ポリタス

  • 視点

東京都知事選挙は誰のためのものか

  • 落合洋司 (弁護士・東海大学法科大学院特任教授)
  • 2014年2月5日

1. 一都民としての素朴な疑問

突如、発覚した猪瀬前都知事の金銭スキャンダル、その後のドタバタ、辞任に伴う思いがけない選挙。報道先行で、この人が出る、出ないと騒がしかったものの、やっと候補者が出揃い、何とか選挙戦らしくはなってきた。しかし、一都民として、素朴な疑問を抱かざるを得ない。この選挙は誰のためのもので、どこを向いて戦われているのか、選挙の先にあるものは何かと。確かに、東京は日本国内でも群を抜く巨大都市であり、その規模は世界の中小国を凌駕するものがある。しかし、所詮、1つの地方自治体であり、それ以上のものではない。

2. 身近に存在する様々な問題

今さら言うまでもなく明らかなことであるが、人があまりにも多すぎ、良好ではない住環境にある人が多く、多くの人々が日々の生活の中で疲弊し、一旦、災害が起きれば大きな被害が見込まれている、それが東京のリアルな姿である。東日本大震災の際、東京で大きな人身被害は生じなかったが、交通は大きく乱れ大量の帰宅困難者が出て、都内のスーパー、コンビニからは商品が姿を消し、都市生活は大混乱に陥ったのが記憶に新しい。かなりの確率で数十年以内に発生するのではないかと言われている東京直下あるいは関東付近を震源とする大地震が起きれば、この豆腐の上に積み木を積み上げたようなぜい弱な巨大都市は一気に大きく崩壊する可能性が高い。林立する高層建築物は東京オリンピックへ向けますます乱立する可能性が高く、それは環境をますます悪化させ、災害リスクをさらに大きくするだろう。東京オリンピックには賛否両論あったものの、開催すると決まった以上、開催へ向けて着々と準備を進めるしかない。どうせやるなら都民にとってもプラスになるような街作りにしてほしい。

こういった身近に存在する様々な問題こそ、ごく普通の都民としては大きな関心があるし、優先順位を適切に付けた上で積極的に取り組んでもらいたい、という都民は、おそらくかなり多いのではないかと思う。

3. 各候補者について見えるもの、見えないもの、届かない都民の声

大きく見えてくるものは、原発反対、賛成といった国の在り方に関わるようなものばかりで、都民として切実に関心を持つような、東京都固有の話題は、スローガン的には語られるものの、具体性や切実性を伴って論じられてはいないのではないか、という印象を持たざるを得ない。そもそも、都民が都政の上でこういった政策を実現してほしい、こういった点を改革してほしい、といったことを都議会なり都庁なりにアピールすること自体がかなり困難である。この辺は巨大都市であるが故の宿命、困難さであるのだろう。

4. かくして投票へ、そして……

あと数日で投票が行われ、そこで何らかの民意は明らかになって、新たな東京都知事が誕生する。私は新都知事に、まずは、東京都が直面し抱える問題に向き合ってほしいし、できるだけ都民の希望、意見を幅広く聴き、都政に反映させることを目指してほしい。原発存廃、景気対策、そういった日本全体に関わるような問題に、東京都が積極的に関わり日本をけん引しあるいは適切なブレーキをかける、そういう役割を果たすことを、私は否定しないし、できることはしっかりやってほしいと思っている。しかし、東京都知事は、まずは東京都民の負託にこたえるべき立場にあることを自覚し堅実に都政に取り組んでほしい、それが期待できそうな人に1票を投じたいと考えるのだが、なかなかこの人ならと思える候補者がいない。こういう人も、おそらく多いと思う。

著者プロフィール

落合洋司
おちあい・ようじ

弁護士・東海大学法科大学院特任教授

弁護士・東海大学法科大学院特任教授。平成元年(1989年)、検事任官、東京地検公安部等に勤務し平成12年(2000年)退官、弁護士登録。IT企業勤務を経て現在に至る。

広告