ポリタス

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【沖縄県知事選】僕は沖縄を知らない

  • 浅生鴨 (作家、クリエイティブ・ディレクター)
  • 2014年11月13日

◆沖縄のイメージ

沖縄県知事選についてのコラムを依頼されて、実のところ、僕はとても戸惑っている。

僕は周りの人がびっくりするほど、政治については何も考えていなくて——いや、どこか頭の隅の方では考えているのだろうけれども——何かを表立って口にできるほどの知識を持ち合わせてはいないし、きちんと本気で考えているとも言えない。そんな僕が、これまで一度も訪れたことのない沖縄県について、ましてやその知事選について、いったい何を書けばいいのかと、本当に戸惑っている。

僕は沖縄について何も知らない。自分でも驚くほどだ。沖縄といえば、きれいな海とエイサーと独特の音楽とゴーヤーチャンプル。それくらいしか知らない。いやもちろん、もう少しいろいろなことを知っているし、沖縄の抱えている様々な問題についても多少の知識くらいはある。でも、あえて極端に言うとすれば、ふだん僕が考えている沖縄はその程度のイメージでしかない。つまり僕は、沖縄と沖縄が長く抱え続けている問題について、日ごろまったく何も考えていなかったわけだ。

沖縄の県知事選挙が行われる。正直に言うと、そう聞いても僕は何も感じなかった。ふうん、そうなんだ。そんな感想しか持たなかった。そりゃ僕だって、あちらこちらで聞きかじってきた知識や、電車の中吊りで見た週刊誌の見出しを借りてきて、その場限りの何かを言うことくらいはできる。上っ面な指摘をして、国の政策と地元の願いとの矛盾を並べることだってできる。日本の安全保障だとか地政学なんて単語を使うことだってできるだろう。

でも、僕は本当に沖縄のことを考えていたのか、本気で沖縄の問題を知ろうとしていたのかと聞かれると、とてもイエスとは答えられない。そして、それはきっと僕だけではないはずだ。少なくとも僕は今まで、普段の暮らしの中で沖縄の問題について、きちんと誰かと話をしたことがない。もしかすると、沖縄の本当の問題はそこにあるんじゃないだろうか。ここにきて、ようやく僕はそう感じ始めている。

◆変わる世界の構造、変わる沖縄と日本

政治に関心のある人に聞くと、沖縄の人たちは怒っているという。沖縄のことを知ろうとしない僕たちに、沖縄をすっかり忘れてしまっている僕たちに怒っているという。申しわけないと思う。でも、これまで僕は本気にはなれなかったのだ。

中途半端な知識ながらも、沖縄の雇用環境が良くないことは僕だって知っているし、在日米軍基地に関して言えば、間違いなく僕たちの暮らしの一部を、それもかなり大切な一部を、沖縄の人たちに押し付けてしまっていることもわかっている。そういう自覚だけは残っている。でも、そのことで沖縄の人たちに感謝をしていたかと言えば、まったくそんなことはなくて、遠いところで何やら大騒ぎしているなあという程度の認識しかなかったのだ。

どうして僕は沖縄に関心がなかったのか。それはきっと、本気で考え出すと切りがなくて、なかなかいい方法が見つけられなくて、沖縄だけに留まる問題でもなくて、そして、今までのところは何とかごまかし続けて来られたからなのだろう。つまり僕は逃げて来たのだ。いま自分が暮らしているこの国のあり方を本気で考えることから。僕には関係のないことだと知らぬふりを装いながら。そのことによって沖縄の人たちが、どんな悩みを抱えているのかには目をつむりながら

繰り返すけれども、僕は沖縄のことを知らない。メディアを見てもよくわからない。今回の選挙についての報道も、東京から発信されているものと沖縄から発信されているものでは、どうも何かニュアンスが違っているような気がしてならないのだけれども、それじゃあ何が違っているのかと言うと、やっぱりよくわからない。

世界の構造は大きく変わり始めた。沖縄を知らない僕でさえ、あの聖域に閉じ込めた様々な矛盾と思惑と立場と事情が、今、少しずつ海を越えて広がりつつあるように感じている。僕たちは、もうごまかすことを止めなければならないのだろう。わからないと言い続けることはできないのだろう。米軍基地の問題にしても、雇用の問題にしても、ものごとはそれほど単純ではないだろうし、こうしたほうがいいなんていうアイディアが僕にあるはずもない。メディアで見聞きした生半可な知識で、知ったようなことを言うのはその土地で暮らす人にあまりにも失礼だし、そもそもメディアが取り上げる問題なんて、たくさんの問題の一部に過ぎない。

沖縄には、これまで僕たちがずっと目をつむってきたことが、川藻のように溜まっている。複雑に絡み合うそれらを自分たちの手で掬い取って丁寧に解きほぐさなければ、僕たちは、自分たちが何を目指しているのかもわからないまま、この先を生きていかなければならなくなる。

沖縄県の知事選だから、当然のことながら沖縄以外に住んでいる僕たちに選挙権はない。それでも、いずれ僕たちは一度しっかり立ち止まって、沖縄の問題を本気で考えなければならなくなるだろう。それは今後、世界とどう向き合い、どのように生きて行くのかという、僕たちの未来を考えることにつながっているのだから。考えなければならないことはたくさんある。せっかく関心の高まっているこの機会に、僕も沖縄について、まずは少しでも知ることから始めようと思っている。

著者プロフィール

浅生鴨
あそう・かも

作家、クリエイティブ・ディレクター

1971年、神戸出身。ゲーム会社、レコード会社、デザイン会社などを様々な業種・職種を経て、2004年からNHKに勤務。番組制作ディレクターとして「週刊こどもニュース」などの演出を担当。2009年にNHK広報局のTwitterアカウント「@NHK_PR」を非公式に開設。番組制作などの合間に行ったTweetが注目を浴び、"中の人1号"として話題を集めた。2014年にNHKを退職し、現在は広告の企画・制作、執筆活動などに注力している。ペンネームの浅生鴨は「あ、そうかも」という口癖が由来のダジャレ。著書に『中の人などいない @NHK_PRのツイートはなぜユルい?』(新潮社)、短編「エビくん」『日本文藝家協会・文学2014』収録(講談社)、「終焉のアグニオン」(新潮社「yomyom」にて連載中)

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