◆新琉球処分
私は35歳になるが、今回の選挙はこれまで経験してきたなかで、最も重要で将来を左右する大変な歴史的場面に出くわしているように思える。もしこれで仲井真氏が当選でもしたら、沖縄はもう永遠に政府に対して、物も言えなくなるのはもちろん、「やっぱり沖縄は金目当てか」という烙印を押され、どうしようもないBADエンディングが待ち構えていると思うと、恐ろしくてならない。400年前の1609年に薩摩藩が琉球を侵略し、1872年から1879年にかけての琉球処分により、琉球藩から沖縄県へと強制的に日本へ組み込みまれていった時から続く、差別的な歴史物語の延長線上にこの選挙はある。
2013年11月に沖縄県選出の自民党国会議員たちが石破幹事長(当時)の「説得」により辺野古移設反対の公約を破棄して記者会見でさらし者にされた。あの場面は今でも私や多くのウチナンチュの心にショックと怒りで刻まれている。
そして同年12月の仲井真知事の「いい正月」会見はまさに“新琉球処分”というにふさわしい歴史的な悪夢だった。この400年の物語を「有史以来の予算」と仲井真氏が言う沖縄振興策などくだらない金の話で終わらせてはならない。
◆沖縄振興策で本当に振興するのか?
私は沖縄県の北部、やんばるの本部町で小さな珈琲屋を営んでいる。店は古い町営市場の中にあり、家族5人で何とかやっていけるぐらいの稼ぎではあるが、毎日楽しく市場の仲間たちや地域の人たちと暮らしている。この町営市場は8年前までは若い人は誰も見向きもしない、いわゆるシャッター商店街だった。私は数名の仲間とイベントを考え手作り市を運営し、コツコツと市場の再生に取り組んできた。資金は手作り市の参加費を積み立てやり繰りしてきた。数年前から空き店舗も解消し、徐々に観光客などにも注目される市場になってきたと自負している。
しかし、最近町内で一括交付金をふんだんに使ったイベントが増えてきた。悪いがそのどれもがほとんど成功していないといっていい。補助金がないと継続できないような企画ばかりだ。これは振興策ではなく依存政策だ。案の定、知事選が近づいてくると新基地反対から仲井真氏に乗り換える地方首長が続出した。一括交付金がなくなるのが不安で仕方がないらしい。しかし必要な場所に効果的に補助金を入れるのは行政や国の役割である。沖縄だけが基地負担を引き換えに、振興策をちらつかせられるということ自体がそもそも腹立たしい。
◆ショッピングモールだらけの沖縄
沖縄には那覇新都心や北谷アメリカンビレッジなど、いくつかの基地返還地があり、その経済効果は、その土地が米軍基地であったときの非ではないほどの、雇用や税収を生み出している。「基地が不経済」というのはいまや常識となり、基地経済に頼っているのは一部の土木利権など既得権益のある方々である。しかし北谷などの街並みをみていると、これが本当に沖縄の望んだ姿なのだろうかと空しく思うこともある。郊外型の飲食店や量販店が並び、まるでどこにでもある日本の地方のようだ。基地返還を選んだ結果が「凡庸な地方」への埋没だとしたら皮肉である。しかも大抵の場合、それらの店舗は本土資本なのだ。
現在北中城村の米軍アワセゴルフ場跡地にイオンの巨大なショッピングモールが建設中であり、完成すると地域の若者や家族連れが週末になると大挙して押し寄せることは目に見える。その影では周辺の歴史ある商店街や小売店がシャッター街になっているのを忘れてはならない。ショッピングモールも国際会議場も、よくわからない研究施設もいらないから、沖縄的な地域コミュニティーが持続可能な新しい街をつくってほしい。
◆結局のところウチナンチュがどうするかという話
さて選挙の話に戻るが、結局のところウチナンチュ一人ひとりが、どういう沖縄を目指すのかということを、常日頃から考え実行しなければいけない。400年間の長い眠りから目覚め、基地のない自立した沖縄を目指すのか、金で終止符を打つのか。私は「オール沖縄」で基地と決別を目指す翁長氏に入れることにしているが、選挙後に「日本市場の“お客様”」に陥らないようにがんばるのは結局ウチナンチュの意識次第である。選挙に勝っても、「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」という沖縄を作らないように、ウチナンチュがんばりましょうねー!