ポリタス

  • 視点

国政をにらんだ選択を 〜“野党な存在”を日本に残すかどうかの関ヶ原〜

  • 水島宏明 (ジャーナリスト/法政大学教授)
  • 2014年2月4日

それが都知事を選ぶ本来の姿ではない、と原則論で言われるとそうかもしれないが、国政をにらんだ「ねじれ」や「野党性」をこの国に組み込むことは急務だと考える。

都知事選においても、そのことを最優先して候補を選びたい。

安倍政権の発足以来、この国が「モノを言いにくくて同調圧力が強まる社会」へと急速に変貌しつつあるのを肌で感じている。

私たちが守るべきは「民主主義」だ。何より、いろいろな問題について丁寧に議論がなされ、「少数者」の存在にも考慮して丁寧な議論で物事を決めていく社会である、という基本的な価値を守るべきだと思う。

国政は衆議院と参議院の「ねじれ」が解消し、安倍自民党に「待った」をかけられる政治勢力は存在しなくなった。日本の民主主義の危機である。雑誌やテレビ、それに新聞の報道、まで、「家庭内野党」こと「アッキ—」の存在をもてはやすのも、裏を返せば、昭恵夫人以外に「モノを申して政策に影響を与えうる野党」がこの国は存在しないからである。

連立与党の公明党も口先だけの印象で、安倍自民党がいざ暴走した時に「待った」をかけられそうな存在がどこにも見当たらないという危険な状況だ。

特定秘密保護法の可決プロセスを見ても、「結論先にありき」で「形ばかりのアリバイ」でしかなかった“パブリックコメントの募集”や“地方公聴会の開催”。そこでどんなに反対意見が多くても、1日、2日で採決されてしまう日程では何の影響も与えなかった。

そんな権力の横暴はこれまで見たことがない。健全な民主主義のためには、何らかの「ねじれ」や「強い野党」が必要だ。

現在、政権の暴走を制止できる「ねじれ」も「強い野党」も国政には存在しない。このままでは安倍的な強権主義で憲法改正まで一気に進んでしまう。

民主主義を守るにはパワーバランスとして「強い野党」が必要だ。残念なことに与党が圧倒的に多数を占める衆議院・参議院の勢力図を変えるには次の総選挙まで待たねばならない。

だが、その間にも、特定秘密保護法が実施され、日本版NSC(アメリカ国家安全保障会議)が権限を握り、集団的自衛権や歴史に関する教育改革が進められていく。安倍政権の猪突猛進ぶりは特定秘密保護法の成立プロセスをみても明らかだろう。その気になって猛スピードで突き進む。

私はそんな世の中は息苦しくて嫌だ。

こうした国家や国民の緊急事態にあっては、東京都を「野党的な存在」にするというのが国家権力の暴走にブレーキをかけるための唯一残された選択肢だ。

だから、「反安倍」の東京都知事の誕生に全力を尽くすべきだと考える。

もし国政と東京都との「ねじれ」が生じたら、いろいろな面で国政に「待った」をかけることができるだろう。国と都の間で議論が行われ、それぞれのトップの考え方の違いを肌で感じながら、私たちは「民主主義」を実感できるだろう。

だが、もしも国政と東京都が同じ方向を向くようになったら?

都政も事実上、国と同じ自民一色になってしまったら?

その時に起きるのは、安倍氏による総与党体制に誰もブレーキをかけられない体制だ。

だから、たとえ「脱原発」の一点だけしか一致点がないとしても、「ねじれ」や「野党性」を作り上げる必要がある。

安倍自民党の「原発再稼働へまっしぐら路線」にくさびを打ち込む必要がある。

脱原発を唱える都知事が誕生したら、その存在は事実上“野党的勢力”になりうる。

この都知事選は次の総選挙までの間に“野党的な存在”を政治の世界に持ち込むことができる、ほぼ唯一無二の機会だと言ってよい。

となると、宇都宮か細川かという選択肢になる。

個人的には宇都宮候補がいろいろな意味で信頼に足る人物だと思う。他方、無党派層へのアピール力や知事になった場合の都議会運営なども未知数で限界がみえる。現在の選挙制度では、メディアや都民の多くがこの候補に入れて政治を変えたいと感じる「大きな風」を起こせる候補でないと当選は難しい。

細川候補は、「脱原発」を唱えつつも他の候補との討論を避けている印象があったり、政権と同じく「雇用の規制緩和」に前向きだったり、どういう政策を行いたいのか不安な要素もある。だが、少なくとも脱原発に関しては本気に見えるし、首相に就任した時の過去の歴史を反省した演説などは今も記憶に甦るほど鮮烈な印象を残している。石原都政下で都教育委員会が進めた復古的な教育行政にも抵抗があるはずだ。細川は今でも無党派層に訴えるカリスマだ。ただ、映像では老けた印象が強く、若い世代には「過去の人」「知らない老人」でもある。

選挙戦後半になりつつあるが、新聞各紙の世論調査では安倍首相が推す舛添候補がリードする展開になっている。

残念ながら、宇都宮や細川には舛添を打ち負かすほどの「強い風」は吹いていない。

このままでは舛添候補の圧勝で都知事選は終わるだろう。多くの都民は「原発再稼働」を強く支持するわけでなくても、過去の厚労相としての「行政手腕」や「安定感」「発信力」、「国政との共同歩調」に票を投じるだろう。

ただ、ひとつだけ「強い風」を吹かせる方法がある。

脱原発で宇都宮と細川が「共同戦線」を組んだとしたら、ようやく舛添に対抗できる。

都知事選の最終盤でどちらかの候補が立候補を取り下げ(法的には候補者のままではあるが)、一本化すればそれは大きなニュースになる。サプライズで強い風が吹く。

都知事選は瞬く間に「お祭り」となり、若者を中心にした勝手連的な応援が草の根に広がるだろう。

もちろん実現するのは針の穴を通すよりも困難だろう。

だが、小異を捨てて大同にという覚悟を政治の側で見せない限り、いくらきれいごとを言ってもその「覚悟」は有権者には響かない。

安倍自民の圧倒的な支配が続いて憲法改正まで進んでしまう。それで良いのか。

宇都宮も細川も、それで良しと考えるなら、そのまま突き進めばいい。

憲法改正を許すのは都知事選にかかわっているあなた方だ。

世間をあっと驚かせる共同戦線が誕生しない限り、都知事選には勝てない。

私が推すのは、夢の「脱原発統一候補」だ。

著者プロフィール

水島宏明
みずしま・ひろあき

ジャーナリスト/法政大学教授

1957年札幌市生まれ。札幌テレビ記者、ロンドン特派員、ベルリン支局長、日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター兼解説委員を経て2012年4月から現職。2008年、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。主な作品に「母さんが死んだ 〜生活保護の周辺〜」、 「天使の矛盾 〜さまよえる准看護婦〜」「ネットカフェ難民 〜急増する見えないホームレスの背景〜」。主な著書に『母さんが死んだ』(ひとなる書房)、『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』(日テレノンフィクション)。

広告