猪瀬氏が辞任したことで急遽都知事選が行われることになり、都民にとっては迷惑な話だ。何しろ、この3年間で3回目、今回の選挙でかかる費用、つまり都民の税金は50億円と言われている。前回、前々回の費用を足すと3年で100億円以上が注ぎ込まれている訳で、それを聞いたらほとんどの都民が勘弁してくれ、と言うだろう。
そして、今回の候補者の面々を見ても、今一つピンとこない人が多いのではないか。筆者の周りでも、誰にしたらいいかわからない、まだ決めていないと言う人が多い。とはいえ、この16人(!)の候補者の中から都民は誰かを選ばなければならない。
そこで、今回、私達都民が考えねばならないことを列挙してみた。
都知事選は国政選挙ではない。衆議院議員を選ぶのでもなければ、参議院議員を選ぶのでもない。あくまで東京都という地方自治体の首長を選ぶ選挙である、と言うことを改めて指摘しておきたい。
脱原発
その上でよく各候補者の公約を見てみると、「脱原発」とか「打倒安倍政権」とか、国政レベルや政局まがいのものが散見される。とりわけ無責任の極みが「脱原発」である。そもそも日本のエネルギー政策の中で決めるべき話であり、何故東京都知事が脱原発を謳わなければならないのか、理解不能である。その点、猪瀬元知事は、お題目を唱えるのではなく、具体策に動いていた。それが、湾岸地区などを候補地にした最新鋭の高効率ガス・コンバインド・サイクル方式天然ガス発電所の建設計画だった。
ガスタービンと蒸気タービンとの組み合わせによるこの新型火力発電のメリットは:
(1)発電効率が60%超と、従来型に比べ2〜3倍近いこと
(2)建設コストが安いこと
(3)CO2排出が少なく、災害時にも原子力発電所のように放射能汚染の可能性が無いこと
(4)燃料となる天然ガスの埋蔵量がおよそ400年分と豊富にあること
などである。この計画は一体どうなるのか? 誰も明確に語っていない。
防災
また、一部の候補者は触れているが、「防災対策」はどうするのか? 猪瀬元知事は、老朽化した地下のガス管を高耐震性継ぎ手で繋がれた新型管に変える計画を推進していた。また主要道路沿線の老朽化建物の建て替えを都が財政支援する条例を制定し、これも推進していたが、こうした政策の継続性はどうなるのか?
それに加え、首都直下で大規模火災発生が不可避の環状7号線沿線の木密地域の建て替え促進をどうするのか? 喫緊の課題であるが、各候補者の公約からは具体策が見えてこない。
また、今都内は超高層マンションの建設ラッシュだが、震災時は高層マンション難民が大量に発生する。首都直下地震の際には、都内に通勤している近隣県都民も含め数百万人が帰宅困難者となるが、彼らの為の避難所整備、けが人発生時の対応、備蓄食料対策などはどうなるのか?
オリンピック
さらに言えば、オリンピック開催に関連する様々な施策の問題がある。私はかねてからオリンピックは東京を環境と人間にやさしい街にする好機であると主張してきた。
具体的には:
(1)バリアフリー化の促進 圧倒的に不足している都内各駅へのエスカレーターやエレベーター設置を促進し、弱者にやさしい街づくりを実現。
(2)グリーン化の促進 山手線内のタクシーを総てEV化。各駅には電動自転車のシェアリング・ステーション設置。高層ビルの壁面緑化の促進。
(3)歩車分離の促進 自転車専用道路の設置。都内通行車両の規制による渋滞緩和。公共交通機関の24時間化による景気刺激策実施。東京メトロと都営地下鉄の統合検討の継続。
(4)女性が働きやすい街づくり 保育所の整備、病児保育の環境整備、結婚・出産を機に離職している待機労働力の復帰促進の為の施策拡充。
(5)外国人旅行客にやさしい街づくり 空港から都心へのアクセスの改善。フリーWi-Fiを地下街含め都内全域に整備。東京の魅力(美術館、レストラン、公園、コンサートホールなど)を発信する無料アプリの配布とAR(拡張現実)を使った情報提供。駅や公共の場における案内表示の外国語表記の拡大。外国人向け通訳、道案内のボランティア配備拡大などである。これらの施策を誰が推進してくれるのか?
こう考えると、東京都の首長がやらねばいけないことは山ほどある。私達が2月9日に選ぶ新都知事には、こうした施策を本当に実現してくれるのかどうか、という観点で選ぶことが肝要であろう。早くも低投票率がささやかれているが、私達が考えている以上に、東京都知事選は重要である。今一度、都がやるべきことは何なのか、考えて投票所に足を運びたい。