ポリタス

  • 視点
  • illustrated by 今日マチ子

【沖縄県知事選】政界再編を予兆させる新たな潮流の誕生

  • 仲村清司 (作家、沖縄大学客員教授)
  • 2014年12月3日


【撮影:初沢亜利】

◆自公崩壊を招いた知事選

10万票差——。当選した翁長氏と敗れた仲井真氏のこの票差をどう考えればよいのか。

「当初はトリプルスコア近い差が開くという予想もあったから、仲井真氏はむしろ善戦した」という評や、「下地氏が出なければこれほどの差はつかなかった」との声もあるようだが、そうではあるまい。

4人が立候補するなかで翁長氏の得票率は50%を超え、いわば単独過半数でこの知事選を制している。また、下地氏の7万票を足しても、36万票を集めた翁長氏に仲井真氏は届かなかった。やはり圧勝というほかないのではないか。

今回の知事選が残した数字はそれだけではない。約6万といわれる沖縄の公明党の票を上乗せしても仲井真氏は翁長氏に及ばなかった

公明党は同日行われた那覇市長選で、自民党県連が擁立した元副知事を推薦し、従来通りの自公体制で選挙戦を戦ったが、翁長支持勢力が推した新人候補にダブルスコアに近い数字で大敗している。

これらの点を考え合わせると、今回の知事選は翁長氏の「圧勝」という表現にとどまらず、1998年以降16年間続いた自公体制の崩壊を意味する選挙だったともいえる。


【撮影:初沢亜利】

◆みずから争点を明確にさせたことが敗因

沖縄には独特の政治風土がある。意外と知られていないが、都道府県別でみると、近年の国政選挙(2009年衆院2010年参院2012年衆院2013年参院)における比例代表の自民党への得票率は、沖縄県がほとんど最下位なのである。昨年の参議院選挙だけが46位で、自民党が大勝した2012年の衆議院選挙、政権交代を生んだ2009年の衆議院選挙でも最下位。この傾向には変動がない。

他方、社民党の得票率は2009年の衆議院選挙が全国2位になった以外、すべて全国1位である。同じ革新勢力の共産党も2009年の衆議院選挙が7位2012年の衆議院選挙が4位と全国上位の得票率を記録している。

要するに沖縄は全国一自民党が票を稼ぐのに苦労し、革新勢力に票が流れやすい地域ということになる。

こういう構図が、東西冷戦が終焉しても全国で唯一沖縄だけが55年体制そのままの保革対決を生み続ける土壌を生んだわけだが、その背景にあるものはいうまでもなく「基地問題」である。


【撮影:初沢亜利】

ところが、前回書いたように(『沖縄が沖縄であり続けるための選択』・11月15日)、沖縄の保守は基地反対を貫く革新と一定の親和性があり、基地問題を政策課題に抱えざるを得ない歴史を歩んでいる。

それゆえ、どの保守県政も基地拡張については拒否の姿勢を崩さず、一貫して既存基地の整理縮小を訴え続けてきた経緯がある。いいかえれば、それが沖縄独自の「伝統保守」のアイデンティティであった。

それゆえ、これまでの保守はどの知事戦も対立軸を「基地」にはせず、「経済」を最優先の課題として対置させる選挙戦術を忠実に踏襲してきた。基地問題を最大の争点にするような選挙にしてしまうと容易には勝てないことを熟知していたからである。

その経験則を無視し、なりふりかまわずお金と埋め立てを談合したのが仲井真氏だったというわけだ。

今回のように、経済界の重鎮が北谷や新都心の経済効果や雇用実績を引き合いに出して、「基地こそが経済発展の阻害要因」と主張して、選挙運動に乗り出したのは県政史上初めてのことである。


【撮影:初沢亜利】


【撮影:初沢亜利】

しかも県民には反仲井真感情が沸点に達した「いい正月」発言が脳裏に刻み込まれている。つまるところ、仲井真氏本人が基地そのものの存在を問う選挙にしてしまったわけである。そうなれば票は割れる。先の得票率が示しているように、沖縄は反基地を主張する政党の存在感が大きい。

結局、仲井真氏は前回の得票数から7万5千票も減らしてしまった。出口調査によると自民党支持者の2割、公明党支持者の4割が翁長氏に流れたという。かくして、沖縄における自公体制は「神話」と化した。

◆衆院選も基地問題が争点 

その矢先の解散・総選挙となった。10万票の差が及ぼす影響は実数以上に大きい。

県政と市政をダブルで失った自民党は「平成の琉球処分」と称された例の現職4氏の出馬が確実視されている。しかし、巷では「どのツラ下げて」という声が飛び交っていて、公明党県本部も新基地を容認する候補者の支持はできないと明言している。逆風下での選挙戦を強いられることは必至である。

独自候補を擁立できず、自主投票を決め込んだままの民主党はこれまで以上にその存在理由が問われることになるだろう。

他方、翁長氏を当選させたオール沖縄は衆院選でも保革の枠組みを超え、沖縄内の全4選挙区新基地建設に反対する候補者を擁立する方針を決定したことが報じられている。政界再編の可能性を予兆させる動きといっていい。


【撮影:初沢亜利】

辺野古では選挙結果などまるで無視するかのように海上工事が再開され、22日には事実上の埋め立てとなる仮設桟橋の作業が開始されるともいわれる

このまま工事を強行すれば、沖縄では消費増税よりも新基地建設問題が争点になるのは確実で、「日本」との関係を問う動きや運動も活発になっていくだろう。

いずれにせよ、日本の尻尾は胴体を揺さぶるほどの存在になりつつある。「本土」はそのことに気づくべきである。


【撮影:初沢亜利】

著者プロフィール

仲村清司
なかむら・きよし

作家、沖縄大学客員教授

1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。作家。沖縄大学客員教授。96年、那覇市に移住。著書に『本音の沖縄問題』(講談社現代新書)、『本音で語る沖縄史』(新潮社)『島猫と歩く那覇スージぐゎー』(双葉社)、『沖縄学』『ほんとうは怖い沖縄』(新潮文庫)、共著に『新書沖縄読本』(講談社現代新書)、『これが沖縄の生きる道』(亜紀書房)など。

広告