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細川小泉陣営が狙う「脱原発国民運動」

  • 田原総一朗 (ジャーナリスト)
  • 2014年2月2日

こんなに盛り上がらない都知事選は珍しい。なぜ盛り上がらないのか? 一つの原因は細川護熙元首相にある。細川氏が丁々発止の議論から逃げているからだ。

顕著な例は公示直前に記者クラブが予定していた共同記者会見だ。この会見を「時間の都合がつかない」という理由で細川陣営が断ってきた。それ以降も当然地上波やBS各局は主要候補者による共同討論会を企画しているが、全部細川陣営が断っているという。だから一体細川氏が何を伝えたいのか、何を問題と考えているのかがわからない。

共同討論会があれば、お互いの主要候補者が突っ込みあい、討論していくなかで問題点が浮かび上がってくる。その候補者が東京都政で何をやろうとしているのか、あるいは候補者同士の政策的にぶつかるポイントや、お互いの候補の主張の優劣がわかることで、否応なく都知事選は盛り上がる。ところがまったくそれが行われていない。それはもっぱら細川陣営が共同討論会を嫌がっているからだ。ほかの候補が全員やろうと言っていても、細川氏抜きでは共同討論会はできない。

ところが、今週土曜日にニコニコ動画で候補者同士の討論会が開催されることになった( http://live.nicovideo.jp/watch/lv167270721 )。ただ、これは恐らく候補者同士での突っ込みあいがない意見表明的な番組になるのだろう。

共同討論会を避ける細川陣営の戦略は彼らにとってマイナスであり、自信がないようにも見える。だが、本当のところ細川氏は「都知事になろう」などとは思っていないのだ。

どういうことか。細川氏も小泉元首相も、この都知事選こそ脱原発を世に訴えるこのうえない良いチャンスだと思っている。もし都知事選がなければ、小泉氏と細川氏がツーショットで新宿や銀座に行ったところでそこまで観客は集まってこない。ところが都知事選となれば、黒山の人だかりができる。つまり、二人は都知事選が脱原発を世に訴え、アピールするための最高の舞台であると考えているのだ。そのために街頭演説だけでなく、ニコニコ動画やYouTubeなどのネット媒体も含めて戦略を練っているはずだ。

いみじくも小泉氏は「今度の都知事選を国民運動を展開するきっかけにしたい」と発言している。あの二人にとって都知事選は脱原発を国民運動に昇華させるための戦いなのだ。こう捉えれば、細川氏が共同討論会から及び腰な理由も見えてくる。いま細川氏が共同討論会で突っ込まれてみっともない姿を見せたら、せっかくの国民運動が盛り上がらなくなってしまうからだ。宇都宮氏、舛添氏、あるいは田母神氏ですら、この国民運動を展開するための刺身のツマにされているのではないか。

とはいえ、都知事選は都知事を決める選挙であるわけだから、投票日を迎えれば誰かが当選する。一体誰が勝つのか。今の世論調査では舛添氏が当選する確率が高いとされている。舛添氏はバランス感覚があるし、言ってることも鋭い。国際情勢についても良く知ってるし、都知事になっても問題ない人物だと思うが、猪瀬前知事と比べると足りない部分がある。それは何か——柔道で言う「寝技」だ。

舛添氏は東大法学部を出て「立ち技」一本で勝負をしてきた人間だ。「寝技」をやる必要がなかった。立ち技というのは政治家としての表の能力——政策立案能力や知識、議論できる力を指す。逆に寝技というのは要するに裏交渉のこと。表ではケンカしているのに裏で手を握ったり、逆に仲良く話し合いながらテーブルの下で足を蹴り飛ばすとかそういうスキルだ。寝技は田中角栄のように、どちらかといえばエリートじゃない人が使う。エリートなのに寝技が使える例外的な政治家が中曽根康弘だった。

立ち技だけの人は弱さがある。宮澤喜一しかり、加藤紘一しかり、谷垣禎一しかり——。猪瀬直樹はエリートじゃないから寝技ができた。かつ立ち技もできた。ただ、エリートじゃないがゆえに威張りん坊だった。それによって足を掬われた。

舛添氏は東大法学部を出てるエリートだから猪瀬氏に比べると威張りん坊ではない。テレビのなかでは相当はっきり物を言うし、時には上から目線の発言をするが、オンエアが終わればとても優しい。だからスタッフの評判もいい。だが、舛添氏は猪瀬氏のような寝技ができない。複雑な都政においてこの欠陥をどう補っていくか——これが舛添氏の課題だと思う。

著者プロフィール

田原総一朗
たはら・そういちろう

ジャーナリスト

1934年、滋賀県生まれ。1960年、岩波映画製作所入社、1964年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。1977年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。 現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。また、『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』講談社)、『誰もが書かなかった日本の戦争』(ポプラ社)、『田原総一朗責任 編集 「殺しあう」世界の読み方』(アスコム)、『おじいちゃんが孫に語る戦争』(講談社)など、多数の著書がある。

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