ポリタス

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  • illustrated by 今日マチ子

【沖縄県知事選】翁長氏勝利の背景とネット選挙の考察

  • 知花竜海 (ミュージシャン/Peace Music共同代表)
  • 2014年12月1日


【撮影:初沢亜利】

◆うちなーぐち(沖縄語)の復興

ハイサイめんそーれ」——ここ数年沖縄を旅行したことのある人はコンビニの銀行ATMがしゃべるこの自動音声の挨拶に驚いた経験があるだろう。2009年にユネスコ(国連教育科学文化機関)が消滅の危機にあるとして琉球諸島の6つの言語を認定したことなどもあり、「うちなーぐち(沖縄語)、しまくとぅば(島々の言葉)」復興の気運が年々高まっている。那覇市役所では2012年から「ハイサイ運動」と称し、窓口職員が「ハイサイ(こんにちは)」という挨拶をするようになった。今回翁長氏が「イデオロギーよりアイデンティティー」というスローガンを掲げて勝利したことの背景に、彼が那覇市長として市をあげて「うちなーぐち」の復興に取り組んできたことへの評価も少なからずあるだろう。そもそも「うちなーぐち」は、日本が琉球王国の同化政策を進める上でしゃべることを禁止したことで廃れていった。昔、学校で沖縄語を使った生徒の首に罰としてぶら下げた「方言札」の話や、戦時中に沖縄の言葉でしゃべったものが日本兵からスパイ容疑をかけられ処刑された話などは、「うちなーぐち」という言語を理解する上で避けて通れない。そのような歴史的背景から来る「反日感情」と、その後現在まで続く基地問題をはじめとした「構造的差別」への反発は、琉球文化の再評価や祖父母の世代との深いコミュニケーションを目指す優しい心と相まって、琉球アイデンティティーの再確認や言語復興の気運という形で現れてきている。


【撮影:初沢亜利】

◆差別体験の共有

僕の父親ぐらいまでの世代は集団就職で本土に出稼ぎに行った際に、居酒屋で「琉球人・朝鮮人お断り」という張り紙を目にしたり、職場であからさまな差別を受けたりしてきている。そのことはポリタスにある平良朝敬かりゆしグループCEOの記事でも言及されていた。今年34歳の僕でさえ、高校時代の夏休みにイギリスに短期留学した際、同じく日本本土から来た高校生たちに「毎日サトウキビかじってるんでしょ」「日本語上手だね」「みんな英語しゃべれるんでしょ」「帰りにマックとか寄れるの?」といった質問攻めにあったことがある。彼らには何の悪気もなかったと思うし、その後友達になり、留学中は「沖縄くん」と呼ばれた。世代によって程度の差はあれど、沖縄の人たちが県外で受けてきた差別体験の共有も、「これ以上、本土に都合良く利用されてたまるか」という翁長氏の言葉に共感が集まった理由だと思う。


【撮影:初沢亜利】

◆「新聞世代」と「ネット世代」のギャップ

翁長氏の圧倒的勝利という結果は、「沖縄のアイデンティティーを大事にしたい」、「これ以上基地はいらない」という意見の人の方が実際の数として多いことを示していると言えるだろう。しかし選挙期間中、TwitterやFacebookなどのSNSで中国脅威論などと絡めた翁長候補のネガティブキャンペーンや誹謗中傷動画やサイトを拡散する人の姿も多く見られた。新聞世代とネット世代との情報ソースによるジェネレーションギャップも感じた。沖縄戦を体験したお年寄りやそれを聞いて育った世代は、歴史が繰り返されることへの危機感から、車イスや杖をついてでも選挙に行く。僕自身92歳のオバーを連れて投票に行ったが、その姿に身が引き締まる思いだった。沖縄戦の語り部の方も年々高齢化が進み、戦争にリアリティーを感じない「ネット世代」に歴史をどう継承していくかが課題になってきている。


【撮影:初沢亜利】


【撮影:初沢亜利】

◆メディアリテラシーとマナーとリスペクト

政策の比較や批判は当然あっていいが、真偽の定かでない憶測や、個人の容姿や人格への誹謗中傷はマナー違反だと感じた。ネットでの選挙活動が解禁になった今、色んなキャンペーンが多額の予算をかけて戦略的にしかけられているだろう。情報を鵜呑みにするのではなく、真偽や編集者の意図を見抜き、取捨選択していかなくてはならない時代になった。僕自身は好きな野球チームの話をするような感覚で選挙の話が出来るようになればいいなと思っているが、どうしても選挙中はギスギスした空気を感じた。しかし「スポーツでもダンスでもラップでも、バトルは本気でやりあっても、終わったら恨みっこ無しで握手が基本。手法は違えど、島を思う気持ちはみんな一緒。問題山積みの沖縄ですが、みんなで力を合わせて良い未来作る為に頑張っていけたらいいな!」という僕の選挙後のFacebook投稿に、それぞれ政治的意見の違う友達からの「いいね!」がどばっと付いたことは驚きと喜びであり、未来へのヒントを感じさせるものだった。

著者プロフィール

知花竜海
ちばな・たつみ

ミュージシャン/Peace Music共同代表

言葉遊びの中に深いメッセージをちりばめた歌詞と、ロック・レゲエ・ヒップホップ・沖縄民謡などをチャンプルーした雑食な音楽性が魅力。2001年にミクスチャーロックバンド「DUTY FREE SHOPP.」としてアルバム「カーミヌクー」を発表。2004年に沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故をテーマにした楽曲「民のドミノ」をラッパーの「カクマクシャカ」と共作し話題を呼ぶ。2012年1stソロアルバム「新しい世界」発表。SOUL FLOWER UNIONの伊丹英子と共に名護市辺野古の浜で野外音楽フェス「Peace Music Festa!辺野古」を開催するなど音楽を通して沖縄の社会問題にも積極的に取り組む。

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