2度目のネット選挙
「インターネットを活用した選挙活動の解禁」が多くの国民の拍手をもって実現したのが昨年の参院選。今回の都知事選挙は2度目の大規模なネット選挙です。昨年の参院選ではこのネット選挙解禁を受け、ツイッターやフェイスブックを活用する候補者が数多く出ました。しかし、ほとんどの候補者は単にアカウントを開設しただけで、ネットを有効に活用した事例はあまり見られなかったのではないでしょうか。そして、これら「にわかネット化候補者」たちは選挙の終了とともにネットから離れてしまい、現在は開店休業状態となっています。
この都知事選では原発再稼働や東京五輪など、いくつかの争点が話題となっていますが、これら個別政策の解説・主張については他の方にお譲りさせていただき、私は「ネット選挙解禁によって選挙がどう変わるか。新しい選挙への関わり方とは」といったことについて書こうと思います。
のべ600万人から5億ドルを集めたオバマ大統領
ワシントン・ポスト( http://voices.washingtonpost.com/44/2008/11/20/obama_raised_half_a_billion_on.html )によると、2008年にオバマ氏が大統領に選ばれるまでの21カ月間で集めた寄付は、インターネット経由のものだけで5億ドルにのぼったといいます。しかも大口の寄付者がドーンとくれたのではなく、100ドル以下のいわゆる「小口寄付」が、のべ600万人から寄せられたのだそうです。言うまでもなく選挙はお金ではなく、票を集めたものが勝つというルールのもとで行われますが、これだけたくさんの方々の心を動かし、応援と寄付を集めたオバマ氏は見事当選を果たしました。
このようにネットを活用して、個人から少しずつの小口資金を集める手法は「クラウドファンディング」と呼ばれますが、あれから6年が経過し、ついに今回、都知事候補のひとりである家入一真氏が、実質的に国内で初めて選挙にクラウドファンディングを持ち込みました。家入氏はネットを使って多くの支援者に応援を呼びかけて資金を募り、選挙費用を賄おうと考えたのです。
※家入氏のクラウドファンディングページ( http://shootingstar.jp/projects/565 )
候補者と有権者にとって、ネットの活用は選挙のカタチを変えるのか
ネットはうかつに書き込みをすれば揚げ足を取られ、問い合わせ対応にも手が取られるなど、これまでは候補者にとってデメリットばかりが目立っていたかもしれません。しかし、ネットをうまく活用することで「個人から効率よく資金を集める」ことができるなどメリットもあります。そして、私はネットを活用した選挙活動がより多くの有権者にとって選挙を身近なものにし、投票を促す機会になるのではないかと考えています。
多くの国民にとって政治参加とは、数年に1回の選挙において投票に行くことだけですが、候補者に応援とともに資金を提供することは第二の政治参加機会となるのではないでしょうか。
「政治とカネ」の関係を健全なものに
今回の都知事選挙はそもそも猪瀬氏の「カネ」に関する疑惑によって生じたものです。選挙資金か個人的用途かにかかわらず、あるいは寄付か融資かにかかわらず、特定の人から多額のカネをもらってしまうと、どうしてもその人の意見に左右され、政治が歪んだものになってしまいます。あるいは「それとこれとは別だ」と線引きを主張してみたところで、多くの人はその関係を疑うでしょうし、一度信頼をなくせばその後の政治が滞ってしまいます。政治や選挙に関して長らく問題視されている「カネ」の問題を解決し、健全なものにするための有効な方法として、「たくさんの個人から少しずつの応援と資金を集め、堂々としがらみのない政治を行う」というのは有効なのではないでしょうか。
ネット選挙の解禁は、選挙にクラウドファンディングを持ち込むことを可能とし、多くの有権者に選挙への新たな関わり方を提示したとも言えます。今回の都知事選では、家入氏がいったい何票獲得するかということに加えて、いったいどれだけたくさんの方から資金が寄せられるのかということにも注目したいと思います。結果によっては、ネット休業中の政治家も慌ててパソコンに向かい、真剣に情報発信に取り組むようになるかもしれませんね。