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  • 視点

投票用紙なんて、ただの紙くずだ

  • 小田明志 (LIKTEN MAGAZINE編集長)
  • 2014年2月5日

「爺さんたちばかり」「まともな人がいない」「投票に行く気にならない」

今回の都知事選ほど、有権者が候補者に辛辣な選挙が過去にあったのだろうか。もし自分が候補者なら、0.01秒で心が折れるような言葉のオンパレードだ。

しかし、冷静に考えてみてほしい。

前知事が辞任してから、わずか1カ月の間に立候補できる人材が、「爺さん」以外にいるだろうか?

さらに、都議会は選挙公示前に今年度予算案をほぼまとめており、新知事は4年の任期中の1年間を、他人の決めた予算配分で戦わなければならない。ただでさえ権限が小さいと言われる都知事が、予算配分さえも決められない。

腰を据えて都政に関わりたいという「まともな」人材が、あえてこの条件下で立候補するだろうか?

つまり今回の選挙は、暇な変人しか立候補しないことははじめから予想できたこと。それを批判するのはナンセンスで、抜本的な改革を期待するなどもってのほかだ(「投票に行く気にならない」のは「勃たなくなった」のと同じで、本人の問題である)。

これを逆に考えれば、少し条件が欠けただけで人材が集まらなくなるほどに、東京都知事というポストに魅力がない、とも言える。もし都知事が魅力的ポジションなのであれば、タイミングや予算など大した問題ではないと考える候補者がいてもおかしくない。

しかし実際の現場には、魅力的とは言いがたい理不尽な光景が広がっている。立候補したその瞬間から政策とは関係のない「年齢」や「自分勝手なイメージ」、挙げ句のはてには「選挙に行く気にならない」などと、本人とは無関係な問題まで押し付けられる。

もちろん、有権者の監視は政治に不可欠だし、政策提言には批判がつきものだ。しかしそれは、最低限の誠意を前提としたもので、候補者への人格攻撃を良しとするものではない。私には、有権者の不誠意が、候補者のレベル、ひいては政治のレベルにも影響を与えているように思えてならない。

すべての候補者に誠意を。

今回の選挙の結果によって、東京が大きく変わるなんてことはないだろうし、投票用紙なんて選挙が終わればただの紙くずだ。

しかし票が消えても、あなたの誠意が消えることはない。そしてその誠意の積み重ねこそが、優秀な人材を政治の世界へと集めるのだ。

著者プロフィール

小田明志
おだ・あかし

LIKTEN MAGAZINE編集長

91年東京生まれ。09年にカルチャーマガジン「LIKTEN」を創刊。翌年発行した第二号はamazon雑誌ベストセラーランキングで2位を獲得し、最新号である第三号では、モデルの水原希子らと共に作品を発表。12年には、Pharrell Williamsによるドキュメンタリー映画「東京ライジング」に出演した。今年は「LIKTEN」最新刊の発売に加え、サッカーをテーマにした新雑誌の創刊が控えている。

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