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ニューヨーク市長と都市のビジョン

  • 佐久間裕美子 (文筆家)
  • 2014年2月3日

津田大介さんから都知事選についての原稿の依頼を受けて、せいぜい年間1カ月くらいしか東京で過ごさない自分が、何について書けば貢献できるのか、考えてみた。

自分はニューヨークという、東京と並ぶ国際都市に住んでいる。ニューヨークは首都ではないが、アメリカのなかで文化的首都のような存在なだけに、似ている点も多い。そしてニューヨークは、過去12年の間に大きな変貌を遂げた。

私はニューヨークに暮らして今16年目だが、マイケル・ブルームバーグという前市長下の12年間で、市長の手腕いかんで街がこれだけ変わるものかと実感した。ブルームバーグ市長は、刺激的だけど、汚くて、怖いというイメージの強かった街をクリーンアップしてイメージアップを図った。企業を誘致し、観光業に力を入れて、雇用を創出した。犯罪率を低下させ、市民に健康の大切さを説き、自転車専門レーンを導入して、緑化を図った。その独裁的とも言える市政のスタイルには賛否両論あったし、自分も彼のやりかたを好きかどうかいまだに決めかねているが、少なくとも、ニューヨークは過去12年間で大きな変貌を遂げ、ニューヨークを訪れる観光客の数と観光からの収入が、大幅にアップしたことは、誰にも否定できない。

ブルームバーグ市長の資質のなかでもっとも特筆すべきは、ニューヨークがどうなっていくべきか、そして、その姿に近づくためにどうすればいいか、明確なビジョンを持っていたということである。ニューヨークが栄えるためには、観光業が必要で、そのためには街をクリーンアップしなければいけないと、政策をブルドーザー的に推し進めた。そのビジョンを推し進めるためには、国政にケチをつけることも厭わなかった。不景気とともに厳しくなったアメリカの移民政策が、経済や観光業の障害になると主張し、市政を退いた今も、ワシントンDCに出向いてロビイングを行っている。

都政は誰がやっても同じという意見があるが、それはやる人と、都民の姿勢次第だろう。東京の電力使用量を鑑みれば、原発が争点になるのは当然のことだと思う。議論されるべきは、原発を廃止するとしたら、どうやってそれを実現するかだ。五輪の問題は、五輪に賛成か反対かではなくて、都として世界に向かってコミットしたはずの五輪を、どう東京のベネフィットにしていくかを議論するべきだ。

海外に住んでいる自分だから勝手なことが言えるのかもしれないが、東京は、観光地としての魅力をありあまるほど抱えながら、今ひとつマーケッティングが上手じゃない。これまで都知事の座についてきた人物も、お世辞にも、国際感覚があるとは言いがたい政治家ばかりだった。けれども、東京五輪が決まった今(個人的に賛成か、反対かは別として)、向こう7年間、東京を世界にマーケットするチャンスが待っている。

次の都知事が、今後の東京のあるべき姿をビジョンを提示できる人間であることを望む。

著者プロフィール

佐久間裕美子
さくま・ゆみこ

文筆家

文筆家。1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。カルチャー、ファッション、政治、社会問題など幅広いジャンルで、インタビュー記事、ルポ、紀行文などを執筆する。著書に「My Little New York Times」(Numabooks)、「ピンヒールははかない」(幻冬舎)、「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。8月8日に文藝春秋から「真面目にマリファナの話をしよう」刊行予定。 慶應義塾大学卒業、イェール大学修士過程修了。

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