ポリタス

  • ハイライト
  • Photo by Mo Riza (CC BY 2.0)

世界の主について

  • いとうせいこう (作家・クリエーター)
  • 2016年7月6日

参院選と都知事選が近づいています。

できるだけ多くの人に投票に行ってもらいたいものだと思っておりますが、ひょっとしてまだ迷っていたり、当日になって行かなかったりしそうだなあと感じている人はいないでしょうか。自分のような無党派層なんてバラけてなんの力もないんだ、とシラけた気持ちになっているかもしれません。

しかし、いくらシラけた気持ちになっていても、あなたは投票に行った方がいい。なぜか?

ひとことで言いましょう。

あなたが投票するべきなのは、あなたは「世界の主(あるじ)」だからです。

「世界の主」は意見を言うべきなのです。

そうでなければ、政治は「世界の主」に意見がないと判断して、あなたに不都合な世界をもたらそうとします。なぜなら意見を言いたくない社会にしたのは彼らだから。それはゆくゆくあなたから「世界の主」である権利を奪うでしょう。

彼らこそ「世界の主」でありたいからです。

たとえ、あなたの意見が投票行為として敗北をもたらしたのであっても、「世界の主」がどう考えたかは「世界の主」たるあなたの中に残ります。同時に票数を誰よりも気にする人たちが記憶に残し続けます。「何万、何十万のうちの一人」が恐いから。

一人はすぐに「何万、何十万」になるから。なにしろ、あなたたち「世界の主」が無党派層だから。

選挙とはそもそも市民を「世界の主」とする制度です。不完全ではありますが、あなたが票を箱に入れる瞬間、あなたは確かに「世界の主」であり、ネットの中で商品を勧められているあなたと少し違います。

あなたは〝他の商品を買わない〟ことで未来を変えられるのですからね。

言っておきますが「世界の主」は独裁者ではありませんよ。だから意見が通らないこともあるのです。

そして、「何万、何十万のうちの一人に過ぎない」からといって、あなたの存在価値が減じることはありません。あなたは集団として大きな力を持つ。そういうタイプの「世界の主」だからです。多にして一、一にして一。なんだかそういう不思議な存在です。有権者というのは。

ともかく、投票権を誇りにして下さい。

それを行使することは、「世界の主」の主たるゆえんの見せ場なのです。

そこを失ったら、あなたは「世界の主」である瞬間を味わいそこねます。

では行ってらっしゃい、ご主人様。

※この原稿は『はじめて投票するあなたへ、どうしても伝えておきたいことがあります。』(ブルーシープ、2016)の内容を一部編集して再構成したものです。全文はぜひ書籍をご購入ください。

Amazonで購入→『はじめて投票するあなたへ、どうしても伝えておきたいことがあります。

著者プロフィール

いとうせいこう
いとうせいこう

作家・クリエーター

1961年東京都生まれ。作家、クリエイター。早稲田大学法学部卒業後、出版社の編集を経て、音楽や舞台、テレビなどの分野でも活躍。1988年、小説『ノーライフキング』でデビュー。1999年、『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞受賞。他の著書に『ワールズ・エンド・ガーデン』、『存在しない小説』、『ゴドーは待たれながら』(戯曲)、『文芸漫談』(奥泉光との共著、後に文庫化にあたり『小説の聖典』と改題)、『Back 2 Back』(佐々木中との共著)、『想像ラジオ』など。最新刊は『我々の恋愛』。

広告