命を守ることが都知事の第一の使命。他の政策とは、切迫度が全く異なる。
3 【倫理】都民は福島原発事故の当事者である
事故のリスクを長年地方に背負わせ文明の便益を貪ってきた東京は、福島原発事故に対して倫理的責任がある。「原発が争点にならない」と言うのは、過去は送電を受け世話になったかもしれないけど、今は送電されていないのだから関係ない、と言うのと同じ。傲慢な忘却である。脱原発・原発再稼働は、まさしく東京の問題なのである。いま「原発を争点化しないこと」=「福島を切り捨てること」だと自覚しなければいけない。この倫理的問題は決して無視できない。
4 【原発即ゼロ】
2、3から原発即時ゼロが、倫理的、経済的、政治的、安全保障的、すべての意味において譲れない優先度No.1の政策となる。原発推進や、再稼働は慎重判断(=時期を見て動かしたい! という魂胆)という候補は、よって除外となる。
5 【他の政策比較】ダントツで政策が素晴らしいのは宇都宮氏
前回私も支持・応援した。ヤミ金と闘ってきた経歴、日弁連会長としての実績・指導力、そして弱いものの味方という信条は敬服する。知れば知るほど惚れてしまう人物だ。共産党色が強く出ていることによる偏見、また選対での内輪もめが明るみに出るなど、いろいろ足を引っ張る要素もあるがしかし、その政策の強靭さ・具体性は比肩する候補がおらず、他の周縁的要素はとるに足らないとするべき。これは指導者を選ぶ選挙なのだから。
6 【歴史から学ぶ危機意識】しかし、1の状況は逼迫している
立て続けに選挙に勝利し、形式的とはいえ信任を受けた現政権は、特定秘密保護法施行、憲法改正(改悪)、国防軍、徴兵制、そして中韓との武力衝突へと着実にボルテージを上げている。そして、我々国民はそれを何もできず、傍観するしか今のところ出来ていない。特定秘密保護法の強行採決を思い出してほしい。戦前の大逆事件〜治安維持法への流れ、ナチスの全権委任法から戦争への雪崩れ込みという負の歴史を顧みれば、それに現政権が酷似し、我々の手で歯止めを掛けることがどれだけ難しくなっているのか、痛感できよう。この圧倒的な無力感、危機感を共有したとき、今の都知事選が暴走機関車を止める滅多にない機会だということが明らかになる。ここでストップできねば、どこでどうやってストップできるというのだ。現状況と歴史を比較し、広く深く観察すればするほど、都知事選を都政の問題だけに終わらせることは出来ないという危機意識が生まれる。
7 【成長戦略のパラダイムシフト】
細川=小泉陣営が仕掛けた闘いは、都政を通して国政を動かそうというもの。まさに上記6の「圧倒的な危機感」に裏打ちされた細川=小泉両氏が、脱原発を機に日本をひっくり返そうという闘いに挑んだ。それは、デフレ脱却といいながらもバブル後の低迷から根本的には抜け出せずにいる日本の成長戦略の根本転換—つまり、資源とエネルギーの大量生産・大量消費型社会から再生エネルギーによる分散低消費型社会へのパラダイムシフトに挑戦してようというものである。
8 【都知事に哲学は必要か?】
細川氏の思想・信条——道元禅師からプラトンまで哲学を網羅した政治思想には感服する。ヨーロッパでは見られるが、日本でこんな政治家はいたのかと驚嘆させられる。今回の選挙で、今すぐ都政で役立つかと言われれば答えに窮すが、問題の深刻さを重々に理解したその射程の深さは、トップにふさわしいと思える。
9 【誰が都知事になろうが変わらない分野】
しかし、細川=小泉氏の広げた風呂敷は大きすぎるだけで実質が伴わないのではないか、という批判もあるだろう。政策綱領も宇都宮氏に比べると薄く、まだまだ具体性に欠ける。しかし、
- オリンピックを倹約・環境重視型、東北との連携を図ってゆく
- 教育現場の充実、待機児童削減
- 防災都市設計
- 中小企業保護
- 再生可能エネルギーによる経済成長
- 子育て、女性の社会進出サポート
- 高齢者・障害者にやさしい都市づくり
など基本的な指針はこの両候補者はほぼ似通っている。宇都宮氏の方がアイデアの具体性あるが、そこの違いは重要だろうか。宇都宮氏が都知事になれば、リーダーシップを発揮し、いかにも迅速に動くだろう。一方細川陣営はブレーン・側近陣が優秀だし、出だしは不慣れでも時期に追いつくに違いないと思う。これは意見が分かれるところだろう。
都民が最も関心があるといわれる少子高齢化と福祉、景気と雇用に関してだが、都政の予算はだいたいデフォルトとして決まっている。大雑把だが、どの候補者が都知事になったところで、根本的に変わらないのではないか。それを確認した上で争点は何とすべきかを考え直すことが、いま求められているのだ。
10 【4つの首長選挙】
沖縄・名護市長選挙では辺野古基地移転が争点となり、反体制派の稲嶺氏が勝利した。都知事選のあとは、山口県知事選挙、京都府知事選挙が控えており、それぞれ地元の独自問題:上関原発建設、大飯再々稼働が必ず争点化するだろう。この4つの選挙を俯瞰した場合、大衆が気づかぬうちにこっそり戦争へ向かいゆく安倍政権と、戦争の記憶と平和憲法を根っこに強く持ち、「国體」の犠牲を二度と生み出してはならないという市民運動との対立構図が浮かびあがる。それはまさに6の問題。暴走機関車を止めるか否かの問題である。
立て続けに市民派が勝利すれば、参加意識が雪だるま式に大きくなり、限りなく直接民主主義に近い状況が生まれるかもしれない。立て続けに自公支持(推薦)が勝利を収めれば、人々の選挙離れがさらに進み、暗黒時代がまさに到来するだろう。いや、特定秘密保護法成立をもって暗黒時代が既に始まっているという人もいる。そんな時代状況をつぶさに観察してゆくと、今回の都知事選の争点が明らかになってくる。
11 【真の争点とは】
都知事選挙の真の争点とは何か。それは、都政を通して、今の国がひっそりとかつ全力で向かっている戦争と原発再稼働に対して、強烈なNOを突きつけることである。ご存じの通り、安倍号機関車はちょっとやそっとでは止まらないほど盤石だ。だから、小粒の石ではなく、巨大な岩を投げ込まないと止まりっこない。だからこそ一時、多くの知識人が宇都宮=細川陣営の一本化を望んでいたのだ。乱暴な言い方をすれば、巨大な岩を投げ込んで機関車をまず止めて、混乱している隙に、皆の力で機関車を解体して新たな市民エネルギーの動力車を最後尾にくっつけ、逆方向へと発進させる。そのために投げ込む岩はできるだけ大きくないといけない。
列車が逆方向に走り出しさえすれば、あとは安定した走りを実現できる腕利きの運転士が必要となるだろう。猛スピードの暴走機関車に狙いを定め巨大な岩を投げつける人間と、着実に安定した走りを実行する人間。言い換えれば、緊急時・戦時のリーダーと、平時・安定期の指導者を見分ける眼力が都民に求められているのだ。前者が細川=小泉陣営、後者が宇都宮陣営だと私には思える。
12 【内ゲバから遠く離れて】
先日、金曜の国会前デモに訪れた細川氏、宇都宮氏それぞれにヤジが飛び交った。認めたくないが、脱原発派の亀裂が現れていた。また、小泉氏の首相時代のイラク派兵支持、規制緩和をあげつらい批判する人間も多くいる。現に私も決して評価していない。しかし、視野狭窄の批判合戦は体制派を利する自殺行為であることを私たちはもう一度確認するべきだ。ケンカしている場合じゃない。
脱原発も反戦も、この都知事選の後もつづく長く苦しい闘いである。大げさでなく、この国の平和と生命が脅かされている今、内ゲバを大きく包み込んで一緒の方向に向かって歩んでいこうと励ましあう市民の声が一番求められている。三宅洋平氏が宇都宮陣営にも、細川陣営にも頻繁に通っていると聞く。その意図は痛いほどよくわかる。
13 【圧倒的な危機感】
お任せ民主主義、消費型選挙と揶揄され、首相が6年で6回、都知事が3年で3回替わっている日本。
6割以上の国民が原発再稼働に反対(1/25、26共同通信社調べ http://www.47news.jp/CN/201401/CN2014012601001539.html)であるのに、いざ選挙になると自民党が圧勝する日本。
どこか「お客様」然として政治は与えられるもの的な距離は一向に変わらず、投票率は低く、政治家を褒め上げては飽きたらコキ下ろすという悪循環から抜け出せない日本。
民主主義が民意を反映する本来の機能を失い、間接民主主義ですらない。無関心が生んだ民主主義の壊死状態といっても良いだろう。
そんななか、自民政権が公約にない特定秘密保護法、憲法改正、徴兵制へとまっしぐらに向かっていると知り、これは「ヤバイ!!!!!」と感じる人々が増えてきている。
瀬戸内寂聴、吉永小百合、澤地久枝、なかにし礼、菅原文太、湯川れい子(敬称略)が細川氏支持を打ち出した。木内みどり、三宅洋平、田中優、ジャン・ユンカーマン、稲葉剛(敬称略)が宇都宮氏支持を表明している。脱原発を明言することでの仕事への影響も考えられる中、みなさん相当の覚悟であると思う。共通するのは、壊死状態の民主主義の下、暴走を加速させる安倍政権への「圧倒的な危機感」なのだ。
14 【小泉劇場に乗っかる愚?】
2005年郵政民営化において小泉劇場を批判し、いま新たに小泉劇場2014に乗っかることに嫌悪を示す人も少なくない。政策重視で候補者を語るべきであり、政局の流れに左右されるべきでないという人も多い。
しかし、私は敢えて言いたい。その方々はこの国がもう「戦時」になりつつある危機感が不足しているのではないか。ファシズムの政権が走り出したら、まったく手の届かないところで、知らぬうちに戦火が切られてしまうという凄まじい恐怖のことだ。
権力のウソを暴くためにその一生を捧げてきた反骨の写真家・福島菊次郎氏が、今はなんと小泉氏を支持するという衝撃の報を一昨日聞いた。小泉劇場をあれだけ痛烈に批判し、攻撃してきた福島氏が翻意するには相当の熟慮があっただろう。彼はそれだけ今の日本の状況に危機意識を持っているのだ。
15 【肉を切らせて骨を断つ闘い】
煽動的な小泉劇場にあえて乗っかるのは批判も覚悟のことで、肉を切らせて骨を断つ決意が迫られる。もし選挙に敗北すれば、「小泉に騙された」とは決して口にしてはならない。我々はいま主体的な意思で、小泉劇場に乗っかるのだ。だからその責任はもちろん我々にある。
その裏には、暴走機関車にできるだけ大きな岩をいま投げつけなければ、取り返しのつかない悲劇が始まるという逼迫した危機感がある。政策原理主義だけでは勝てない(ほぼ)戦時の局面に我々は立っているのだ。選挙で大きな民意を直接ぶつければ、暴走機関車は脱線するかもしれない。混乱の隙に全力で用意しておいた政策を整え、逆方向に旋回できるよう勢力を束ねてゆくのだ。
劇場は最大限盛り上がるよう(=投票率を上げ、若者や多くの無関心層に興味を持ってもらうよう)ラッパを吹き鳴らしつつ、裏では全力で持続可能な政策を議論し、選挙後の市民活動のため分裂を避ける布石を打ってゆくこと。選挙後の本当の闘いに向け手に手を携え、連帯意識を共有してゆくこと。脱原発派は、大きな目標の為に小異を乗り越えて共に歩んでゆく共同体意識を、選挙期間のいまこそ作り上げてゆかねばならない。
それが、壊死状態から民主主義を蘇生させるための、ギリギリの覚悟だと思う。
肉を切らせて骨を断つ闘いがいよいよ始まった。